イミルアの心臓#2 少女の願い◆2(2016加筆修正版)
_レッドは柳の様に包丁をゆらゆら避けながら逃げる、逃げる! 「おいフィル、心霊現象だ! どうなってんだ!」 ところがフィルにもがらくたの群れがにじり寄っていた。フィルに飛び掛かる無数のがらくた! 「どうもこうも、観光スポットは心霊スポットだったのでしょうか」 41
2016-08-01 19:52:24_人形の手から包丁を落とすべくレッドは手刀を繰り出す。だが、人形は綿が詰まっており、ふにゃりと折れ曲がるばかりだ。そもそも包丁は磁石の様に手に貼りついている。取り落とすということは無かった。 「人間を捌いちゃいけないって学校で習わなかったのかよ!」 42
2016-08-01 19:56:43「こら、僕はゴミじゃないです」 フィルは飛びかかる掃除機に行く手を阻まれレッドに加勢できない。掃除機はブルンブルンとホースを振り回し、さながらフレイルのようだ。フィルは緑のマフラーを解き、鞭のように操って掃除機の攻撃を凌ぐ。 43
2016-08-01 19:59:42「どうしたんですこれは。まるでポルターガイストじゃないですか」 フィルは緑のマフラーを掃除機に絡ませると、逆に掃除機を振り回した! 掃除機はぐるぐると振り回された後闇の向こうへ放り投げられる。 「ごめん、誰かの大切な掃除機!」 44
2016-08-01 20:03:52_次なるがらくたがフィルを襲う。タンスがズシンズシンを歩きながら間を塞ごうとする! これではマフラーで対応できない。二人は延々邪魔をしてくるがらくたに次第に体力を消耗していった。 館を埋め尽くすがらくた全てが敵だ。 「なるほど、湖の水を飲み干すような労力ですね」 45
2016-08-01 20:09:37_四方八方から家具や道具が飛びかかり、人形たちは歩いて二人を包囲する。周囲のがらくたが二人に牙をむき逃げることしか出来ない。反撃して殴ったりしてみたものの、効いている様子は無かった。 「どうすんだ、このままじゃ……」 レッドが珍しく弱音を吐く。 46
2016-08-01 20:16:28_そのとき、甲高いホイッスルの鳴る音が聞こえた。がらくたたちは一瞬動きを止める。その隙に二人は包囲を突破することが出来た。 「こっちだよ! はやく逃げて!」 ホイッスルを持ち物陰から手招きする人物が一人。彼女の下へ二人は走る。追いかけるがらくた! 47
2016-08-01 20:24:59「助かる!」 フィルとレッドはその人物……一人の女性に導かれ館の中を走る。やがて凶暴ながらくたの群れは3人を見失ったのか、追いかけてくることは無かった。 がらくたが一つもない入り組んだ通路の陰で立ち止まる3人。 「危なかったね。私はシンクアイ。謎の少女ってわけ」 48
2016-08-01 20:28:21_ひらひらの服にレギンスを穿いた大人の女だった。歳の割には服装が幼い。長い髪は後ろで結んでいる。フィルとレッドは彼女に自己紹介と挨拶をした。 「少女……」 「うるさい」 シンクアイは神妙な顔で告げる。 「やられていたら忘れ物たちのしもべになっていたね」 49
2016-08-01 20:35:06_シンクアイは二人に話し続ける。 「観光客が途絶えてからというもの、忘れ物たちは自分を迎えに来るひとが来なくて気が立っているの。ああして実力行使に出て犠牲者に取り憑いて脱出しようとしてる。怒りは収まったと思うけど……気をつけてね。もう、全部あいつのせい!」 50
2016-08-01 20:39:46【用語解説】 【掃除機】 吸引の呪文がセットされた小型エンジンを持つ清掃機械。呪文は安い方だが、やはり掃除ごとに消耗するので高価な機械である。魔女の一派には掃除機の吸引の呪文を利用して魔力を集め一時的にブーストさせる流派もある。高い魔力が必要とされる飛行の呪文を行使する流派である
2016-08-01 20:51:28