イミルアの心臓#4 忘れ物は見つかりましたか?◆1(2016加筆修正版)
_市長はゆっくりとこちらに歩いてくる。その鎧の隙間からは赤く錆びた砂が零れおちて血痕のように地面に赤い花を咲かせていた。シンクアイの半身が覗くが、意識は無いようだ。 「イルミア……オオ……イルミア」 彼の現れた入口からは次々とがらくたが現れ鎧の塊に取り込まれていく。 91
2016-08-07 19:45:40_錆びたミシン、陶器の人形、本や機械……様々ながらくたが狭い入り口を押し開けるようにあふれ出しては市長の鎧に纏わりついていく。まるで別の生き物のように脈動し、セラミックタイルの床に触れてガチャガチャと騒がしい音を立てた。 92
2016-08-07 19:53:27「市長、どうしたんだいったい、あんたは……」 「ルールを……ルールを変えよ……オオオ」 まるで巨人だ。巨大な腕を振りかざす市長。 「トマトは潰れるのが……ルール……オオオ」 力任せに床にたたきつけ、風呂場のセラミックタイルがはじけ飛ぶ。 93
2016-08-07 20:00:52「オオオオオ……オオオ……」 市長は感情の塊となっていた。イミルアを渇望する意思だけが彼を突き動かしているようだ。しかし、がらくたが手足に纏わりついて足を引きずるようにしか進めない。 「心臓のありか……予想ですが。忘れ物は見つけてほしいがために行動する……ならば!」 94
2016-08-07 20:11:49「分かってきましたよ。虚像が何故生まれたか。イミルアさんは見つけてほしかった。だから当時の姿を残した!」 フィルは青いコートを脱ぐと、それを浴槽に静かに横たわるイルミアに被せる。 「手品を一つ。あなたの妄執を消してごらんにいれましょう」 そしてコートを取り払う! 95
2016-08-07 20:15:49_カラールは目を疑った。水の無い湯船からイミルアの姿が跡形も無く消えていたのだから。 狂ったように咆哮する市長。その身からはまるで血しぶきのように赤く錆びた砂が噴き出す! 「あんな虚像無くたって、カラールさんは大丈夫ですよ」 そのときカラールは何かに気付く。 96
2016-08-07 20:23:11「イミルア……?」 「ははっ、気づくのが遅いぜ」 レッドはにやりと笑って突進をする。出遅れまいとカラールも駆けだす。レッドのアドバイス。 「魔法陣を支配するのは感情だ! 一瞬も迷うなよ!」 「ごめん……失格だよ。忘れないなんて言ってさ、こんな近くにいたのに!」 97
2016-08-07 20:28:00_猫の様に飛び掛かったレッドは市長の注意を引き付ける! その隙にカラールは市長の懐に突っ込み、シンクアイを掻き出した。彼女は赤い砂まみれで着ている服もぼろぼろだった。目をつむったまま動かない。 「イミルアはこんな女ではない……」 呻く市長。 98
2016-08-07 20:32:51「魔法陣を支配したのに……どうして思い通りにならない。どうして……オオオ」 市長は錆の涙をこぼす。 「お前らは卑怯だ……何でも思い通りにする……俺とお前……何が違う」 「僕らは観光客だからさ、見るだけなら自由なんだよ」 「姿が消えただけで感情が揺れた市長さんの負けです」 99
2016-08-07 20:38:04_カラールはシンクアイを抱き寄せ、狂ったように腕を振る市長から離れた。 「僕にはわかる……君は僕の失くしたものだって」 彼は優しくシンクアイの顔についた錆をぬぐった。優しく……とても優しく。 100
2016-08-07 20:43:04【用語解説】 【浴槽】 灰土地域の都市国家の多くは、大陸を南東から北西に向かって横断する巨大な大河、聖河に沿って点在する。これは聖河の水資源と氾濫による農地の肥沃化が理由である。川沿いの都市国家は水道橋を建設して豊富な水資源を利用し、湯船にお湯を並々とはって風呂を楽しんでいた
2016-08-07 20:51:33