メイキング・オブ・『むらさきの夜』 ―歴史短編小説の知らなくてもいい詳細―

『近代ドイツ史創作アンソロジー』に寄稿した短編小説『むらさきの夜』を読む時に参考にしていただけたら…と思う作者のツイートをまとめてみました。
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はじめに

近代ドイツ史創作アンソロジー『Wanderlied』を手にとって下さったみなさま、本当にありがとうございます。

偶然このまとめを目にした方のために…
『Wanderlied』はフランス革命から第二次世界大戦終戦までのドイツ史をテーマにしたマンガと小説をあつめたアンソロジー同人誌です。

BOOTHにて通販も受け付けております。

今回は、そのなかに収録していただきました拙作『むらさきの夜』のビジュアルや背景を補足するためのツイートをまとめてみました

わたしの本来の執筆分野は1900年台から第一次世界大戦が始まる前までのオーストリア・ハンガリー帝国の帝都ウィーンです。
今回アンソロジーに掲載していただいた短編小説は、舞台こそ第一次世界大戦後、ワイマール共和国時代のベルリンではありますが、現実が不断の連続性を持つように、戦前のウィーンという世界の延長として書かせていただきました。

※『Wanderlied』をお持ちの方は、これ以外の歴史背景、出てくる楽曲についての解説が読めるページがこちらにあります。
『むらさきの夜』 解説編
本誌あとがきコーナー、しゅにっつぇるのコラム内にあるパスワードを入力するとお読みいただけます。

墺洪軍歩兵幼年学校制服

まずは冒頭シーンで主人公が着ている『墺洪帝国軍歩兵幼年学校』の制服について。これは以前のまとめ
『オーストリア・ハンガリー帝国軍の制服、ちょっとだけ薀蓄話 (歩兵中心)』
ですでにご紹介したものの再録です。

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

墺洪軍幼年学校生制服は、基本的にその兵科の一般兵制服が基本になっています。歩兵であればIR1のエガリジールングと決められているので、深紅。右は以前ご紹介した「幼年学校生になりすました伯爵令嬢」左は第一連隊一年志願兵。襟章以外は同じ。 pic.twitter.com/z59ZP95cEo

2016-05-18 02:51:21
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

墺洪軍歩兵上衣。下士官及び兵のものは、肩の部分が士官とは違う。歩兵幼年学校生のものも基本は同じ。この肩の切り替えにある輪のような突出部分、ドイツ語でWulstというのだけれど、カタカナにするとヴルストと同じになってしまうのが悩み…。 pic.twitter.com/Jj7PELVJcM

2016-06-09 05:37:57
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

Wulstはクッションやパッドと訳してもいいのですが、味気ない気もします。縁取り(パスポワー)とか、連隊色(エガリジールング)とか、墺洪軍服用語には綺麗なことばが多いので、出来るだけそのままにしておきたいとも思いますが、これはなあ…。図は『1910/11墺洪軍服装規定』S.46

2016-06-09 05:47:56
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

こうして悩んだ末に… 「血のように深い赤色をした肩章の端と、肩の切り替えに沿って盛り上がるようにつけられた同色の三日月のような輪」 という解決策をとったのでありました…。この言葉であのビジュアルが想像できるかというのが悩み。絵を描けないひともそれなりに頑張っております…。

2016-06-09 06:18:19

ヴァージニア葉巻

つぎはベルリン、シャルロッテンブルクにお住まいの例のご婦人が吸っていた葉巻のご紹介。

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

きょうの葉巻はオーストリアを代表する葉巻、Virginia。藁の吸口のついたこの葉巻は、フランツ・ヨーゼフ帝のお気に入りとしても知られています。そんなわけで香水はとりわけオトコマエな香りを選んでみました。クリードのアヴェントゥスを。 pic.twitter.com/PUt0AlQ5oA

2016-06-17 22:26:09
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

この葉巻、はじめに藁を引き抜くこと、そして、吸口の長さである6cmあたりで吸い終える必要があります。先日の家具博物館でのFJI展に展示されていた「皇帝が吸われたヴァージニア」(侍従長ケッテル所有)という珍品もこの長さでした(笑) pic.twitter.com/pIhiuc9uBf

2016-06-17 22:58:22
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

この由来から、ヴァージニア葉巻は墺洪帝国時代を扱った文学や映画、絵画によく登場します。FJI帝は倹約家としても知られているので、この葉巻もあまり高価なものではなく、誰にでも手に入るものだったのです。かつて墺近代史のV教授もこれを口に咥えながら講堂に入ってこられたのを思い出します。

2016-06-17 23:02:31

血入りソーセージ(Blutwurst)

もと墺洪帝国軍将校であるふたりが「血入りソーセージ」(ブルートヴルスト)と馬鈴薯を注文し、それを混ぜて食べようとしていたのは、もともとこういう料理がオーストリアにあるからです。

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

雨がふる前に外席(Schanigarten)で食べたBlunzengröstl(ぶるんつぇんぐれすとる)=血入りソーセージと茹でたじゃがいもを混ぜあわせたもの。オーストリアらしいのは、このホースラディッシュのてんこ盛り加減!#写真 pic.twitter.com/FUESppNVO7

2016-05-31 22:32:53
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

「血入りソーセージ」というと日本人の感覚ではちょっとグロテスクなイメージもあるかもしれません。ビジュアルも言われてみればグロテスクかもしれません…が、コンビーフとポテトを合わせたもののような感覚で食べられます。丸ごとの血入りソーセージを出されるより食べやすく美味しいと思います。

2016-05-31 22:36:30

パナテラ葉巻

ペーターが吸っていた葉巻は、およそこのサイズ。
パナテラ、というのは葉巻のサイズをあらわす名称です。

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

メモ的にツイートしてた葉巻と香水の組み合わせ、面白がってくださる方がいらっしゃるようなので、今日は香水の方も分かるようにしてみました。ダビドフのLong PanatellasとラルチザンのVoleur de Roses(薔薇泥棒)。 pic.twitter.com/0eu5fJ8Anm

2015-06-18 23:58:56
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ハンガリー水

ペーターがつけているオー・デ・トワレはハンガリーの伝統的な香水「ハンガリー水」をベースに、ラヴェンダーの香りを乗せたものでした。なんでもやってみる主義のわたしとしては、比較的簡単にできるというこの香水を実際に作ってみることにしました。

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

実験好きのわれらといたしましては、さっそくやってみます。生のローズマリー25グラム、乾燥6グラム、オレンジピールにレモンピール、ペパーミントをそれぞれ5gずつ、精製水200mlとアルコール100mlに漬け、ハンガリー水作成開始です。 pic.twitter.com/Ps8bWQ9ZxZ

2016-06-22 05:07:12
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

二日後。ハンガリー水のレシピにはコーヒー用のフィルタで濾す、とあるのですが、それでは液が濁ってしまいます。せっかく蒸留器があるので、風呂場で蒸溜してみました。ものがものだけに、ローズマリーとオレンジの食欲をそそる香りしかしません…。 pic.twitter.com/udDVmn0f5J

2016-06-24 04:22:29
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

そして蒸溜された自家製「ハンガリー水」第一作。完全に透明なアルコール度90℃近い液体です。あまりにもオレンジピールの香りが強いのと、ローズマリーらしさが足りないということで、ローズマリーとラベンダーを少々追加し、第二蒸溜に備えます。 pic.twitter.com/1hTcdsnJc6

2016-06-24 08:26:54
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

もう一度蒸留することを考えていたのですが、ローズマリーの緑色があまりにも綺麗だったので、濾過するだけにしてみました。アルコール度を測ってみたら約80度。オー・ド・トワレ並でしょうか。ともあれこれにて初めての「ハンガリー水」完成です。 pic.twitter.com/BryF1QoTG3

2016-06-26 02:12:04
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マグヌス・ヒルシュフェルトをめぐるベルリン散歩

ワイマール共和国時代にベルリンにあったマグヌス・ヒルシュフェルトの研究所の跡地をさがし、その後実際にベルリンを歩いてみました。

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

マグヌス・ヒルシュフェルトの研究所の正確な位置を調べるのが思いの外難しい。建物自体は空襲によって完全に破壊されていて、今記念碑が置かれている場所も正確な位置ではないそうなので、ピンポイントでここだ!というのを現在のベルリンの地図上に乗せるのに迷いがある。大体はわかっているけど。

2016-05-22 04:28:24
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

ウィーンならこういう時、自分の足で歩けばだいたいの見当がつくぐらい、あの頃の町並みや区画が保たれているんだけれど、ベルリンはそうはいかないからなあ…次にベルリンに行くときはもちろん歩いてみるけれど、あまり勘が働きそうにない。

2016-05-22 04:38:46
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

ウィーンにも同様のWebサービスがあるので、もしやと思ってベルリンで探してみたら、あった!これで1910年のベルリンの古地図と現在のベルリンの地図をレイヤー表示させてみると…分かった。In den Zelten 10はここでしたか。 pic.twitter.com/okOudaF8kc

2016-05-22 05:16:52
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

このサイト『Histomap Berlin』( histomapberlin.de/de/index.html )というもので、各レイヤーの透明度も調整できる。先ほどの1910年のレイヤーを透けさせると、現在の区画との位置関係がより明らかになる。 pic.twitter.com/01tmwygLtO

2016-05-22 05:25:29
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