映画「ロックス・イン・マイ・ポケッツ」の公式日本版を、一介の映画ファンが作ったというお話

ラトビア出身の女性クリエイターが、クラウドファンディングで自伝的なアニメーションを製作し、それを気に入った日本の映画ファンが勝手に日本語字幕版を作成したら、それがそのまま公式の日本版になりました。
うつ病 字幕 ラトビア メンタルヘルス アニメーション 映画
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「ロックス・イン・マイ・ポケッツ」とは
概要

ラトビア出身の女性アニメーション作家シグネ・バウマネ氏が、自分の一族に連綿と伝わる精神疾患の系譜について描いた、自伝的アニメーション作品。
原題「Rocks in My Pockets(Akmeņi Manās Kabatās)」 上映時間88分。

リンク www.rocksinmypocketsmovie.com Rocks in My Pockets, by Signe Baumane Rocks in My Pockets, A Crazy Quest For Sanity by Signe Baumane.
篝火 @kagarivie
【8月7日】シグネ・バウマネ(1964-)の誕生日。ラトヴィアのアニメーション作家。日本でも上映された唯一の長篇アニメ『ロックス・イン・マイ・ポケッツ』は世界中で称賛された作品。 youtube.com/watch?v=8nlOhj… pic.twitter.com/cR4TED0hFS
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※監督の名前は、当初本人の英語発音から「シグネ・バウメン」としていましたが、ラトビアの方から「ラトビア語発音では『バウマネ』が正しい」との指摘がありました。

そこで監督に「英語発音とラトビア語発音のどちらでの表記が好ましいか」を確認したところ、「どちらの国も自分には重要で、一方を優先したいという希望はないので、表記は任せる」との回答があり、従来表記との混乱を避けるため、「バウマネ」表記に変更することにしました。

どんな映画?

ぶっちゃけると、とても奇怪なアニメーション映画です。劇映画ともドキュメンタリーとも違い、監督兼主人公の語りに合わせてシュールな映像が展開するというスタイルで、監督は90分弱の間ほぼ途切れなく喋り続けます。

お話は監督の一族にいる(いた)複数の若い女性精神疾患患者の生き様を語る形で進みます。時代の逆風に晒された祖母のアンナ、姉のような存在だったいとこのミランダ、美しく賢かったけど性格に難のあったリンダ、人知れず幻聴に苦しんだ物静かなイルベ、そして分析的な主人公のシグネ(=監督)。それぞれがどう生きて、何に影響されてどう間違い、何を発症し、最終的にどうなったのか、主人公シグネの視点から描かれていきます。

また、本作は精神疾患の映画であると同時に、女性の結婚および出産の映画でもあります。ラトビアという馴染みの薄い国の話ですが、作中の描写を見る限り、女性を取り巻く社会の意識はかなり日本と似通っているように感じます。女性監督が作っているというのもありますが、特に女性は共感できる部分が多い作品ではないでしょうか。

あと、ラトビアという国の歴史を少しだけ垣間見ることもできます↓

PKA @PKAnzug
そうそう、ラトビアってロシアとヨーロッパの境界にあることもあって、戦時中はソビエトに巻き込まれたりナチスに蹂躙されたりで大変だったそうなんですよね。その当時のことも祖父母のエピソードとして描かれてるので、興味がある方はぜひ。 togetter.com/li/1011092
日本語の公式サイトが出来ました

※というか、作った。

リンク ロックス・イン・マイ・ポケッツ ロックス・イン・マイ・ポケッツ 映画「ロックス・イン・マイ・ポケッツ」の公式サイトです。
製作・本国での公開

製作資金は2013年のKickstarterで集められ、2014年に英語版が完成。極めて個人的な物語を描いた超低予算アニメーション映画でありながら、非常に高い評価を受けました。

その後、ラトビア語版も製作・上映され、同国における2014年の文化イベントランキングで4位に入るほどの話題になりました。一介の映画としては異例のランキング入りですが、ラトビアは日本に似て精神疾患のことを語りにくい風土があるそうで、本作のように赤裸々に描いた作品は衝撃が大きかったようです。

「高い評価」をもう少し詳しく

・全世界120以上の映画祭で上映。

・2014年のFIPRESCI award(国際映画批評家連盟賞)を受賞

・ Kristaps Award(ラトビア版のアカデミー賞)で長編アニメーション賞と脚本賞を受賞し、米国アカデミー賞のラトビア代表に(残念ながら米国アカデミー賞のノミネートには至らず)。

・上記含め、世界各地で合計14の映画賞を受賞。

・「メンタルヘルスについて国民が語れる風潮を作った」という評価から、ラトビアにおける2014年の「重要文化イベント」の4位に選出。

・映画批評サイトRotten Tomatoesで20人中20人がポジティブ評価、世界最大の映画サイトであるインターネット・ムービー・データベースのユーザー評価で7.6/10という異例の高評価(いずれも2016年8月現在)
 
 
そう、宣伝のために無理矢理褒めてるのではなく、実は本当にすごい映画なんです。

リンク www.rottentomatoes.com Rocks in my Pockets In the new animated gem Rocks in My Pockets, Latvian-born artist and filmmaker Signe Baumane tells five fantastical tales based on the courageous women in her family and their battles with madness. With boundless imagination and a twisted sense of humor,
日本における公開

本作は一般劇場では未公開ですが、映画祭で3回だけ招待上映されています(EUフィルムデーズ2015、新千歳空港アニメーション映画祭2015、広島国際アニメーションフェスティバル2016)。

それらの上映では本作にも日本語字幕が付けられたのですが、製作者サイドでは金銭的にその日本語字幕の権利を買い取ることができず、またその後日本国内で本作を配給・販売しようとする業者もいなかったため、日本で本作を見るには、VimeoやVHXといった動画配信・販売サイトで、日本語字幕のないバージョンを購入・レンタルするしか方法がありませんでした。非常に言語情報の多い作品ですから、大半の日本人には厳しい状況です。

リンク 駐日EU代表部公式ウェブマガジン EU MAG 映画で旅するヨーロッパ―EUフィルムデーズ 欧州映画を一堂に集めて上映する「EUフィルムデーズ2015」が5月29日から東京で、7月1日から京都で開催される。EU加盟国の中でも、あまり接する機会のない国々の映画も観られる貴重な機会として人気を博している同上映会。13回目となる本年の見所を中心に、欧州の映画事情なども紹介する。
今回の日本版について
日本語字幕版作成の経緯

私(まとめ人)はまだDVDのリッピングが違法でない頃から、日本で発売されない作品に日本語字幕を付けるというのをよくやっていました。初めてやったのは「ブロブ 宇宙からの不明物体」の日本版DVD作成で、おそらく15年くらい前の話です。余談ですが、この映画は2015年にようやく日本版DVDが発売されましたが、海外では2014年にブルーレイが出ており、最近マシとはいえ依然として国内版DVD/BDの不遇は続いています。

その後、プロテクトのかかったソフトからのリッピング自体が違法となり、DRMフリーの映像ファイルやごく稀にある非プロテクトの映像ソフト以外では、個人の趣味としての字幕付けは、少なくとも大っぴらにはできなくなりました。

私が本作に興味を持ったのは2015年の9月です。「海外で非常に高い評価を受けている極めて特異なアニメーション作品」がDRMフリーの動画で販売されているということで、とりあえず問答無用で動画を購入。しかし、個人的事情によりその後長らく放置することになります。

字幕作成作業(1)
残りを読む(31)

コメント

さとうのぶよ @0168_dainobu69 2016年8月15日
この試みは単に画期的というひと言では表しきれないほど凄いことでは?
chika @pino_0127 2019年1月26日
今更ですがロックス・イン・マイ・ポケッツ、購入して一気に見ました。妊娠、出産、結婚、離婚、また優越感から劣等感、トラウマ、うつ病、自傷行為や自殺念慮などなど、奇怪でシュールでありながら非常に面白かったです。また凄いアニメーションですね。購入したので、もう一度見ます。
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