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設楽土筆@再開/移転中 @shitaratsukushi
@ts_p 「箱」投下『カウント1 あと七日……』
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@rs_p  風もない梅雨の蒸し暑い夜。少しでも部屋の蒸し暑さを和らげようと、ベランダのサッシを全開にしている。一DKの狭い部屋の生ぬるい空気を扇風機が機械的にかき混ぜている。  斎条葉子(さいじょうようこ)は携帯を片手に扇風機の前で涼んでいた。
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@ts_p  風呂上りの濡れた髪を乾かすまもなく、友人の江藤好美(えとうよしみ)から電話がかかってきたのだ。 「ねぇ、葉子、昨日の裕香のお葬式行った?」 「うん……」  先日、予備校時代から親友だった篠田裕香(しのだゆか)が死んだ。
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@ts_p  葉子は通夜と葬式、両方の式に参列した。泣きながらすがり付いてくる裕香の母親に、何度も娘の死因を激しく問い詰められ、胸が締め付けられる思いでそれに答えた。  警察に告げたこととまったく同じ言葉を裕香の母親にも話した。
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@ts_p  何度も話した友人の最後の姿は葉子の脳裏に今でも焼きついている。 「あのさ、裕香が話してた怖い話、覚えてる?」  唐突に好美が言った。 「うん……都市伝説でしょ」  濡れた髪から体温が蒸発しているのか、背中が一瞬ひんやりとする。
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@ts_p 「どんな話だったっけ」 「確か……話したら死ぬとかそんな都市伝説だったよね」  死んだ裕香は怪談に目がなく、いろんな話を仕入れては友人である葉子と好美に話してくれた。しかし、葉子はそういった心霊現象などに対して懐疑的だった。
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@ts_p  そんな葉子を怖がらせてやろうと裕香はさまざまな話をインターネットのサイトなどで調べては語ってくれた。  十一日前、ゼミのレポートを葉子の部屋で裕香と好美の三人で書いていたとき、たまたまレポートのテーマが噂話についてだった。
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@ts_p  三人の取り留めないおしゃべりの対象は噂話からいつの間にか都市伝説になっていた。  聞いた人に災難が降りかかる都市伝説を笑って信じない葉子に、裕香は確か本当に怖い話があると言ったのだ。
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@ts_p  その翌日、裕香がこれはマジで怖いよと聞かせてくれたものが、その『話したら死ぬ都市伝説』だった。 「その話がどうかした?」  葉子はいぶかしげに好美に訊ねた。
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@ts_p 「なんか気になって……でもさ、この前、亮(あきら)に話したけどなんともないよ。ただ今度サークルの子にも話したいんだけど、細かいとこ忘れちゃって」  電話の向こうの好美は明るく答えた。どうやらボーイフレンドの亮に早速話したようだった。
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@ts_p 好美は今日で七日目だとも明るく言い、でも死んでないしと笑った。だから裕香がちょうど七日後に死んだのは偶然なんだとも言った。  葉子は裕香の話してくれた都市伝説を思い出しつつ好美に話した。
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@ts_p  葉子はため息をつき、気にせず話し続けることにした。  話している間にだいぶん体が冷えてきたのか、鳥肌が立ってきた。風呂上りに着るつもりでベッドの上においていたTシャツを取って、キャミソールの上から着た。  電波の入りが悪いのか急に声がぶつぶつと途切れ始める。
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@ts_p  好美の後ろから犬の吠える声が聞こえ出した。まるで相槌のように会話の合間に遠吠えが割り込んでくる。 「犬がうるさいね」  葉子が言うと、好美は「そう?」とたいして気にしてない様子で答えた。 「近所の犬が吠えてるんじゃないの? そんなにうるさくないと思うけど?」
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@ts_p 「電波悪いねぇ」  と、好美がごそごそと移動している気配が電話越しに感じられる。  フローリングの足元から冷気がジワリと上がってくる。葉子は扇風機を止めた。  葉子が話し終えたとき、携帯電話の向こうからピンポーンと玄関のチャイムが聞こえた。 「あ、亮かな」
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@ts_p  好美の声が心なしか弾み、立ち上がる気配がする。「はいは~い」と言いながら、好美がドアを開ける音がした。 「あれ、宅配みたい……」  好美のつぶやく声が聞こえる。
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@ts_p  葉子がふと時計を見ると夜中の十二時になったばかりだった。葉子はぼんやりと最近は深夜の宅配もするのかなと思った。  突然、どたんという重たいものが倒れる大きな物音がし、何事かと葉子は友人の名を呼んだ。 「好美!?」
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@ts_p  最初はふざけているのかと思った。しかし、ボーイフレンドとふざけているにしても、電話からは何の音も聞こえない。  葉子の胸中にぞわぞわとした不安がこみ上げてくる。  その瞬間、脳裏に浮かんだのは三日前に死んだ裕香の姿だった。  玄関に足を向けうつぶせに倒れた裕香。
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@ts_p  頭があるべき場所になく、二メートル離れた一Kの部屋の床に左頬を下にして、玄関に立ち尽くす葉子をうつろに見つめていた。  うつぶせた体のうなじの肉が首の骨ごとこそぎとられ、薄く残った喉元の皮がこそぎ取った反動で千切れ飛んだのか、壁にへばりついていた。
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@ts_p  首筋から背中へと寒気が伝い落ちていく。フラッシュバックする惨劇に立ちくらみを起こしそうになりながら、葉子は立ち上がった。  携帯電話の向こうからは何の音も聞こえてこない。どうしようもない焦りを感じ、葉子は大声で友人の名前を何度も叫んだ。
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@ts_p「好美!? お願い! 返事して!!」  葉子は携帯電話を耳に当てたまま、Tシャツに短パンという格好のまま、玄関から荒々しく飛び出した。  うまくビーチサンダルに足が入らない。マンションの廊下をつまづきながら、走って階段を下り、自転車置き場にある自分の自転車に駆け寄った。
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@ts_p キーを差し込もうとするが、手が震えてなかなか入らない。何度か試してやっとキーが入り、自転車の錠が外れた。葉子は急いで自転車にまたがると、通りに飛び出した。  携帯電話の向こうにいるはずの友人の様子に耳をそばだてながら全速力に自転車をこいだ。
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@ts_p その間も同じ大学に通う友人の好美に声をかけ続けていた。  携帯電話の向こうの音は不気味なくらい静かだった。ドアを開けたあと、誰も出て行ったような音もなく、ただ鼓膜を突くようなツーンという空気音だけが聞こえる。  大学近くの川沿いの道を自転車で駆け抜ける。
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@ts_p  湿気を含んだ大気がやたら重たく、自転車をこぐ足にねっとりとまとわりつくようだ。  すでに夜半の十二時を過ぎ、辺りに人気はない。川岸の雑草から名前もわからない虫の鳴く声がか細く聞こえる。
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@ts_p  遠く右手にある国道から車のエンジン音は聞こえるものの、いったん線路を越えた細いわき道には街灯もなく車の通りもまったくない。  バッティングセンターを過ぎ、アパートやコーポの林立する区域に入った。
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@ts_p 田んぼや空き地を無理に整地してアパートを建てたためか、行き止まりがやけに多い細道をくねくねと曲がり、葉子は好美のアパートの前に自転車を止めた。  うまくスタンドを立てられず、がしゃんと自転車が倒れるのも気にせず、葉子はアパートの二階へ駆け上がった。
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コメント

設楽土筆@再開/移転中 @shitaratsukushi 2011-03-08 20:39:45
@ts_p 「箱」表紙:芳賀沼さん作トゥぎゃりました
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