フラワーズ・フロム・フロスト #2
(あらすじ:2037年から何年も経ったマッポーカリプスの世。ロシアヤクザ「過冬(カトー)」が牛耳るアラスカの一大産業港都市シトカを、DZという男が訪れた。DZの目当てはニンジャソウル憑依者のスーサイドである。しかし折しも、スーサイドと過冬との間にトラブルが発生しようとしていた)
2016-08-11 14:01:58(スーサイドを慕う若い不良たちが過冬のシノギに手をつけようとして捕まってしまったのだ。過冬との交渉の場に臨もうとするスーサイドに、DZは同行を申し出た。はたして!)
2016-08-11 14:10:22「アイエエエエ!」コンテナが迷路めいて積み上げられた波止場に、哀れな叫び声が響き渡った。後ろ手に拘束され、地面にうつぶせに寝かされた若い不良が発する叫びだった。積まれたタタミにアグラし、腕組みをしてそれを見つめる者は、明らかにニンジャ。シンウインター率いる過冬の手の者だ。
2016-08-11 14:15:14タタミの上、膝のそばにはキョート漆器の茶器があり、濃縮マッチャが甘い香りを放つ。視線の先のコンテナにはタイガーの水墨画が配置されている。マッチャの覚醒効果とともに眺めれば激しいサイケ・トリップ体験の入り口となるセッティングだ。若い不良は二人のクローンヤクザに押さえつけられている。
2016-08-11 14:20:47「アイエエエ!」不良はもがいたが、クローンヤクザはがっちりと彼の動きを抑制してしまっている。「ンー……もう一度聞こうか。名前は?」「アイエエエ……ニック……ニックです」「やれ」合図に従い、クローンヤクザが熱く熱された灰を小山状にしてニックの背に乗せた。「アイエエエ!」ナムサン!
2016-08-11 14:28:04悶絶するニック!既に彼の背には二つの灰の小山が乗せられている。焼けた灰で皮膚を焼き責め苛む、おそるべき灸拷問だ。元来は医学的治療行為であるはずのそれも、残忍なヤクザニンジャの指示下では危険な嗜虐行為に堕する!ニンジャはじっとりとした視線を送る。他の者も皆、表情一つ動かさない。
2016-08-11 14:35:58その場にいるのはこのニンジャを除けば数名のクローンヤクザと、二名のウキヨのみ。ウキヨ……即ち覚醒オイランドロイド……はナギナタとアサルトライフルで武装し、見張り番めいて、この暗黒ゼン灸空間に外敵が近寄らぬよう警戒している。ウキヨは感情を持つが、ニックに対する憐憫は皆無だった。
2016-08-11 14:38:51不気味な美しさを持ったウキヨ達は頑強な身体と高い戦闘能力でも知られ、一般社会においては警戒、しばしば迫害の対象だ。彼らが大手を振って歩けるのはこうした闇社会の修羅場と相場が決まっている。ニックは涙目でウキヨの一人を見たが、真っ向から受け止める彼女の視線は虫でも見るかのようだった。
2016-08-11 14:43:47「助……」「さて、もう一度聞こうか。名前は?」「アイエエエ!ニックです!」「やれ」「アイエエエエ!」拷問灸追加!ニックは白目を剥いて泡を噴いた。「では、そろそろ聞こう。真実を話せよ、ニック=サン」「話し……話します」ニックは朦朧と言葉を発した。「エメツの横領はいつから始めた?」
2016-08-11 14:47:26「妹が病気で……薬代……」「やれ」拷問灸追加!「アバーッ!」「横領はいつから始めた?」「い、一度だけです」「計算が合わん」ニンジャは冷たく言った。「この半年の採れ高の推移が不自然なのだよ」「そんな!俺がエメツのビジネスに関わったのは二か月……」「やれ」拷問灸追加!「アバーッ!」
2016-08-11 14:53:28ナムサン!もはやニックは虫の息である!助ける者はない!「つまり、ニック=サン。お前は過冬の事をナメくさり、半年の間コバンザメめいて富を吸い上げ続けた。我ら慈悲深きクランのシリアス・マネーをな」ニンジャはマキモノを閉じ、咳払いした。「セプクののち、八つ裂き刑とする」「アバーッ!」
2016-08-11 14:58:42悶絶するニック!ニンジャは追い打ちめいて宣告する!「妹が居るといったな。それはいいニュースだ。この俺直々に教育しよう」「嫌、嫌です……助けて……」「ズガタッキェー!」「アイエエエ!」ニンジャは怒声を張り上げた。「罪には罰!社会の基本だ!盗人に権利などなし!」「ちょっと待ってくれ」
2016-08-11 15:05:42第三者の突然の声にニンジャは首を巡らせ、眉根を寄せた。コンテナの陰からアフロヘアーの男が無造作に進み出た。「人より耳がいいんで、お前さんの話はだいたい聞こえた。あのよォ。何か違わねェかな」ウキヨがナギナタを構えて立ちはだかった。ライフルの照準も向いた。「アニキ」ニックが呻いた。
2016-08-11 15:09:46「貴様は……」「ドーモ。モキシバスター=サン。スーサイドです」先手を打って、アフロの男はアイサツを繰り出した。「ドーモ。スーサイド=サン。モキシバスターです」ニンジャは応えた。「ケチな酔っ払いめ。その動きの早さは意外だな」初対面ではない。ニンジャ同士ともなれば互いに警戒もする。
2016-08-11 15:17:44モキシバスターはスーサイドを睨む。薄汚いバイカーめいた姿の男で、メンポや装束といったニンジャ要素はない。だが紛れもなくニンジャだ。見たところ三十手前だが、ニンジャは外見と年齢が必ずしも一致しない。成長を終えた時点で老化の速度は遅くなり、場合によっては数百歳を数える事もあるという。
2016-08-11 15:22:13スーサイドは過冬と直接に敵対する存在ではないが、恭順を拒み、シトカにおいては目の上の瘤のような存在となっている。モキシバスターも彼のカラテのワザマエを知らぬ。そしてその外見からカラテをはかることは難しい……。「何をしに来た。このガキの命を乞いに来たわけでもあるまい」「まさかだろ」
2016-08-11 15:28:03「では何を?」「だからよ。ブラブラ散歩していたら、俺のニンジャの耳に、半年分のエメツの採れ高の横領がどうとか聞こえてきてな」スーサイドはナギナタの刃にも怖じず話した。「それで、びっくりしちまってな。筋の通らねえ奴もいたもんだなあと」「その通りだ。このガキは……」「違うだろォ!」
2016-08-11 15:33:06スーサイドは遮った。「組織のあがりをハネてンのはテメェだ、モキシバスター=サン!」懐からマキモノを出し、広げる!モキシバスターは眉根を寄せた。数字の羅列?スーサイドは言った。「見りゃわかるだろ。俺の手持ちの、テメェの弱味だ。シトカで暮らすのに何のカードも無しで生きてると思うのか」
2016-08-11 15:40:01モキシバスターのニンジャ視力が鋭敏化した。マキモノに書かれているのは何らかの帳簿情報だ。ナムサン……裏帳簿の写し!「バカな!貴様が俺の?」「テメェだけじゃねえ。日ごろからせっせと集めてるンだよ、テメェらサンシタの個人情報を。保険の類としてな!えらく羽振りがいいよな、この半年!」
2016-08-11 15:44:38「貴様!」「ニックの奴の出来心にかこつけて、テメェの横領を全部おっ被せようって話だろ」「アニキィ」ニックが泣いた。「ウルセッゾコラー!」スーサイドが怒声を飛ばした。「テメェの不始末で、俺のカードが一枚オダブツだッてンだよ!」「ゴメンナサイ!」「……てなわけで、手打ちにしねえか?」
2016-08-11 15:49:46スーサイドは凄みを漂わせた。モキシバスターのニューロンは高速回転した。彼はかがんでマッチャを取り、飲み干した。そして答えを出した。「……お前は危険な男だ。やれ、貴様ら」「キエーッ!」ウキヨが即座にナギナタでスーサイドを攻撃!「イヤーッ!」スーサイドは柄を掴んでそれを止める!
2016-08-11 15:52:06もう一人のウキヨがアサルトライフルの引き金に指を……BLAM!「ピガーッ!」ウキヨの側頭部を銃弾が貫通し破壊!コンテナの上にもう一人の影!待機していたか!「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」クローンヤクザがチャカ・ガンを向ける!BLAMBLAMBLAM!「「「グワーッ!」」」
2016-08-11 15:54:33