金剛VS加賀(仮題)

金剛VS加賀
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星金 剛 @DB_kongo000

「疲れマシター。寒いデース。元帥は話が長すぎマース!」 年が明けたばかりの寒空の日。 年に一度の海軍全体の集会に参加する提督の護衛として、ワタシこと金剛型1番艦、金剛もまた寒空の下長い話を聞かされた。 冷え切った体を抱きしめるようにしながら摩り、少しでも熱を得ようとする。

2016-06-21 22:39:54
星金 剛 @DB_kongo000

「お疲れ様、だな」 「ええ、全く本当に。こんなにただただ疲れるだけのイベントも珍しいぐらいデース」 とは言っても、それなりの立場にある以上提督は出席せざるを得ないのだろう。 偉い人間には偉い人間なりの気苦労がある。 ワタシは理解したくないけどね。

2016-06-21 22:40:13
星金 剛 @DB_kongo000

「でも、これで一段落着いたのは間違いないネー。テートク! ランチ食べに行きまショー!」 「そうだな、腹は減った。美味い物を食べて、英気を養ってから帰るとするか」 「そうこなくっちゃネー!」 食堂の場所は事前にリサーチ済みである。 海軍本部の食事は美味しいと噂なので楽しみだ。

2016-06-21 22:41:21
星金 剛 @DB_kongo000

「テートク、こっちデスヨ!」 「袖を掴むな」 ぐいぐいと提督の袖を引きながら先導していくと、すぐに大きな建物が見えてくる。 建物一つ丸々が食事処とは実に剛毅。 規模の大きさに思わず頬は緩み、自然と早足になる。 「Hey,テートクー!早く早くー!」

2016-06-21 22:42:23
星金 剛 @DB_kongo000

振り返り、のそのそと歩く提督の袖を更に引く。 全くもう、鈍いと言うかマイペースと言うか。 悪い気持ちのしない溜息を吐き、視線を前方に戻す。 ちょうどその時、食堂の扉が開いて一人の女性が姿を現した。 足が止まる。

2016-06-21 22:42:44
星金 剛 @DB_kongo000

目が逢ったその女性は、一瞬渋い顔をした後で顔を伏せ、それを覆い隠す能面のような表情でこちらに近寄って来た。 「……あら、お久しぶりね」 さもいま気づいたという口ぶりだ。 長身を青いラインの入った袴で包み、セミロングの髪を横で一つに纏めたその髪型。

2016-06-21 22:43:55
星金 剛 @DB_kongo000

目つきが悪いのは目の前にワタシ達がいるからか。 見間違う訳も無い、正規空母加賀である。 「貴女……まだそこにいるのね。まともな神経をしていたら、あんな所にはいられないと思うのだけれど」

2016-06-21 22:47:12
星金 剛 @DB_kongo000

「どこぞの尻軽とは違いマスから。さっさと出て行ったお前とはネ」 「どの口がっ」 「この口だヨッ!」 言葉を吐き捨てた加賀に詰め寄る。 今のワタシなら視線でこの女を射殺せる。 拳を握り締め振り上げたところで、肩をグイと引かれる。

2016-06-21 22:48:05
星金 剛 @DB_kongo000

「テートク……」 ワタシと加賀の間に入った提督はキツい視線で……それはいつもだけど。 ワタシを諌める。 言い足りないどころかまだ言いたいことを何も言ってはいないのだが、仕方ない。 肩を引かれるままに一歩下がり、提督と場所を入れ替わる。

2016-06-21 22:48:48
星金 剛 @DB_kongo000

「新しい鎮守府はどうだ、加賀」 「そうね。裏切られないだけ、今の方がマシね」 「お前ェッ!」 瞬間、頭に血が上り掴みかかろうとした。 が。 「金剛」 ワタシの顔の目の前に提督の掌が出され、踏みとどまる。 「……ヤー」 眉間に皺が出来ている事を感じながら一歩下がる。

2016-06-21 22:49:47
星金 剛 @DB_kongo000

「加賀さん」 それは、聞いたことのない声だった。 加賀が振り返ると、その後ろに一人、男性が立っているのが見える。 提督と同じ海軍軍服。 小柄で顔もかなり若く見えるが……彼もまた、提督という訳か。

2016-06-21 22:50:17
星金 剛 @DB_kongo000

「……予定より早いお戻りですね。用事はもう済んだのですか?」 「はい、お待たせしました。そちらは……」 ワタシ達に視線を投げかけた彼の柔和な笑みが、キッと引き締まる。 「貴方が今更、加賀さんに何の用ですか?」 「元直属の上官だ。挨拶ぐらいはさせてほしいものだが?」

2016-06-21 22:50:58
星金 剛 @DB_kongo000

いけしゃあしゃあとそんなことを言ってのける提督も提督である。 だから加賀に舐められる。 「挨拶だって?貴方がどれほど加賀さんを苦しめ、て……」 今度は加賀が彼の眼前に手を差しだし、言葉を遮る。 「行きましょう」 「ですが加賀さん!」 「行きましょう」 「……はい」

2016-06-21 22:51:25
星金 剛 @DB_kongo000

その時の加賀の視線の鋭さと言ったら。 少なくとも上官に向ける物ではない。 加賀と若き提督はワタシ達の横を通り過ぎて行った。 我々も大きくため息を吐いた後に食堂に向かって歩を進めようとしたところで、 「金剛」 加賀に呼び止められたので、ワタシは溜息をもう一度。振り向いた。

2016-06-21 22:52:08
星金 剛 @DB_kongo000

「貴女、髪の色が薄くなったわね。ストレスかしら。転属希望なら力になるわ」 「ノーサンキュー。ワタシがいるべき場所はここ。離れるつもりはありまセン」 「そう。貴女、変わったわね」 「お前とは違う、と言ったつもりデース」

2016-06-21 22:52:41
星金 剛 @DB_kongo000

べーっと舌を出してやると、加賀は視線を一度床に落とした後ワタシ達に背を向け、立ち去って行った。 「……提督、行きマショー」 「あぁ」 ワタシの提案に、提督は深く頷く。 二人並んで、再び歩き出す。 提督の腕を取る……そんな真似はしないが、この場所を譲るつもりはない。

2016-06-21 22:53:26
星金 剛 @DB_kongo000

長門にも大和にも、勿論あの青袴にも。 髪の先をつまむ。 自分では気づいていなかったが、薄くなって……いるのだろうか? もしかして、白髪? 気になることを言ってくれた。

2016-06-21 22:53:41
星金 剛 @DB_kongo000

「……あまり難しい顔をするな」 ポンと、提督が私の背中を叩いた。 加賀への恨み辛みを心中で重ねていたところだったので、反応が遅れる。 何も言えずに、提督の顔を見上げると、苦い笑みを浮かべて首を振っていた。

2016-06-21 22:54:22
星金 剛 @DB_kongo000

「昔の話だ。今更どうしようもない」 「……それでいいのデスカ?」 「あぁ」 「なら、ワタシは何も言いまセン」 「そうしてくれ。それと、まぁ……なんだ。ありがとう。俺の為に怒ってくれて」 ……呆けた表情を浮かべていると、我ながら思う。

2016-06-21 22:54:56
星金 剛 @DB_kongo000

提督は窓の外へと視線を向けながら、確かにワタシにありがとうと言った。 確かにありがとうと言った。 胸の中がくすぐったい。 「……テートッ、クゥ!?」 このむずかゆさを発散したかった。 両手を広げ、精一杯の勢いで提督に飛びつこうとした、が。

2016-06-21 22:55:45
星金 剛 @DB_kongo000

頭を片手で鷲掴みされて押さえつけられた。 「ウー……もうっ!テートクの恥ずかしがり屋!シャイなんだからっ!空気読めヨー!もうっ!」 なので精いっぱいの笑顔で、提督の背中を何度も叩いた。 ぽんぽんと、ぽんぽんと。

2016-06-21 22:56:03
星金 剛 @DB_kongo000

~~ 加賀がこちらに向かってきたことは予想外であった。 あらかじめ我が身に降りかかるであろう、ありとあらゆる不幸を想定し備えていたとして。 彼女がこちらに向かってくることを予想出来たかと言うと、これは確信を持って言えるが出来なかったことだろう。

2016-06-21 22:58:27
星金 剛 @DB_kongo000

どうにもあの乙女の顔がちらついて食事の味が分からない。 金剛にも思うところはあるようで、あまり俺に言葉をかけてくることも無く、ひたすらに、素早く料理を口に運んでいる。 ……折角の高そうな料理であるが仕方ない。

2016-06-21 22:58:52
星金 剛 @DB_kongo000

俺は慣れない料理で胸焼けした、少し風に当たってくる、と金剛に伝えると、彼女を食堂に残して喫煙所に向かった。 気分がすぐれないと言うのは間違っていない。 一服して、気分を落ち着かせたい。

2016-06-21 22:59:16
星金 剛 @DB_kongo000

食道の裏手、吹きさらしの片隅に設置されたスタンド灰皿が喫煙所である、らしい。 古い考えの男達が多い軍施設でもこの有様、喫煙者の肩身は狭い。 軍服の上から羽織るコートの内ポケットからワンアクション式のオイルライターと煙草の箱、更にその中身を一本を取り出して咥える。

2016-06-21 22:59:47
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