青娥娘々が閻魔さまに千数百年目の東方裁判を受ける話

無駄に長くなったのでまとめました。時に涙は下手な悪夢よりも恐ろしい。
1
ホプレス @hopelessmask

衆目を集める人里のひろばで映姫様に見つかりそのまま裁かれることになった青娥娘々。 「閻魔様、お手柔らかにお願いしますわ」 「では、霍青娥。浄玻璃の鏡が映し出したあなたの生前の罪業、簡潔に申し渡しましょう」 どんなひどい行状を暴かれるのかと居合わせた群衆は無責任に盛り上がっていた。

2016-08-16 22:07:15
ホプレス @hopelessmask

だがしかし、映姫の答えは彼らの予想を大きく裏切るものだった。 「そう、貴方は少し貞淑にすぎる」 彼女の口から下された予想外の判決に、騒がしかった広場の喧騒がピタリとやんだ。 貞淑。彼らが知る青娥を表すのにはおよそ不釣り合いな言葉であり、理解するのにしばしの時間を要したのだ。

2016-08-16 22:08:32
ホプレス @hopelessmask

そんな静まり返る観衆たちにこちらはもはや彫像と化したように固まった青娥本人をよそに、閻魔の判決理由は粛々と続けられる。 曰く、彼女が妻として母としてどれだけ夫子に尽くしたのか。閻魔の語るのはどう聞いても良き妻、良き母であり、およそ邪仙と呼ばれる今の彼女とは程遠かった。

2016-08-16 22:10:17
ホプレス @hopelessmask

そして、群衆は真に恐ろしき光景を目にした。 泣いていたのだ。 どんな罵詈雑言、怨嗟の声を聞いても微笑み受け流すだけだった邪仙が。 人の心など偽りの死体と共に埋めて捨ててしまいましたと言わんばかりの人でなしとしか思われていたあの霍青娥が。

2016-08-16 22:11:07
ホプレス @hopelessmask

「妻として母として夫や子を支えるのは当然です。ですが、その為に本来の己を押し殺し、遂には埋めたはずの夢に殺されたのでは元も子もないでしょう。ですからあなたの行うべき善行は……」 「閻魔殿、お許しを!」 みかねた布都が割って入り、青娥を抑えるようにして抱きかかえ仙界へと消え去った。

2016-08-16 22:13:08
ホプレス @hopelessmask

せっかくの助言を途中で邪魔されて頬を膨らませる閻魔様はかわいらしかったが、残った群衆にその姿を目に留めるだけの余裕があるものなどいなかった。彼らはヤンシャオグイよりも何よりも怖ろしいものを見たような気がして、その晩は何もかも忘れてしまうために酒に救いを求める羽目になったのだ。

2016-08-16 22:15:00
ホプレス @hopelessmask

そして、邪仙が逃れた仙界で何が起こったのか。霊廟の者達は口を固く閉ざし何も語ろうとしなかったが、彼の地のそう狭くもない領域が永遠に失われるほどの惨事が起こった事は札を失った死体の詠う和歌から察せられた。 その後しばらくの間、霍青娥の姿が幻想郷で目撃されることはなかったという。

2016-08-16 22:18:39
ホプレス @hopelessmask

@hopelessmask おしまいです。元ネタ(聊斎志異)だとそう良い妻だったわけでもないですが、生きている間は良き妻だったりしたらいいなあと。 いずれにせよ、青娥にゃんにとって生前こそがウィークポイントだと思うのでみんな軽率につっついて泣かせてね(その後の保証は致しかねます)

2016-08-16 22:21:32