ポピー【2016加筆修正版】◆3(終)
_戦闘中の傭兵騎兵は8騎。4騎は傷つき装甲馬車に身を寄せていた。荒野のど真ん中、装甲馬車の中にいたはずのアンエリは、銃弾行き交う外にいた。 アンエリは周りを見渡す。小銃を持った盗賊が驚いてこちらを見ている。傭兵騎兵も、こちらを凝視していた。 21
2016-08-20 19:16:07_誰もが異常事態に気付いていた。だが、誰もが行動を起こすことができなかった。アンエリは瞬きをする。身体の感覚が無い。まるで意識だけが空中に浮かんでいるようだ。 彼女は疑問に思う。いま、この戦場には銃弾が飛び交っているはずだ。それはいまどうしている? 銃弾は……。 22
2016-08-20 19:21:25_何か破片のような小さなものが空中に浮かんでいる。それが銃弾だと気付くには時間がかかった。時間? アンエリは疑問に思う。 体の感覚はない。ただ、アンエリは何かに包まれたような感覚。風もなく、音もなく……そこでようやく、アンエリは時が消えていることに気付く。 23
2016-08-20 19:27:18_気付いたのはアンエリだけではない。傭兵団長は突然戦場に現れた黒い騎士を凝視していた。視線が釘づけにされ、一寸たりとも動けなかった。 黒い蠢動する鎧には、いくつもの黄色い眼球が瞬きしている。その視線を感じるだけで時が消失してしまうのだ。 24
2016-08-20 19:32:38_眼球の黒騎士は辺りを見渡すと、動けない盗賊の首を一人ずつ刎ねていった。盗賊団は無抵抗にその数を減らしていった。。 傭兵団長はこの異形の騎士に、伝承にある女神の使徒を思い出した。 (ベルベンダインの……使徒だ) 視線と、世界と、時を司る騎士。 25
2016-08-20 19:37:19_アンエリは無感情のまま最後の盗賊の首を刎ねた。そして盗賊団は壊滅した。 (これは……) (わたしは力を手に入れたのよ、アンエリ) それは……かつての姉の声。それが今まさに、身体の奥底から沸き上がって聞こえる、懐かしい声! (姉さん!) 26
2016-08-20 19:42:31_返事はすぐには帰っては来なかった。 (姉さん、帰ろうよ……ミジエンはすぐそこだよ) 心の奥底に冷たい金属質な感情。 (わたしはもう、帰れない) 意識が次第に戦場から装甲馬車の中へ戻っていく。 (わたしは超常の存在と契ってしまった……そう、あの大火の中で……) 17
2016-08-20 19:47:54(帰ろうよ……ひとりは寂しいよ) (わたしはもう人間ではなくなって……しまっ……た……) 気がつけばアンエリは装甲馬車の中で丸くなっていた。皆ざわついている。先程の出来事のせいだろう。 アンエリは窓ガラスの向こうに姉を探す。そこにはつむじ風が巻き上がるだけだった。 18
2016-08-20 19:55:52_使徒による突然の介入に隊商は不安になったが、なにはともあれミジエン跡を目指すことにした。そこには自警団が組織されているし、装備を整えることもできる。傷ついた傭兵騎兵の治療もだ。 アンエリは馬車の窓から荒野の先を見る。遠くにミジエン跡が見える。アンエリはぎょっとした。 19
2016-08-20 20:00:27_彼女を迎えるたくさんの視線。赤。赤、赤。それはゆらゆらと揺れる無数の眼球のようだった。商長が戸惑う。 「ここが……ミジエンなのか?」 「ええ、きっと……」 ミジエンは無数の眼のような丸いポピーの花で埋め尽くされていたのだ。 20
2016-08-20 20:05:34【用語解説】 【盗賊団】 盗賊ギルドは地方と都市部ではその形態が大きく違う。地方で結成された盗賊ギルドは帝都の魔界の影響を受けないので、魔法を自由に使える。なのでその武力を強化し、略奪と襲撃を繰り返すことができる。騎士団との区別が曖昧であり、両者の特徴を持った盗賊騎士団も多い
2016-08-20 20:12:01【次回予告】 車が故障して立ち往生した次の朝、彼女は荒野にそびえる不思議な城を発見する。それを作ったのは変な魔法使い。理由を聞いても釈然としない。しかも、嵐の予感が……? 次回「城砦は天を殴るように」 全50ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-08-20 20:19:52