本歌取「消えないおっさん」(ヽ'ω`)

この物語はフィクションです
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よわめう🐏(牛丼短観) @tacmasi

或るカネ不足国の一角で、ひさしい間、飢ゑたおっさんが飼われてゐた。ボロアパート一室で、煤けた部屋に入る光線が、いつも悲しげに漂つてゐた。  だれも人々は、その薄暗い部屋を忘れてゐた。もう久しい以前に、おっさんは死んだと思われていた。そして埃だけが、いつも窓の縁にたまつてゐた。

2016-08-21 17:06:56
よわめう🐏(牛丼短観) @tacmasi

けれどもおっさんは死ななかつた。おっさんは部屋のすみにうずくまって居たのだ。そして彼が目を覺した時、不幸な、忘れられた部屋の中で、幾日も幾日も、おそろしい飢饑を忍ばねばならなかつた。カネがなく、食物が全く盡きてしまつた時、彼はガリガリと壁をひっかき、助けを呼ぶ。しかしだれも来ない

2016-08-21 17:07:50
よわめう🐏(牛丼短観) @tacmasi

助けがこぬから自分の身体をもいで食った。まづ足の一本を。それから次の一本を。それから、最後に、それがすつかりおしまひになつた時、今度は胴を裏がへして、内臟の一部を食ひはじめた。少しづつ他の一部から一部へと。順々に。

2016-08-21 17:08:06
よわめう🐏(牛丼短観) @tacmasi

かくしておっさんは、彼の身體全體を食ひつくしてしまつた。外皮から、腦髓から、胃袋から。どこもかしこも、すべて殘る隈なく。完全に。

2016-08-21 17:08:22
よわめう🐏(牛丼短観) @tacmasi

或る朝、ふと大家がそこに來た時、部屋の中は空つぽになつてゐた。曇つた埃つぽい空気の中で、小ぎれいになった部屋があった。そして部屋のどこにも、もはや生物の姿は見えなかつた。おっさんは實際に、すっかり消滅してしまつたのである。

2016-08-21 17:08:33
よわめう🐏(牛丼短観) @tacmasi

けれどもおっさんは死ななかつた。彼が消えてしまつた後ですらも、尚ほ且つ永遠に「そこに」生きてゐた。古ぼけた、空つぽの、忘れられたボロアパートの一室で、おそらくは取り壊されるまで―或る物すごい缺乏と不滿をもつた、人の目に見えない動物が生きて居た。 (ヽ'ω`) #日本カネ不足協会

2016-08-21 17:09:45