城砦は天を殴るように#1 嵐が来る◆2
_城に近づいたレイシィは、その城が昨日の雷雨で崩壊していたことに気付いた。壊れた箇所が新しい。そもそも城は新築のようだった。 「もったいねー」 レイシィはぽかんと口をあけながら一言。入り口から中を覗くと天井が崩落しており、青空が見える。 11
2016-08-22 19:17:17_城には生活感といったものが一切なかった。普通ガス灯で炙られた場所が変色していたりするものだ。 「新築も新築ね」 こんな荒野に意味不明な建築。レイシィは急に背筋が寒くなってきた。住居や軍事目的以外で城が建てられると言ったら理由は一つに決まっている。 12
2016-08-22 19:22:29_この城は石造りの頑丈な城だ。そういう城には、石から魔力が滲み出て狭い空間に漂うようになる。それを利用するのは魔法使いだ。 魔法使いは危険だ。平気で人を殺したりする。心を落ち着けるため、背嚢の中からチョコを取り出し、口に含む。 13
2016-08-22 19:26:56(誰もいませんよね~) 消えるか消えないかくらいの声で喋りながら、城の中を覗き込む。静寂。天井の穴から差す光。 「よかった~誰もいない。いや、よくないか。助けが……」 「いるよ」 背後から声! 14
2016-08-22 19:31:10_恐る恐る振り返るレイシィ。そこにいたのは、黒い詰襟の軍服を着て、薄汚れたマントを羽織った若い男だった。 「どう見ても帝国の魔法使いですよね……いいひとですよね……?」 「いいひとだよ」 「やったー!」 「じゃあ早速君を生贄に……」 15
2016-08-22 19:36:12_レイシィは顔をしわくちゃにして泣き叫ぶ。 「どう見てもダメなひとじゃん! 終わりだ……」 「そうはいっても、腹が減ってるから君を生贄にしなくちゃ倒れちゃうよ。君も喜んでくれると思うよ」 「喜びません! 確実に! ……お腹が空いているというのなら、これを……!」 16
2016-08-22 19:44:02_差し出したのは、チョコレートだった。魔法使いはごくりと喉を鳴らした。 「くれるの? やったぁ。じゃあ君は殺さないであげるよ」 「ひ……ひひ……」 チョコを手渡したレイシィは全身の緊張が解け、へなへなと座り込んだ。魔法使いはあっという間にチョコを平らげてしまう。 17
2016-08-22 19:48:37「ありがとう、満足できたよ。これでもっと魔法を使える」 「どんな魔法を使っていらっしゃったのですか……あっ」 つい会話を膨らませてしまう。魔法使いは苦笑して頬をかいた。 「そんなに不思議かい? 確かにお腹がすくほど魔法を使うなんてなんか間抜けだね」 18
2016-08-22 19:54:08_冷や汗を流すレイシィ。魔法使いは自分に言い聞かせるように、壊れた城の天井を見上げて言った。 「僕は城を作っているんだ。最高の城を作るために魔法を使っている……今回もダメだったよ。嵐で壊れるなんて論外だ」 言葉とは裏腹に口調は弾んでいた。 19
2016-08-22 19:59:34「城を作る……やはり人類帝国の版図を広げるため……」 腹に力を込め立ち上がるレイシィ。そして一歩踏み出して話した。1を話せば2が帰ってくる。次第にこの魔法使いが掴めてきた。平気で人を殺すかもしれないが、それ以上に……話し相手を求めていたのだ。 20
2016-08-22 20:11:49【用語解説】 【石造り】 空気中に存在する魔力の濃度を上げるためには、魔力を発生させる素材を利用するのが手っ取り早い。しかし、石の服を纏って暮らすわけにもいかない。なので、住居そのものを魔力発生装置……すなわち、ダンジョンとする方法が一般的である。多くは塔や城の形を作る
2016-08-22 20:17:56