【艦これSS】#鎮守府プロダクション ep2:treachery

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Count K.Kawazoe @_____zoe_____

目覚ましの音で目を覚ました神通は、部屋の寒さに身を震わせた。半開きのままの寝室の扉から察するに、隣で寝ている姉がまた閉め忘れたようだ。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:34:51
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

夜型揃いのこの鎮守府にあって彼女は珍しく健康的な生活習慣を送っているため、畢竟同室をあてがわれている姉妹達とは生活サイクルがあわない日の方が多い。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:35:01
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

「毎度の事ながら、よくこれ鳴ってるのに寝てられるわよねー…」一人ごちながら手早く着替え、朝食の準備をしに台所へ向かうのだった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:36:59
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

後から起きてくる姉妹達の分まで手慣れた様子で作る彼女だが、実のところずっと一緒に暮らしていたわけではない。今でこそユニットを組むことすらある三姉妹もこの鎮守府に配属されたのは割とバラバラで、彼女はその中でも最後に着任したのだった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:37:59
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

艦娘の養成所に通い始めたのは姉妹ほぼ同時だった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:38:42
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

ただ、何事にも熱心で有力鎮守府を目指していた姉や、奔放であまり将来まで考えていない妹とは違い、「適当な所に配属されて、それなりに任務こなして、そのうち(提督ではない)一般の軍関係者あたりと結婚して寿退役」 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:39:02
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

なんていう――この艦娘飽和時代にはありがちな――普通の幸せ程度がお似合いだろう、くらいには現実的だった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:39:12
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

結果、当然ながら最終年度では特別課程へと進む姉を遠目で眺めつつ、(不出来な妹の面倒も見ながら)一般課程を選択したのだった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:39:45
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

卒業後、配属先の鎮守府では早々に駆逐艦数人とのチームを組んでの遠征周りの任が与えられた。養成所時代から面倒見は良いと言われていたし、あまり前線での戦闘向きではないと自覚していた彼女にとっては適任だった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:40:45
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

遠征を何度か繰り返すうちに、中継地で働く軍属の若者と個人的な付き合いをするようになってきた。よくある裏通りの飯屋で働いている男だった。何か夢があるとかで、いつも忙しそうにしていたような気がする。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:41:43
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

中継地であまり長い時間を過ごすわけではなかったが、回数を重ねる中で関係は深まっていった。艦娘の身とはいえ、男女の仲が深まればまあそう言う関係にもなるもので、確か最初に寝たのは仕事にも慣れてきた夏頃だったような記憶がある。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:42:27
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

そうして順調に交際を続けて、そのうち結婚してこの辺りに住むのかなぁ、などと思っていた時… 「神通くん、ちょっといいかな。」提督から、改まった呼び出しを受けた。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:44:04
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

「なんでしょうか。」 「どうも海軍省の方から、『うちの鎮守府に反体制テロ組織と内通しているものがいるのではないか』っていう問い合わせが来てね。」そう言いながら眼鏡を直す。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:44:22
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

この鎮守府を取り仕切る提督は、齢三十程度で中肉中背、眼鏡の印象も相まって「所謂海軍の役人」というイメージぴったりの男だった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:44:51
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

「ちょうど君の艦隊がよく寄港しているあたりを根城にしているらしくてね。」提督から手渡された資料を見ると、確かに彼女が普段利用している町のようだ。得も言われぬ不安がよぎる。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:46:27
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

「いえ、特に心当たりはありません。」 「そうか。何か小耳にでも挟んだら教えてくれ。」そう言い残して去っていく提督を見送りつつ、彼女は自分が来週久々の休暇であることを確認していた。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:46:56
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

休暇中にこの町を訪れる事も初めてではなかった。ここが賑わっている理由の一つは多くの軍人・艦娘にとってのリゾート地という側面があるためで、そうした中に紛れていれば恋人との逢瀬を楽しんでいても知り合いに見つかる可能性は低かったのだ。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:47:39
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

もっとも、そんな時は彼の家に投宿していたわけで、この日のように民間のホテルに部屋を取るのは初めてだった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:47:43
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

彼女は持ち込んだ二つの荷物を置いた。頑丈な方のケースを開けると、そこには彼女の艤装の一部である十四糎単装砲が収められていた。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:48:18
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

ある程度信用されている艦娘はチェックを受けないとはいえ、(少なくとも彼女が勤める)鎮守府では休暇中の艤装持ち出しは禁止されており、勿論生真面目な彼女はその禁を犯したことは今日この日まではなかった。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:48:32
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

緊張した面持ちでその整備状況を確かめると、そのケースを提げて部屋を後にした。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:48:37
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

見慣れたドアの前に来ると、嬌声の混じった会話が聞こえてきた。自分の声も同じように外に漏れていたという事実に顔を赤らめつつ、耳をそばだてた。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:49:06
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

「でさぁ、例の子はまだ落ちないわけ?」 「ありゃあ相当なカタブツだな…んっ…寝言ですら何の情報も得られないんだから徹底してるぜ…」 「やぁん…逆に、あなたの事が感づかれてる心配はないの?」 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:49:53
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

「あー、そりゃ大丈夫だろ。ありゃ疑う事を知らないお人好しだ。」 「あ、ひどぉい。」 「ま、本土の艦娘サマだけに金は持ってるし、家事もやってくれっからこっちも助かっちゃいr… #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:50:18
Count K.Kawazoe @_____zoe_____

その台詞が終わるのを待たず、神通の拳がドアの鍵を打ち抜いた。目の前のベッドでは、見慣れた背中が見知らぬ女を組み敷いている。そして、その背中が振り向きざまに、ナイトテーブルの上にあったベレッタを躊躇なく自分に向けた瞬間、彼女の中で何かが「切れた」。 #鎮守府プロダクション

2016-08-22 22:51:07