田村先生の「鳥類の3本指問題」論文について(引用)

古生物学研究者から見た先週のScienceに載った田村先生の「鳥類の3本指問題」論文について のついーとまとめ
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Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

えっと、あんまり期待されても困りますが、古生物学研究者から見た先週のScienceに載った田村先生の「鳥類の3本指問題」論文についていくつか述べますね。

2011-02-15 23:23:20
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

というのも「『鳥類の恐竜起源説』はもうコンセンサスが得られていると思っていたら,そうではなかったのか」と言われたため。

2011-02-15 23:25:07
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

Supporting Online Materialも長くて、実はまだMethodsを全部は読めていませんが、一言で言うと、丁寧に発生学実験をして、恐竜 → 鳥類の進化の中で手の指のつくられ方に変なことが起こったと考えられていたところの証拠を示した論文だと思います。すごいなー。

2011-02-15 23:49:09
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(背景)ごく初期の仲間を除き、四足動物の手足の"基本形"には5本のゆび(指、趾)があります=Pentadactyl Ground State. いくつもの系統で、この基本形からゆびの数が減っていった。

2011-02-15 23:49:32
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(3本指問題)指(digit)の番号は、5本指の基本形において親指側から小指側に向かって、I, II, III, IV, Vと表記します。現生鳥類には3本の指がありますが、これがI, II, III, IV, Vのうちどの3本なのかという謎がありました。

2011-02-15 23:50:19
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(古生物学的証拠1)鳥類が獣脚類恐竜から進化してきたことは多くの形質を用いた系統解析により確実視されており、すでに議論などは存在しませんでした。古生物学研究者は、獣脚類→鳥類の進化がどのようなプロセスで進んだのかを調べるフェーズになっていました。

2011-02-15 23:52:22
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(古生物学的証拠2)恐竜 - 鳥類の系統をたどっていくと、V → IVと小指側からなくなっていく進化傾向が明らかです。つまり、よく見る3本指の肉食恐竜の指はI-II-IIIに相当します。

2011-02-15 23:53:16
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(約1名の反論)Fedduciaは、当時の発生学的証拠にもとづき現生鳥類の指はII-III-IVであるから鳥類は恐竜から派生したのではないと述べたが、そうすると鳥類と恐竜の間の収斂がありえないほど多いことになってしまうので、基本的に相手にされていなかった(ここが報道と異なる)。

2011-02-15 23:54:06
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

っつーか、獣脚類恐竜 - 鳥類の関係が不確実だったら、僕の研究とかは成り立たないし(苦笑)「獣脚類」というと鳥類も含まれてしまうから、論文では「non-avian theropod(非鳥類獣脚類)」と書くくらいです。

2011-02-15 23:54:55
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(これまでの発生学的証拠1)卵の中で鳥類の手は最初5つの細胞凝集として生じ、そのうち中央の3つが指になるように観察される(ニワトリ、ダチョウで確認された)。これにより、現生鳥類の指はII-III-IVであるとされた。

2011-02-15 23:57:24
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

しかし、例えばLutz (1942:エミュー、カモ)のように同じく細胞凝集を観察したのにも関わらず現生鳥類の指をI-II-IIIとする発生学研究もあった(意外と知られていないし、論文でも引用されていない)。

2011-02-15 23:58:25
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(これまでの発生学的証拠2)有尾類以外の現生四足動物は、第IV指を中心として手ができてくることが知られています。で、第IV指は尺骨の先にできます。鳥類の手の発生を見ると一番後ろ側の指は尺骨の先にできていて、一番後ろはIVでしょう(つまり鳥類の手はII-III-IV)とされた。

2011-02-16 00:05:09
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

ちなみに、有尾類=サンショウウオ(や絶滅したbranchiosaurids)は、I-II側から指ができてきます(preaxial dominance)。これは昨年シカゴ大学のラボメンバーに教えてもらいました。僕は指とかはあまり詳しくない(苦笑)。

2011-02-16 00:09:57
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

系統関係からは、鳥類の指はI-II-IIIで、発生学的証拠からはII-III-IVとされたということで、この矛盾を解決するのに「現生鳥類の指は最初II-III-IVとしてできるけど、途中でレシピが変わってI-II-III相当のかたちとなってできる」という仮説が考えられました。

2011-02-16 00:23:50
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

実際に、2000年代後半になって、マウスやワニと比較して、鳥類の指のレシピ(HoxD-11とか)は I-II-III では?とする証拠が集まってきていました。(発生学に関しては僕よりもっと詳しい人がいると思うので、適宜フォローお願いします ^ ^ ;)

2011-02-16 00:29:08
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

で、ようやく今回の論文ですが、ニワトリの手の発生を丁寧に見ていくと、最初は3本指の一番後ろの指がZPAという通常はIV-Vができるところに原基ができて、すぐにその位置関係が変化して一番後ろの指がZPAから離脱してIIIになるようなレシピを受ける様子を解明したというものです。きれい

2011-02-16 00:45:11
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

これで、微妙だった現生鳥類の手指は、最初はIVからできるという四足動物(有尾類以外)での手指形成から逸脱することなく、I-II-III であることが示されました。

2011-02-16 01:13:52
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

(古生物学的証拠番外編)2009年に記載されたリムサウルスという獣脚類恐竜には、ふつうの獣脚類の3本指の "第I指" の前側に1本の中手骨(指の根元、ヒトでいうところの手の甲)があります。

2011-02-16 01:23:29
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

現在の証拠から考えると、獣脚類 - 鳥類系統ではI-II-IIIで、リムサウルスの系統でだけII-III-IVであるとするのが、系統図上で最も変化が少ないシナリオとなります。(2009年当時の記載論文に書いてある。)

2011-02-16 01:34:25
Tatsuya Hirasawa @Tatsu_Hirasawa

リムサウルスでだけ指の番号が変っぽいことに関しては、論文が出た直後に「現生鳥類の指は途中でレシピが変わる説」のWagner先生と飲む機会がありまして、「リムサウルスの手は痕跡的だからつくられ方もテキトーだったんじゃないですかね」と言ったら、「うん、それはありえる」と言われましたが

2011-02-16 01:41:51