(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)
2016-08-26 21:01:17UNIXモニタに写しだされた数値は、バシリデスを失望させるものしか表さなかった。「……困ったものだな」傍らには古ぼけたノート。彼のニンジャソウル研究を記した最初の一冊。その時立てた仮説と、モニタの今のデータは、細かい数字の違いこそあれど方向性は全く同じだった。1
2016-08-26 21:03:06彼がニンジャソウルをデータ化しようと試みてから、様々な事があった。ソウカイヤの解体。リー先生との決別。ディセンション。アマクダリのスカウト。スズキ・マトリックスの公開。アブラクサスとの出会い。それらを経て、ようやく実測したデータは、最初に立てた仮説と何も変わらなかった。2
2016-08-26 21:06:03仮説が間違っていれば、諦めがついた。一部が間違っていれば、仮説を直す気力も起きた。しかし何もかも仮説通りでは、実験を行った意味がない。アマクダリに売れば多少の金にはなるだろうが、バシリデスの知的好奇心は満たされない。3
2016-08-26 21:09:03「……アブラクサス・サン、これで、お前の望み通りか?」焼け焦げた生首に声をかける。無論、返事はない。ナラク・ニンジャの膨大なソウル情報と、ミカガミ・ジツ、そしてこのオイランドロイドを使って、アブラクサスが何を再現しようとしたのか。彼がオタッシャした今では、確かめようがない。4
2016-08-26 21:12:03バシリデスはドロイドの再起動プログラムを実行した。デン・ジツは制御系にダメージを与えたが、ソウルを司るUNIXは無事だった。ボディを修理すれば問題なく動く。そしてバシリデスは一つ細工を施した。ソウルを制御プログラムで覆い、彼の意のままに動く殺戮マシンへと作り変えたのだ。5
2016-08-26 21:15:04アブラクサスが死に、ソウル転写が仮説通りだと証明された今、バシリデスが新しい実験を始めても咎める者はいない。データ化した人格を、外部プログラムでどこまで制御できるか。それも、強制ではなく、自発的選択と錯覚させる形で。バシリデスの興味はそちらに移っていた。6
2016-08-26 21:18:03なんたる底無しの研究欲であろうか。記憶の転写が可能と分かると同時に、彼の興味は次へ移っていた。道徳、倫理、シツレイ、そういった社会規範のデータ化を行おうとしているのだ。無論、その餌食となる実験台にかける憐憫は、欠片も無い。ニンジャだからだ。7
2016-08-26 21:21:02人格制御プログラムがインストールされる。順調に進む進捗バーを見ながら、バシリデスはもう一度ソウル転写UNIXのデータを見た。全て予想通り。突出したデータは一つもない、フラットな記録だ。「……うん?」何もかも想定内。フラットな数字。だが、これを生身の人間に当てはめれば、どうなる?8
2016-08-26 21:24:02バシリデスのニューロンが急速に活性する。唯一引っかかっていた疑問を思い出した。ニンジャスレイヤー本体から吸い出せなかった僅かなソウル。あれがなければ、そもそもニンジャスレイヤーはニンジャではなくなり、その場で爆発四散していただろう。では、残ったものは一体なんだったのか。9
2016-08-26 21:27:03筋力、不浄の炎、反射神経、武具生成、記憶。これ以上何がある。隠し持っていたソウルの力?いや、ナラク・ニンジャの記憶を持つアブラクサスが気付かない筈がない。アブラクサスが嘘をついた?可能性はあるが、低い。見落としたもの。フラットなデータ。ニューロンに電流が走る。10
2016-08-26 21:30:05そうか、とバシリデスは声をあげようとした。だが、喉から出たのは血煙だった。「アバッ……?」信じられぬ、と言った表情で、バシリデスは自分の胸から突き出たオイランドロイドの腕を見た。「愚か者め。眠っておるとはいえ、ワシに背を向けるなど、殺してくれと言っているようなものだぞ」11
2016-08-26 21:33:10少女型オイランドロイドが腕を引き抜くと、バシリデスの体が椅子から崩れ落ちた。ドロイドの再起動はまだ終わっていない。なぜ動いた。訳のわからぬバシリデスの顔を、ナラクが踏みつける。みしり、と頭蓋骨が鳴る。「アバーッ!」「動けぬことをいいことに、散々弄んでくれたのう?」12
2016-08-26 21:36:02「やめろ……まだ、貴様は未完成だ……」バシリデスは呻く。再起動プログラムも、社会規範のインストールも終わっていない。それに何より、ナラクには肝心なものが足りていない。バシリデスの頭の中には、新たな仮説があった。13
2016-08-26 21:39:04だが、ナラクはそれを必要としなかった。「バカめ。今のワシに何が足りぬというのだ?命乞いなら、もっとマシなものをせよ。イヤーッ!」バシリデスの頭が踏み砕かれた。「サヨナラ!」爆発四散。シェルターめいた工房の外に、音が漏れることはなかった。14
2016-08-26 21:42:01「愚かさもここに極まったか、フジキド・ケンジよ。大人しくワシに騙されていれば、命は助かったと言うのに」ナラクの体を不浄の炎が覆う。手術着が消し炭になる。そして炎がドロイドボディに絡みつき、赤黒の装束を形作った。口元は、牙の生えた禍々しいメンポで覆われていた。ニンジャだ。15
2016-08-26 21:45:02それに応えるように、フジキドも装束を生成する。「愚かなのはオヌシだ、ナラク。オヌシにニンジャ殺しを預けるつもりはない。ニンジャを殺すのは私の役目だ」「笑止!そのような脆弱なカラテで何ができる!」「できるのではない。やるのだ」ニンジャスレイヤーは拳を握り締めた。16
2016-08-26 21:48:04「……のう、フジキド」不意に、ナラクの声色が変わった。労り、心配するような声だ。「ワシはオヌシの戦いをよく知っておる。妻子を殺された日から、オヌシはよく戦った。その稚拙なカラテにしては上出来よ。だがそのような戦い方ではいつかは身を滅ぼすぞ」「オヌシに心配される筋合いはない」17
2016-08-26 21:51:08「だがよ、オヌシが死ねば、残ったアマクダリのニンジャはどうする?オヌシが殺し損ねたニンジャがのうのうとのさばってしまうぞ?全てのニンジャを殺すと言うのなら、それこそ強くて滅びぬワシの方が相応しかろう?」「滅びぬだと?そのドロイドはそれほど強靭なものではなかろう」18
2016-08-26 21:54:05「そうではないぞ、フジキドよ」ナラクは自信ありげに語る。「例えこの体が滅びても、ソウルを別のオモチャに乗せ換えれば、ワシは再び元通りよ。インターネットとドロイドがある限り、ワシはニンジャを殺し続けることができるのじゃ。ほれ、ワシの方がニンジャスレイヤーに相応しかろう?」19
2016-08-26 21:57:14「黙れ、人形めが」「ッ!?」その時、オイランドロイドの言葉を断ち切ったのは、紛れもなくフジキドの声だ。しかし、このような声をナラクは知らぬ。フジキドすら驚いていた。ナラクロイドの話を聞いた時、フジキドの心の奥底から煮えたぎる感情が湧き上がり、自然と声を形作ったのだ。20
2016-08-26 22:00:20今のフジキドは、この感情を言い表すことができない。とあるセンセイが彼のマグマに名前を授けるのは、まだ先の話になる。代わりに彼は全身で己の感情を現した。すなわち、カラテだ。ジュー・ジツの構えを取られては、ナラクも応じるしかなかった。「「イヤーッ!」」21
2016-08-26 22:03:07CRAAAASH!!「グワーッ!」窓ガラスから投げ出されたのは、ニンジャスレイヤーであった。彼の繰り出した拳を潜り、ナラクが肘打ちを放ったのだ。「イヤーッ!」ナラクは窓を蹴破り、ニンジャスレイヤーに飛びかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはハイキックでこれを迎撃!22
2016-08-26 22:06:05