アイドルスレイヤー#4【レジェンド】part4(完)

𝑪𝒖𝒓𝒓𝒚 @88paksr8623

晴海サワラはぽつり、ぽつりとアイドルの暗黒に呑まれた歴史を話す。 それは歴史の講義というよりは、噂話を友人の前で出すような妙な軽さがあった。1 #ナナニン

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【レジェンド】part4 #ナナニン

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しかしアイドルに関して無学なハルのために、まずはアイドル(戦えるものを指す)とはなにかについて、サワラは説明せねばならなかった。2 #ナナニン

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アイドルの本来の姿は、ファンからの声援、すなわちコトダマをダンスや歌に変え、ファンに応えるもの、とサワラは簡潔に説明した。 逆に言ってしまえば、ファンの存在がなければアイドルは力を発揮できず、ファンに応えることがアイドルになっていたのだ。3 #ナナニン

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アイドルは超人的なオーラ、パワを持っていたが、ファンの存在が鎖となって暴走は抑えられていた。偶像である。 ｢待ってください、ファンなんて私にはいないし、いなくてもこうして力がありますが……｣｢これは"本来のアイドル"の話なのよ、それについては後でね｣4 #ナナニン

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七咲ニコルについて語る前に、サワラは背後の本棚から分厚いハードカバー本を取り出した。｢これから少し話は長くなるけど、寝ないでね？｣｢立場が逆なら、おめぇの方が寝そうな気もするがな｣ ヒメの悪態をかわし、サワラはページの黄色くなった本を開け、語る口を再び開く。5 #ナナニン

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そもそもアイドルの起源はティグリス･ユーフラテス両河とも、ナイル河とも、はたまた黄河ともいわれるが、四大文明とともにアイドルが成立したのは確かといわれている。 現にピラミッドからはアイドル用の神器｢ネコミミ｣が発見されている。6 #ナナニン

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その後、アレクサンドロスによる大帝国に飲まれた土着のアイドル文化は、ヘレニズム文化と融合。それがローマに入り各地に広まったといわれる。 この時期に現れたのがかの有名なアイドル百人隊長やアイドル総督である。4 #ナナニン

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日本においては中国からコメとともにアイドルも伝来したと、在野のアイドル史研究家の大半は主張する。 戦国時代には出雲阿国がアイドルの形式を確立するも、それが発現するのは江戸時代まで待たなくてはならない。8 #ナナニン

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その最たるものは茶屋のカンバン娘だろう。 彼女らは身近なアイドルとして小さな声援を受けながら、カポエイラと並ぶ暗殺拳であり、現代のもてなしの基礎となったチャドーを裏で容赦なく振るったと一説にはいわれている。9 #ナナニン

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それ以後も、超人的な力をもった少女たちは歴史に寄り添って生きてきた。 プロダクション、スクールアイドル、時代の数だけ彼女らは新たな文化を広げた。10 #ナナニン

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しかし、創造があれば破壊もある。 七咲ニコルの率いたグループはアイドルの歴史上屈指の破壊者のそれといえるだろう。 その名前をセブンスシスターズという。11 #ナナニン

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今から40年ほど前、わずか2年の活動の間にセブンスシスターズはアイドル界隈を手中に収め、その並み外れたパフォーマンスとオーラで他を圧倒した。 そんな彼女達は突然引退を発表。アイドルを辞めるカイサン儀式は一説にはサイタマ、もう一説にはトーキョーで行われたとされる。12 #ナナニン

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しかしアイドルからの引退プロセスとして避けては通れぬカイサンは、彼女らの強すぎるパワでは不可能だった。 本来失われるべきそれは、消えるどころか増大し、ついには暴走を始め……。 ｢……それが"セブンスストライク"といわれている爆発事故ね｣サワラは本をぱたと閉じた。13 #ナナニン

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｢セブンスストライク……｣｢この爆発でその場にいた全てのアイドル、数百名が姿を消したといわれてるわね｣｢事故どころか災害じゃねぇか……｣数字の大きさにヒメは驚く。 ｢でもね、これには裏があるのよ｣｢というと？｣｢これは私が直に見たから信頼度百点なんだけど……｣14 #ナナニン

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｢実際私が見たのは、カイサン途中のステージに上がり込む一人のアイドルの姿だったのよ｣｢殴り込みか？｣｢そんなとこ、ライブバトルを始めてたわよー｣ 現在のハル達と違い、表立っては拳を使わず、歌やダンスで勝負するのが当時のアイドルだった。15 #ナナニン

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｢そしてバトルがヒートアップしたところで2人のオーラが反発、爆発した……らしい｣｢らしいって、あのなぁ……｣曖昧な語尾にヒメは肩をひそめる。｢仕方ないじゃない、私はその時会場を離れてたんだから｣ ｢あの、それで七咲ニコルは一体……｣ハルは小さく質問する。16 #ナナニン

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｢そのまま消えた……、と言われているけど……｣サワラはハルをじっと見つめる。｢えっ、なにか付いてますか？｣｢なるほどね｣ ｢納得してねぇで説明してくれ｣｢噂でね、七咲ニコルともう一人はその爆発を生き延びたっていうのがあるのよ｣17 #ナナニン

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もう一方は不明だが、七咲ニコルはアイドルとしての力を失い、名を変えて姿を消したといわれている。｢義経伝説と同じようなものと思ってたけど、まさか本当とはね……｣ ｢本当というと？｣｢あなたに憑いてる子はまさしく名を変えた七咲ニコルよ｣｢エッ｣17 #ナナニン

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｢さっぱりわからねぇ、七咲ニコルは現に他にいるのに……｣ヒメの呟きを聞いたサワラは、少し考えると歴史の本をしまい、また椅子に腰かけた。｢それについては私の話の後で、ね？｣ 再びサワラは語り始める。彼女の語り口は無責任なようでどこかリアリティがあった。19 #ナナニン

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セブンスストライクによりアイドル界隈は致命的な損失を被った。 そこへカイシャクとなる一撃を放ったのが政府だった。事故によりアイドルの危険性を認識した彼らは、弱体化したアイドル界の解体に取りかかった。 公文書からアイドルの文字は消え、事故も他の原因にすり替えられた。20 #ナナニン

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既存のアイドルに代わって登場したのは、同じ名の、しかし力を持たぬそれであった。 元々アングラ気味であった既存のアイドルと違い、こちらはメディアにも多く出ている。ハル達一般人がアイドルと言われ連想するのはこちらだ。21 #ナナニン

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反抗するアイドルもいた、しかしそれらもやがて押さえつけられ、古いアイドルたちは姿を消した……はずだった。 しかし、数年前からの奇怪な現象は古来からのアイドルの復活を示唆しているとも思える。 そう、アイドルの憑依だ。21 #ナナニン

𝑪𝒖𝒓𝒓𝒚 @88paksr8623

ハルやヒメのように、本来ならば修練を積み、ファンの力がなければ使えぬアイドルの力が何故か使える少女が増えているのだ。 ｢なるほどな、オレ達は近頃増えてきた人種ってわけか｣｢まぁねー｣ちょうどそこへカジカが入って来て、コーヒーを配っていく。｢ありがとうございます｣23 #ナナニン

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｢早速こっちの土産の豆挽いたのか｣｢コーヒーは我慢できないのよねー｣香りを楽しみ、しばし休む一同。 ｢あ、それで私に憑いたアイドルと七咲ニコルのこと……｣｢はいはい、それね｣ハルの質問にサワラは適当に返事をする。コーヒーを楽しむ時間は邪魔されたくないようだ。24 #ナナニン