ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー

深海棲艦と人類、彼らの棲む海は極めて近く、そして限りなく遠い
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#1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ヴェリー・クローズ、インフィニトリィ・ディスタント・シー」#1

2016-09-02 21:15:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

人類最後の砦、鎮守府。その本拠地たる日本からはるか遠く。いまだ深海棲艦に支配された大西洋を睨むは、ポート・ブレア西方前線基地。先の大規模作戦においては、3度大イクサの舞台となった血と鉄屑に満ちた海を臨むその場所は、大なり小なりイクサの絶えぬ海である。 1

2016-09-02 21:19:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」「イヤーッ!」BLAM!BLAM!KABOOM!そして今、夕焼けに海が朱に染まったこの時もまた、イクサの音が海を揺るがした。「イヤーッ!」軽巡艦娘・龍田が恐るべき速度で踏み込み、槍型主砲による突きを繰り出す。「イヤーッ!」深海棲艦は手にした巨剣で切っ先を逸らす。 2

2016-09-02 21:22:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」死角に飛び込み、4本の魚雷を放つのは駆逐艦娘・早霜だ。4本の魚雷が微かに白い軌跡を描き、深海棲艦に迫る。「イヤーッ!」「イヤーッ!」龍田が深海棲艦を拘束する。深海棲艦は纏う紅いマントの下から、ウドンめいた触手が一本這い出す。その先端には駆逐イ級めいた鉄塊。 3

2016-09-02 21:27:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

鉄塊の口から一門の主砲が迫り出す。BLAM!龍田が動くよりも速く、鉄塊は魚雷を一本撃ち抜いた。KABOOM!魚雷が連鎖爆発を引き起こす!「イヤーッ!」龍田は素早く深海棲艦から跳び離れた。1秒後。BRAATTATATATAT!空から襲い来る艦載機が機銃掃射を仕掛ける! 4

2016-09-02 21:30:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」深海棲艦は鉄塊めいた武骨な巨剣を出鱈目な速度で振り回し、弾幕を打ち払った。爆炎と硝煙を翻るマントで打ち払い、深海棲艦は口を開いた。「物騒だな」彼の者は巨剣を肩に担ぐ。「私は別に君たちに危害を加えるつもりはないんだがね」「あら。今更世迷言かしら。深海棲艦=サン?」 5

2016-09-02 21:34:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

龍田は蠱惑的な笑みを浮かべると、恐るべき槍の切っ先を深海棲艦に向けた。「人間の領海を通ろうとした深海棲艦が死ぬのは、当然のことではなくて?」「一方的なレッテルは好きではないな…そして私の名前は深海棲艦ではない」彼は不快感を露わにし、オジギをする。「ドーモ、ライオンハートです」 6

2016-09-02 21:39:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

龍田はキョトンとした顔を浮かべ、アイサツを返す。「ドーモ、天龍型2番艦・龍田です。深海棲艦がカラテの真似事かしら?」「私は。ライオンハートだ」声に怒気を滲ませ、ライオンハートは一歩踏み込む。「他もアイサツせよ」「…ドーモ、夕雲型17番艦・早霜です」早霜が幽鬼めいてアイサツ。 7

2016-09-02 21:44:30
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「向こうにいるのが、ドイツのグラーフ・ツェッペリンちゃんよ」龍田は背後に視線を送る。戦場から遠く、沈みゆく夕日を背にして立つは、プラチナブロンドの白い空母艦娘。グラーフはカードスロットに艦載機カードをセットし、戦況を静かに見守る。「で、結局何が目的なのかしらぁ?」 8

2016-09-02 21:53:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「目的?」ライオンハートは首を傾げた。「ただ通りたいだけだが?この先に用事がある」「この先にあるのは深海棲艦の巣窟よぉ?そこに一隻でも多く増援を行かせるとでも思って?」「だから、レッテルを貼るなと…」ライオンハートは溜息をついた。「押し通る他なしか」「死にたいのかしら?」 9

2016-09-02 21:57:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

龍田の周囲の空気が、カラテによって揺らぐ。カラテ強者であることに疑いようもない。早霜も後方のグラーフも、それに劣らずであろう。「さて、どうしたものか」熾烈なイクサを覚悟し、ライオンハートが肩に担いだ巨剣を構えんとした、その時だ。SPRAAASH!突如海水が巻き上げられる! 10

2016-09-02 22:03:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

海中から突如として飛び上がってきたのは、牡牛めいた角とウミヘビめいた下半身を備えた深海棲艦らしき存在であった。龍田は眉を顰める。「今日は変な深海棲艦が豊作ねぇ」「ドーモ……!?」その者は龍田の言葉を意に介さず、アイサツせんとし、ライオンハートを見て凍り付いた。 11

2016-09-02 22:11:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「…君は?」「バカナ…味方ガイル?聞イテナイゾ!」その者は激しく狼狽し、そしてあらぬ方向へと叫び出した。「オーイ!撃ツナ!撃ツンジャナイ!味方ガココニイルゾ!」「…何を?」突然現れた深海棲艦の為す奇行に、龍田は唖然とする。『タツタ!』通信機からグラーフの声…KABOOM! 12

2016-09-02 22:17:12
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

突如、爆音と共に海が抉れ爆ぜる!「砲撃…何が!?」『タツタ!ハヤシモ!逃げろ!』「グラーフちゃん?」『超長距離からの砲撃だ!おそらくその深海棲艦をマーカー代わりにしている!』「外道ねぇ」龍田はただそう言うと、早霜に指示を出した。「早霜ちゃん、退避するわよ」「はい」 13

2016-09-02 22:21:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

龍田と早霜は全速で以てこの砲撃の雨降りしきるイクサ場から離脱する。二人の装甲はあまりにも薄いものだ。留まる理由は万に一つもない。だが、ライオンハートは違った。「おい、君!君!」彼は砲撃の直撃を喰らい、傷ついた深海棲艦を助け起こさんとした。「大丈夫か!」「ニ、逃ゲテ…」 14

2016-09-02 22:25:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その深海棲艦は最期の力を振り絞り、長い尾でライオンハートを吹き飛ばす。「グワーッ!?」「貴方ガ死ヌ必要ハナイ…オタッシャデー!」1秒後、複数の砲撃がその深海棲艦に降り注いだ。KABOOM!KADOOM!KRA-TOOOOM! 15

2016-09-02 22:29:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ライオンハートは急いで体を起こす。爆炎が晴れた先に、その深海棲艦の姿はなかった。あれほどの砲撃。死んだのだろう。「救えなかったか…!」ライオンハートは音を立て巨剣の柄を握りしめ、歯を食いしばった。その青い双眸には憤怒の炎が燃え盛る。 16

2016-09-02 22:32:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「誰だか知らぬが…」ライオンハートは巨剣の切っ先を砲撃が飛来してきた空へと向け、宣言した。怒れる獣の如く。「この落とし前は、しっかりとつけさせて貰おう…!」 17

2016-09-02 22:33:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ドーモ、暁型4番艦・電です」「ドーモ、平賀です。長旅ご苦労様です、センセイ」「もうセンセイではないですよ」電は謙遜するかのように苦笑した。ここはポート・ブレア西方前線基地指令室。この地の指揮官、平賀西鶴少将をして礼を尽くす目の前の少女は、果たして何者であろうか? 19

2016-09-02 22:48:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「いえ、若輩の自分を教え導いてくれたのは、電=センセイに他なりません」平賀は電に礼を尽くす。暁型4番艦・電。彼女は最初期に誕生したオリジナル艦娘にして、10数年続く深海棲艦とのイクサを生き延びた猛者だ。今は一線を退いた彼女は、多くの後進を育て上げた。平賀もその一人だ。 20

2016-09-02 22:56:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「それで、視察はいつまでで?」平賀は電にコーヒーを出し、朗らかに問い掛ける。「10日間ほどなのです」「長いですね」「実は、本土の方でいろいろ問題があったのです」「ほう?」平賀は片眉を僅かに釣り上げた。「その結果、念入りに調査しなさいとの赤レンガからのお達しなのです」「成程」 21

2016-09-02 23:05:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「艦娘たちとは、仲良くやれてますか?」「ええ、上手く指揮できていると自分では」その答えを聞き、微かに電の表情が翳る。「センセイ?」「あっ、いえ。なんでもないのです」電は気まずそうに咳払いすると、笑みを取り繕う。「ポート・ブレアは要所ですからね」 22

2016-09-02 23:17:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「問題なく指揮出来ているようなら、何よりなのです」「ありがとうございます」平賀は頭を下げる。そして彼は自信に満ちた表情で言った。「この海から深海棲艦を一隻残らず撃滅するまで、私は頑張りますよ」その言葉を聞き、途端に電は悲しげな表情を浮かべた。「……そう、ですか」 23

2016-09-02 23:22:54
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