『#広報艦隊』

艦これ二次創作である。 艦娘は機械であり道具である。 提督はその使用者である。 ※自分用まとめな
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赤肩 @fuyutuki67

階段を上がり事務所の扉を開けると篭った空気が早朝の冷えた空気に雪崩込んで来た。奥の机を覗くと夜勤の飛龍が机をゴミ箱兼枕にして撃沈している。彼女に気づかれないよう背後を抜け、オフィスの窓を開き換気を始めると眠れる龍が薄く眼を開け今にも火を噴きそうな大きな欠伸をした。 #広報艦隊

2016-08-18 00:20:56
赤肩 @fuyutuki67

「……はぁよございまぁ」なんとか挨拶の形を成している咆哮を上げる龍、身体はもう机に倒れ始めていた。私がビニール袋ごと彼女へ朝食と缶コーヒーを投げてみるとひょいと腕が上がり指先で袋を引っ掛けた。「食べ物、投げないで」「おはようございます。二度寝しようとした貴女が悪い」 #広報艦隊

2016-08-18 00:26:59
赤肩 @fuyutuki67

ここはラバウル基地所属海軍省広報課第42号分室。現実とリアルを選り分ける部屋。ラバウルといっても所在地は本土、あくまで書類上だけの所属らしい。先ほどの彼女、飛龍はここの主力。日夜流れるラジオや映像、ネットにオカルト、ありとあらゆるメディアを監視する事が主な任務だ。 #広報艦隊

2016-08-18 00:35:48
赤肩 @fuyutuki67

机に荷物を置き、古びたコーヒーサーバーを使おうとすると飛龍が手を振る。「それ、タマ切れですよ」インスタント、ゼロ。私の豆、ゼロ。渋々席に戻りパソコンを付けメールボックスをボーっと眺める。画像添付が三桁、苦情が二桁、スパムが沢山。ああ、清々しい朝だ。 #広報艦隊

2016-08-18 00:39:42
赤肩 @fuyutuki67

私の仕事は各地から送られてくる写真に目を通して今日の夕方に使う分と明日の朝に流す分を決める事。しかしここは広報であって報道ではない為いくつかの方針に沿った写真のみを探し出さなければならない。まずエログロはダメ、これは当然だ。次にブレやボケ、写り込みの激しいのも同様。 #広報艦隊

2016-08-18 00:44:53
赤肩 @fuyutuki67

そしてここからがメイン、写ってはならないモノを見つけ出すこと。露出が禁止されている艦娘、深海棲艦、傷ついて帰投する者、ボロボロの鎮守府、秘匿対象、その他。あくまで広報に使える写真のみを厳選しなければならない。派手で、綺麗で、笑顔で、青空と海が写っていたら最高。 #広報艦隊

2016-08-18 00:49:25
赤肩 @fuyutuki67

しかしそんな写真はまず無い。激増した鎮守府組織群は海軍省統制から離れ独自に貿易や個別護衛、この前行った鎮守府は珈琲豆の農園を経営している始末だった。現代で海に関わることは大金と命を天秤に乗せる事と同義になっており命が安い”提督”や”艦娘”たちは我先にと起業していた。 #広報艦隊

2016-08-18 00:56:35
赤肩 @fuyutuki67

そんな場所から上がってくる写真、不真面目ここに極まれり。目を三分の一ほど開けて写真を流し見していると朝食を終えた飛龍がふらふらとこちらへやって来た。机にふわりと落ちる白い紙。それに目を通すと煙草480円が3箱、袋菓子108円が2袋、缶コーヒー118円が3本。 #広報艦隊

2016-08-18 01:00:48
赤肩 @fuyutuki67

さて飛龍ちゃんはいくらお小遣いが帰って来るでしょうか。「飛龍さん、とりあえず上3件までは認めましょう。ですが下1件は認めませんよ」赤いボールペンで二本線を走らせ彼女に突き返すと龍はムッとして再度レシートを叩きつけて来た。 #広報艦隊

2016-08-18 01:07:57
赤肩 @fuyutuki67

「別に経費でとは言いませんよ。ですが昨日、いえ一昨日これ切らしてたの知ってるんですからね。折角人が気を効かせたってのにこのムッツリは」私は無言で彼女の前に財布を差し出した。「はいはい、最初からそうやって素直にしてれば良いんですよー」 #広報艦隊

2016-08-18 01:11:52
赤肩 @fuyutuki67

彼女は彼女が覚えている金額分を私の財布から抜き取り飄々と自分の机に戻って行った。……誤差にしては大きいな。「じゃあ提督お先にー、一箱仮眠室に置いておいたんで適当にどうぞー」そう言うと飛龍は寮へと帰って行った。ここに訓練や待機は無い、勤務時間通り働いて帰って寝る。 #広報艦隊

2016-08-18 01:18:11
赤肩 @fuyutuki67

戦闘指揮なんてもう何年やってないか。あと1時間もすれば他の連中も来るだろう。それまでに彼女たちに見られてはならない写真を片付けなければならない。朝日に照らされる産地直送グロ画像と秘匿画像を眺めつつ手帳の予定に目を通す。ああ、今日は何時退勤になることやらか……胃が痛い。 #広報艦隊

2016-08-18 01:28:02
赤肩 @fuyutuki67

午前9時、他のスタッフたちも事務所に揃い本格的に業務が走り出す時間。今日の仕事はポスター3種類に使う写真と冊子構成。なんでも外地の鎮守府の一部が観光事業を始めたいという事でコピーは『二式大艇で行く空と海の旅』だそうだ。 #広報艦隊

2016-08-19 18:54:18
赤肩 @fuyutuki67

早朝に選別した写真を足柄と古鷹に投げる。「ちょっと似たようなのばっかりじゃない」足柄が文句を呟く。貴女たちの仕事は似たような写真の中から使える写真と加工すれば使える写真を見つけることなのだよ。「まぁまぁ、ほらこの龍田さんの水着姿とかいけそうですよ」古鷹さん、理解が早い #広報艦隊

2016-08-19 18:58:49
赤肩 @fuyutuki67

その他、啓発イベント企画や戦没艦娘地域慰霊祭など諸々の仕事の進捗を確認すると私は事務所を出た。薄汚れた車に乗り彼女を迎えに行く。走れば走るだけタイヤが痛む、昔は道路工事も頻繁にやっていたらしいが今では穴程度なら上等、ヒビ割れや舗装自体が崩れていたりとひどい時代になった #広報艦隊

2016-08-19 19:07:42
赤肩 @fuyutuki67

それでも目的地に近づくにつれて道は良くなっていく。軍関係施設と港を繋ぐ道だけはちゃんと補修が行われていた。しばらく走ると長い壁が見えてきた。堅牢なゲート、守衛も完全武装の重巡艦娘が勤めている。「身分証を」私は無言で身分証と必要書類を手渡した。 #広報艦隊

2016-08-19 19:13:16
赤肩 @fuyutuki67

「身元引受人、ですか」駐車場に車を停め鍵を受け付けに預け所内へ。テレビ1つない待合室で彼女を待つ。10分、20分、30分、寝て、起きて、11時。ようやく部屋の脇にある扉が開く。ボサボサの髪に荒れた肌、着よれた服の彼女は両脇を看守に固められシャバに帰ってきた。 #広報艦隊

2016-08-19 19:21:53
赤肩 @fuyutuki67

「もう来るなよ」あ、本当にこういう事言うんだ。私が歩み寄ると彼女は顔を背け視線を落とす。大淀、前科アリ。当鎮守府の編集業務担当。彼女の手を引き営倉を後にする。車に乗ると彼女の臭いが鼻をつく。でも少しドライブして帰ろう。「来た時の約束、覚えてますよね」大淀の肩が跳ねた。 #広報艦隊

2016-08-19 19:28:25
赤肩 @fuyutuki67

彼女の前科は主に薬物と暴行。幸い殺人まではついていない。今回もそのセットだった。休暇の日に薬を買いに行ったはいいが艦娘に効く量の薬物は現金で買おうとすると膨大な金額なる。彼女は薬物を知ったその日から最も適切な方法であの結晶を仕入れていた。 #広報艦隊

2016-08-19 19:32:47
赤肩 @fuyutuki67

殴って殴って動けなくなったら在庫の薬を奪ってハッピータイム。彼女はダウン系好きらしいが間違ってアッパーを極めた時など売人と護衛が生きているアートになっていた。今回も拳を血に濡らした彼女が程よくリラックスしながら夜の住宅街を歩いているところを警備隊に捕まったらしい。 #広報艦隊

2016-08-19 19:36:50
赤肩 @fuyutuki67

走行音だけが聞こえる車内。彼女は助手席で足を抱えて顔を埋めていた。「やらないって約束しましたよね」無言。「病院、いつから行ってないんですか」無言。「貴女の分の仕事は」ただ無言、答える気配がない。それでも私は問い続けなければならない。「なんで、またやっちゃったんですか」 #広報艦隊

2016-08-19 19:41:54
赤肩 @fuyutuki67

「ティッシュください」油膜で汚れたレンズの下から溢れる涙。走っている間、彼女はずっと声を殺して啜り泣いていた。「怖かったんです」今にも消えそうな声だった。「海で戦うことも司令部で作戦をまとめることもできない私がここにいても良いのかと思うと不安で不安で仕方ないんです」 #広報艦隊

2016-08-19 19:48:14
赤肩 @fuyutuki67

大淀が前にいた鎮守府は不幸だった。そして彼女もその不幸を被ってしまった。開設当日に敵主力部隊の大攻勢に見舞われたのだ。地平線から飛んでくる航空機編隊、見える距離にいる敵からの波状砲撃。正式開設から僅か数時間にして彼女のいた鎮守府は瓦礫の山と化した。 #広報艦隊

2016-08-19 19:52:15
赤肩 @fuyutuki67

納品されたばかりの机や椅子は吹き飛び、油汚れ1つない機材は崩れ、綻びのない真っ白な壁は砕け散った。無論、若き提督は戦死。生き残ったのは彼女1人だけだった。彼女の自信も発見の時、鎮守府の柱の下敷きになっていた。こうして彼女は戦えない艦娘になった。 #広報艦隊

2016-08-19 19:57:27
赤肩 @fuyutuki67

助かっただけ良いと人は言うが後遺症が残ってしまった。腰に深いダメージを受けてしまったせいで長時間立つ事ができず、さらに精神面でも深い傷を負い手の震えや喉の渇き、記憶の混濁など銃を構えさせることすらできない。通常であれば彼女は解体されていた。しかし彼女は私の助手席にいる #広報艦隊

2016-08-19 20:01:39
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