遺失名工楽器【2016加筆修正版】◆2

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＿遺失名工楽器【2016加筆修正版】◆2

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＿竜と人類は過去の禍根から、互いに干渉を制限している。だが、敵対はしていない。こうして難局には助け合う程度には友好的だった。 　3匹のうちのリーダーは、首が短く胴の長い種族だった。5メートルほどの全長は竜にしては小さい。 　丸眼鏡をかけ立派な襟鰭をつけている。 11

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＿見ると遺体が並べられ、布がかけてある。20人程度だろうか。 「私たちが来た頃にはすでに弔ってあった。生存者がいる。だが、すでにいなかった。きっと安全な場所に退避している」 　ヒドルは飛行鍋から信号弾を取り出し、天空に放った。甲高い射出音と、紫の煙が長く空にのびていった。 12

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＿彼は飛行鍋に乗り、上昇する。 「生存者を捜してきます。みんなによろしく！」 　水を探しに谷へ下りたのだろうか？　ヒドルはそう予想して、谷へ飛行鍋を進めた。遠くの空には信号を聞いて集まった飛行鍋が見えるが、すぐ霧に隠れて見えなくなった。 13

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＿視線を下に戻す。谷底には細い川が流れていた。ヒドルは、すぐにボロ切れを振って助けを呼ぶ遭難者を見つけられた。 　彼はもう一度空に向かって信号弾を撃つと、降下する。 「大丈夫でしたか！」 「助かった……遠くに竜が見えて、谷底に隠れたんだ」 14

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＿怪我人が何人もいる。ヒドルは無意識にウェイシィを探していた。遭難者がおずおずと話しかけてくる。 「あの、あともうひとり……女のひとがいたのですが……」 　ヒドルはそれを聞いた時、動揺を抑えられなかった。声が震える。 「女の方が……どうしたのですか？」 15

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＿聞くと、遭難者の女性の一人がどこかへ行ってしまったというのだ。 「音楽が聞こえる……とか言って行ってしまいました……」 「感謝します。さっそく探しに行きます」 （音楽？　こんな山の中で？） 　思い出すのは、先程の耳鳴り。何かが起こっている。不安で鼓動する心臓。 16

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＿飛行鍋を発進させるが、風でぐらつく。眩暈がする。先程の一団のなかにウェイシィはいなかった。 （もしかしたら……その女性かもしれない） 　上流の方へ行ったと聞き、飛行鍋で赤茶けた生命の気配のない川を辿る。音楽なんて何も聞こえない……と思い始めたときである。 17

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＿風の音に混じって、弦をつま弾くような音が聞こえ始めたのだ。聞いたことがある音だと彼は思った。ウェイシィの弾くエキルストリングの音によく似ていた。 　音に吸い寄せられるように、ヒドルは音の先へ飛行鍋を向かわせる。谷底の圧迫感で息苦しい。鉛のように鈍く光る小川。 18

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＿川の上流、あちこちの洞窟から湧水が流れ出している場所、そこから音が響いていた。そこへ向かう一人の女性……ウェイシィだ。ポスターや雑誌で見た顔そのままのウェイシィ。 　とうとう、追いついたのだ。ヒドルの目に熱いものがこみ上げる。 「ウェイシィさん！」 19

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＿その声が聞こえないかのように、ウェイシィは音の先へ吸い寄せられていた。ヒドルは飛行鍋を着地させ、彼女に駆け寄る。 「よかった、ウェイシィさん。帰りましょう」 　そこでウェイシィは振り返る。その笑顔はまるで歪んだ夢を見ているような、陶酔感で濁っていた。 20

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＿遺失名工楽器【2016加筆修正版】 ◆2終わり　◆3（最終回）へつづく

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【用語解説】　【竜の劣等種】 レッサードラゴン。独力での人間体への変身能力を持たず、竜体を晒している。言葉を話すが魔法の適性はあまりない。これは感情が未発達な故と言われている。体積が大きいので、大量のシリンダーをインプラントすれば不自由なく魔法を使えるし人間体にも変身できる

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