丸山真男「日本政治思想史研究」は、なぜ面白いのか?

2
イヌノオー@ @inunohibi

サイモン・シンの傑作ノンフィクション「フェルマーの最終定理」によると、数学者が偉大な業績になるアイディアをひらめくのは、若い頃に集中しているという。数学の苦手な私の偏見だけれど、数学に長い人生経験は必要なさそうに見える。

2016-09-07 22:10:19
イヌノオー@ @inunohibi

文系の学者はどうだろうか。長く生きて幅広く知識を広げ、含蓄のある社会経験を織り交ぜれば、年を取っても通用しそうな気がする。年を取ったからこそ、面白くなるかもしれない。しかし偉大な社会科学者をながめてみると、やっぱり若い頃から業績を上げている人もいる。

2016-09-07 22:10:59
イヌノオー@ @inunohibi

丸山真男はその好例だ。丸山の傑作は、「日本政治思想史研究」「現代政治の思想と行動」「日本の思想」と、初期・前期に集中していると小室直樹(丸山門下でも異色の人)は言った。(立ち読みしただけなんだけど、たしか「論理の方法」)

2016-09-07 22:11:21
イヌノオー@ @inunohibi

20才の時に初めて読んだ「日本政治思想史研究」は、読み通すのに苦労した。戦前発表の論文を集めたもので、旧漢字は新漢字に直されているが、旧かながそのままなので、まずそこで読みづらい。

2016-09-07 22:12:04
イヌノオー@ @inunohibi

最近ちょっと読み直してみたのだが、スイスイと読めてしまった。昔に比べて一応進歩しているんだなあ、と思う反面、この手の難しい文章に慣れすぎただけかもしれない。

2016-09-07 22:12:12
イヌノオー@ @inunohibi

難しい文章に慣れると、自分が書くこともうっかり難しくなってしまう。学者の書いた「わかりやすい何々」が大抵わかりやすくとも何ともないのは、頭が難しい文章にブレインウォッシュされているからである。

2016-09-07 22:12:39
イヌノオー@ @inunohibi

私もそうなっているから、ツイッターのフォロワーが増えないのかな~、とか、ネタがマニアックすぎるのかな、まとめの閲覧数も頭打ちだ、といろいろ気にしている。あと、新しいアイディアも少なくなった。昔は質はともかく、いろいろ新しく思い浮かぶことがあったのだが、最近は鈍ってきている。

2016-09-07 22:13:12
イヌノオー@ @inunohibi

「日本政治思想史研究」は、著者もあとがきで断っているように、日本の政治思想全体を通観したものではなく、日本近世(江戸時代)の中で、とりわけ荻生徂徠の思想がいかにエポック・メイキングとなったか、を力説している。

2016-09-07 22:34:57
イヌノオー@ @inunohibi

徂徠より有名で、もっと重要なはずの思想家・本居宣長も、本書では「徂徠を継承し、発展させた人」くらいの評価になるのだ。まぁ、本書が日本思想史とか、政治思想史研究にどれくらい貢献したとか、そういう専門的なことは知らないんでこれくらいにする。

2016-09-07 22:35:16
イヌノオー@ @inunohibi

素人として私が強調したいのは、20歳の時、その読みづらさにもかかわらず、本書が“すごく面白かった”ことにある。先の小室直樹の評価にもうなづくのは、丸山後期の「忠誠と反逆」になると、議論はずっと緻密だし、たぶん方法論もより厳密になったのだろうが、初期論文ほどの面白さはないのだ。

2016-09-07 22:35:47
イヌノオー@ @inunohibi

なぜこんなに面白いのか。戦時中の緊迫した時代状況が、丸山にこれを書かせた、という指摘はよくある。第3章などは、丸山が召集令状を受け取って、出征する一週間前でぎりぎりまとめた、という。当時戦況は絶望的だったので、「遺書」代わりだったとあとがきで語っている。

2016-09-07 22:36:24
イヌノオー@ @inunohibi

しかしそれだけなら、丸山以外にも同じ時代を経験していた。丸山が突出していたのは、若さゆえの才能だろうか?

2016-09-07 22:36:44
イヌノオー@ @inunohibi

「文明論之概略を読む」(手元に本がないけれど)などで内幕を語ったところによると、師匠・南原繁の勧めで日本思想史の勉強を始めたが、どれもこれも書いていることがつまらない。そのなかで唯一荻生徂徠が面白かった、と言っている

2016-09-07 22:38:03
イヌノオー@ @inunohibi

(明治からは福沢諭吉。そして同書の本題は、福沢諭吉の「文明論之概略」になる)。

2016-09-07 22:38:51
イヌノオー@ @inunohibi

時代状況、才能、それに萩生徂徠の「面白さ」。もろもろのものが、化学反応を引き起こしたのだろう。

2016-09-07 22:39:09
イヌノオー@ @inunohibi

中国史の大家・宮崎市定もまた、清の雍正帝研究のきっかけに、雍正帝直筆の文集が、面白くてたまらなかったことを挙げている(中公文庫「雍正帝」に収録されている解題)。

2016-09-07 22:40:21
イヌノオー@ @inunohibi

自然科学では、自然界の謎、未知の真理が、興奮を持って語られている。これは文系も同じなのかもしれない。才能と面白い研究対象が幸運にも出会ったとき、名著が生まれる。(おわり)

2016-09-07 22:41:46
イヌノオー@ @inunohibi

雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫) 宮崎 市定 amazon.co.jp/dp/4122026024/… @amazonJPさんから

2016-09-07 22:42:55
イヌノオー@ @inunohibi

フェルマーの最終定理 (新潮文庫) サイモン シン amazon.co.jp/dp/4102159711/… @amazonJPさんから

2016-09-07 22:43:56
イヌノオー@ @inunohibi

文明論之概略を読む 上 (岩波新書 黄版 325) 丸山 真男 amazon.co.jp/dp/4004203252/… @amazonJPさんから

2016-09-07 22:45:26

追加

はにや @Atsushi_Haniya

丸山真男の「日本政治思想史研究」は子安宣邦によって徹底的に批判されました。丸山の説は壊滅した感があります。丸山は徂徠について、あまりにも西欧近代思想を読み込んでしまい、同書は思想史ではなく歴史物語になっているのではないでしょうか twitter.com/inunohibi/stat…

2016-09-07 23:09:03
イヌノオー@ @inunohibi

@Atsushi_Haniya 「丸山は徂徠について、あまりにも西欧近代思想を読み込んでしまい」徂徠の「聖人の道」論は、デカルトの「神」概念に通じる、とかですかね。徂徠を論じるのに遠慮なく西洋思想が引用されて、今では誰もこんなことを言ってないから、やっぱり無茶だったんですかねぇ。

2016-09-07 23:13:48

追加