意力の空域#1 空雷艇飛行船母艦◆1
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減衰世界
@decay_world
＿怒りの拳をどこに叩きつければいい？ 彼は静かに自問していた。答えは出ない。ただ、ジェットエンジンの轟音だけが響いている。 不安定な世界だ。青空を切り裂く後退翼の双発ジェット機。そこで、彼……ロードナは操縦桿を握り、ただ自問していた。 1
2016-09-09 19:33:38
減衰世界
@decay_world
＿機体下部につりさげられた航空爆雷は4発。つまり、4隻の軍艦を沈めることができる。彼に与えられた指令は単純だった。空雷艇母艦「ギウン」の撃破である。 （怒りの拳をそこに向ければいいのだろうか） 無関係の乗員千人は死ぬだろう。 2
2016-09-09 19:37:44
減衰世界
@decay_world
（思考を単純にするんだ……俺は機械だ。操縦桿を握り、ボタンを押すだけのシンプルな存在だ。それが俺の救いだ） 手先の感覚と視覚の情報に神経を集中させると、彼の思惑通り雑念がかき消され、目的を達するだけの風になる……はずだった。 けれどもどうしても思い出してしまうのだ。 3
2016-09-09 19:43:14
減衰世界
@decay_world
＿ロードナは科学文明研究家であり、様々な科学技術を……この魔法が支配する国で細々と研究していた。彼には憧れの研究者がいた。それはメーラという名の女性で、僅かに3歳程度年上だったが、業績では感服するほど差を付けられていた。嫉妬を越えて崇拝すらしていた。 4
2016-09-09 19:47:09
減衰世界
@decay_world
（帝都にさえ行かなければ……） 研究が認められ、メーラは魔法使いの街、帝都へと招かれた。魔法が全てを支配する世界であっても科学はやはり魅力的である。メーラは笑顔で帝都の長距離列車へと乗っていってしまった。 （帝都にさえ行かなければ！） メーラの笑顔が脳裏に浮かぶ。 5
2016-09-09 19:51:59
減衰世界
@decay_world
＿結論から言って、メーラは殺された。研究室に返された彼女の遺体は、笑顔のままの彼女だった。笑顔のまま、身体中の内臓を抜き取られ、剥製にされていた。 こういう行為が許されるのだ。帝都という場所は。魔法こそが全て。魔法使いこそが全て。他のあらゆるものは骨髄まで利用される。 6
2016-09-09 19:56:21
減衰世界
@decay_world
（蘇生することすら許されない死にざまだった……この怒りの拳をどこに叩きつければいい？） 昔あった、火焔気球の街の事件をふと思い出した。古代兵器を復活させて、帝都を攻撃しようとしたニュースに自分を重ねていた。 （あの犯人は俺の様に悩んだのだろうか） 7
2016-09-09 20:01:40
減衰世界
@decay_world
＿空の青を汚すようなジェットの轟音、風を切る音。 （めちゃくちゃだ。俺はシンプルになりたいのに） 何も考えず、計画を実行し、いくら人が死んだってどうでもいい。そう思えたら楽なのに、まるで静かには飛べないジェットの様に、不愉快な音が主張する。そう生きることなどできない。 8
2016-09-09 20:05:43
減衰世界
@decay_world
＿ロードナは唇を噛んだ。 （しょうがない、しょうがない、しょうがない……のか？ 俺の心の揺らぎは止めることができないのか？ 俺は機械になりたい。何も思わず、集中力が全てを支配する世界で、ただシンプルにことをなす機械に） 彼は意思の力に縋った。 9
2016-09-09 20:10:29
減衰世界
@decay_world
（復讐の追い風を受けても、心が揺らぐのなら） 遠く軍艦の列が見える。飛行船の優雅な動きは、まるでトロトロ歩くロバのよう。 中央、駆逐艦に守られるのは目標とする空母「ギウン」だ。 （飛べ、ジェット……俺の意力を示してくれ） ロードナは一気にジェット機を上昇させた。 10
2016-09-09 20:17:22
減衰世界
@decay_world
【用語解説】 【空雷艇母艦】 装甲飛行船のうち空雷艇や飛行鍋の運用能力を持つもの。飛行甲板を持ち魔力ガスの気嚢で自らも飛行する。魔力で浮遊する飛行船は海上の船のほぼ上位互換であり、普通空母や駆逐艦、戦艦といえば飛行船の軍艦のことを指す。流石に潜水能力はなく海戦の主役は潜水艦である
2016-09-09 20:23:51