あるマスターの回想

うちのこ系の履歴書。普通の人です(威嚇)
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里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 極東の魔術師の家に、わたしは生まれた。俺は双子で、顔はあまり似ていなかったが、とにかく家の目的を果たすにはうってつけではあった。魔術師というのも、あまり正確な言い方じゃあない。月見里の家は、家の目的を果たすために、西洋魔術での"改良"を受け容れた一族だった。

2016-04-01 23:50:49
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 発想はシンプルだ。人格は肉体に支配される。すべての肉体は大道に属する。そして、魂は想像されるものであり、実在しない。よって太極に到達するためには、完全な肉体を用意すればいい。そして、ここが要点だが、魔術回路は肉体の一部だ。そこが、何よりも重要なのだった。

2016-04-01 23:55:30
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 月見里の魔術刻印は、ひとつでふたつ、ふたつでひとつ。ただしそれぞれには、いかなる種類の魔術も記録されていない。"接続された相互の同調"のみを目的として設計された、無能にして無価値、いかなる作用も持たないこれを、月見里の当主とその配偶者は継承してきた。

2016-04-01 23:59:48
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 月見里真人と月見里仮名は、この魔術回路を首尾よく受け容れた。まさに当主にふさわしい器だと思われた。安心した両親は早々に死んだ。近親婚を繰り返した家の寿命は、当然のようにあまりに短い。わたしは家の最後のひとつだった。ただ、俺にはもはや目的がなかった。

2016-04-02 00:02:12
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 俺とわたしは、十二からの数年間を家で過ごした。ほとんど家でだけ過ごした。だいたい飲み込めたのは、先祖代々の計算が、大間違いだったということだ。だから最後の日、わたしと俺はひとつだけ遊びをした。ふたつの盃に致命の雫は一つ。俺は死んだ。わたしは一人になった。

2016-04-02 00:05:22
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 わたしはひとりきりで数年を過ごした。わたしは俺だったことがある。俺はわたしになったことがある。それは確かなことだったが、どちらにしろ、あまり意味のあることではなかった。二人一役の伽藍堂。体の一つが欠けてわかったのは、それでも寂しくはなるということだ。

2016-04-02 00:07:01
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 忘れ去られたはずだった。遺産だけは十分あったから、当たり前のように過ごした。そのまま終わると思っていた。だから、あの仰々しい封筒が届いた時には、狐につままれたような気分だったものだ。星見台への招待状。きっと、わたしの運命を変えた、一通の手紙が。

2016-04-02 00:09:05
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 気が付くと、私は世界を救う英雄になっていた。救えないのかもしれないけど、それができるのが一人だけだ、というのだから仕方がない。一人だけ。本当にそうか、正直なところ私にはわからない。そういう立場なら、きっと所長のほうが向いていた――心意気なんかでは。それに。

2016-04-10 00:19:27
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 夢を見る。マスターはサーヴァントの夢を見るという。それとはまたぜんぜん別なこととして。私ではない私の夢を見る。俺の夢。それどころじゃなく。私が俺だった頃に見ていた夢のように、私でない私や俺の夢を見る。同じように、世界を救おうとしている誰かの夢を。

2016-04-10 00:20:31
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 あの火の海で戦っているとき、何度も、私でない私の気配を感じた。きっと私とマシュとダレイオス、あとあのキャスター氏だけでは、何度も死んでいたに違いない。ともあれ、ここに残ったのは、あのロマンと、マシュと、ほとんど顔を知らない職員の人たちばかり。ああ絶望境よ。

2016-04-10 00:22:49
里村邦彦 @SaTMRa

#月見里仮名の回想 人の夢を見るということには慣れている。そういう意味ならばきっと、月見里仮名は幸運なのだろう。いっそ、私以外の私や俺が、世界を救ってくれたらいいのに。最初の特異点に旅立つまで、だいたい、そんなことばかりを考えていた。

2016-04-10 00:25:40
里村邦彦 @SaTMRa

それはそれとしてうちのぐだ子は手紙で招集されたそうです。 #それまでは無職だったよ #月見里仮名の回想

2016-04-15 20:51:54