意力の空域#3 証を示せ◆2(終)
_ロードナは空にいた。相変わらずジェットの音が思考をかき乱す。爆装し、燃料を満タンに積んだ翼は風を切って進む。威風堂々たる姿だ。 ただ、ロードナだけが小さく凝り固まっていた。 (どうすればシンプルになれる) 新しい太陽は新しい標的を照らす。 71
2016-09-17 20:42:48_遠くに浮かび上がるのは巨大な戦艦の船影。空母を失い、それでもロケットの発射場へと向かう。とどめを刺し、艦隊を壊滅させる。 (敵は昨日よりも少ない。単純な仕事だ。簡単で、シンプルな仕事だ) ただ、ロードナの迷いは昨日よりひどい。 72
2016-09-17 20:46:08(迷いは許されない) 帝都に殺されたメーラ。自分が殺した人間。それらが迷うことを決して許さないのだ。捨ててはいけない凝り固まったものがフジツボのようにロードナの身体に纏わりついている。操縦桿を強く握る。 (許されない、許されない、許され……) 73
2016-09-17 20:54:52_突然……目の前が真っ白になった。時の流れがゆっくりになる。 『あなたは自由だよ』 鳥肌が立った。確かに、死んだメーラの声だ。 「助けてくれ、メーラ。俺の迷いを……」 『怒りも、迷いも……消え去った世界で、いつか……』 轟音。 74
2016-09-17 21:00:57_脱出装置が働き、ロードナは空中に投げ出される。パラシュートが開き、彼はそこで撃墜されたことを知った。戦艦の長距離砲だ。射程距離に入っていたらしい。 『いつか……安らげる世界で、平穏の世界で……私は待っているから。だからきっと、あなたは辿り着ける。その意力の翼で』 75
2016-09-17 21:04:17_ロードナは荒野に降り立った。 「自由……」 もう基地に戻らなくともよい。誰のために戦わなくともよい。 「俺は……辿り着いてもいいのか?」 ロードナは歩き出した。辿り着ける場所を目指して。翼を失った彼の足取りには、確かに翼が宿っていた。 76
2016-09-17 21:08:00―― 「絶対叶えたって!」 「信じられないね!」 空雷艇の狭い機内に詰まり、頬を押し付け合ってメルヴィとリンメラはいがみ合っていた。二人は無事救助された。上官はそんな二人を背にして空雷艇の指揮をする。 リンメラの願いは亡くなった姉の夢を叶えることだった。 77
2016-09-17 21:12:43_結局あの後、ヴォイドアクセラレーターは盛大に砂埃を巻き上げただけで、リンメラに実感できる変化を起こせなかった。 「自由の証、きっと見せてくれると思ったんだけどなー。自分の自由が不自由なやつに、自由を教えてもらってもなー」 上官の眉がぴくりと動く。 78
2016-09-17 21:16:05「休日になるとな……騎士ごっこをするんだ」 「はい?」 上官がぽつりとつぶやいた言葉に、リンメラは口をあんぐり開けてしまった。上官は静かに続ける。 「土産物の兜を被って、筋トレをするんだ。すると……自分が騎士になったような……これでも不自由か?」 79
2016-09-17 21:20:39「い、いえ! 決して上官のことを言ったわけでは……自由! 自由です!」 「ふふ、分かっている。そう、その気になればよいのだ」 (騎士は自由だ) その言葉の意味が分かった気がした。 (夢ごっこでも、楽しければ……それもまた自由) 80
2016-09-17 21:25:04_姉の夢が何なのか結局分からないが、それも自由ということだろう。リンメラはそう結論付けた。きっと姉にも夢や、守りたいひとがあったのだろう。 (自分はいま荒野に立つ……どうすればいいのかまだ分からない) 迷いだらけだ。退屈しない毎日が始まるのだろう。 81
2016-09-17 21:31:19【用語解説】 【筋トレ】 魔法が支配する世界においても、筋力は重要な能力である。魔力は筋肉で代謝され、感情を消費し、意思を示す形となって発現する。なので、筋肉が多ければ多いほど大量の魔力を代謝できる。ただ感情を強くしても威力を伸ばすことができるので筋トレか精神修練かは好みである
2016-09-17 21:43:23