生物学分野におけるTRIZ/USITの利用

「発明の技術」として知られるTRIZやUSITを、工学的発明のみに用いるのはもったいない。生物学でもきっと使えるはず。。そんな一連のつぶやきです。(´・ω・`)
1
Ryosuke Nakamura @ryosnak

TRIZ / USITという、「発明の技術」がある。旧ソ連のAltshullerという人物が膨大な数の特許を調べ、「発明にはごく限られたいくつかの原理が応用されている」ことに気づき、どういう問題にどういう原理を適用すべきかを体系化したものだ。

2011-02-18 21:33:22
Ryosuke Nakamura @ryosnak

詳しくはググってもらうなり成書(※)を参考にされたいが、TRIZやUSIT(以後、めんどくさいので単に『USIT』と書く)を生物学の範疇で利用している人は、どうもまだ少ないように思えてならない。 (※例: http://amzn.to/eKBMXo

2011-02-18 21:34:02
Ryosuke Nakamura @ryosnak

確かに、USITとバイオ関連で検索すれば、いくつかの実用例がヒットする。が、ほとんどが生体模倣工学(バイオミメティクス)やバイオエタノールに関するもので、「生物学の研究またはそれにまつわる技術開発」に関するものはほとんどない。

2011-02-18 21:34:52
Ryosuke Nakamura @ryosnak

まぁ、USITはもともとフォードが開発したものなので、工学的発明に馴染むのは当然だろう。しかし、USITの本質が「問題を抽象化してシステムとして捉え、理想解への到達を妨げている『矛盾』をブレイクスルーする」というものである以上、生物学等、他の分野にも応用できないはずがない。

2011-02-18 21:35:32
Ryosuke Nakamura @ryosnak

USITの中でも特に有用なのは、「Altshullerの矛盾マトリクス」と「40の発明原理」だと思う。前者は、何かのパラメータを改善させようとすると別のパラメータが悪化する、という矛盾関係を表にまとめたもので、両パラメータの交点のセルに、1~40の数字が(複数)記してある。

2011-02-18 21:35:58
Ryosuke Nakamura @ryosnak

この1~40の数字が「40の発明原理」の番号に対応しているので、先の矛盾を解決するために採るべき発明原理が一目で分かる、という仕組みだ。具体的には、「1:分割原理(システムを複数に分割する)」、「2:分離原理(システムの複数の機能を分離する)」などが書かれている。

2011-02-18 21:36:27
Ryosuke Nakamura @ryosnak

具体例を挙げた方が分かりやすいかもしれない。手前味噌で恐縮だが、我々の開発したアレルギー試験法の「EXiLE法」を例に取る。EXiLE法は、アレルギー患者IgEとアレルゲンとによるマスト細胞の活性化を検出する方法の一つだ。 http://bit.ly/cfpnkv

2011-02-18 21:37:11
Ryosuke Nakamura @ryosnak

同様の従来法として、ラット由来培養マスト細胞の活性化を脱顆粒(ヒスタミン等の放出現象)によって定量する手段が知られていたが、感度や再現性に問題があった。その大きな原因は、ヒトの血清中の補体成分がラットの培養細胞を攻撃するためと考えられている。

2011-02-18 21:38:04
Ryosuke Nakamura @ryosnak

当然ながら、IgE抗体の量が多いほど、脱顆粒は検出しやすくなる。しかし、IgEの量を稼ぐには血清を増やさねばならず、血清を増やせば補体による傷害性も増す。なお、補体は加熱処理で活性を除くことができるが、IgEもまた熱に弱いため、この場合加熱処理は適切でない。

2011-02-18 21:39:29
Ryosuke Nakamura @ryosnak

今の問題は、要するに「血清(IgE)の量を増やすと補体の量(そしてそれによる傷害性)も増えてしまう」ということだ。血清を増やせば測定の信頼性が向上するが、血清による有害作用も増してしまうと言う矛盾が生じている、ともいえる。

2011-02-18 21:39:59
Ryosuke Nakamura @ryosnak

ここで、「Altshullerの矛盾マトリクス」を見る(先程の成書その他に掲載。ウェブ上にもある)。すると、「信頼性(27)」と「物体が発する有害要因(31)」との交点に、「35, 2, 40, 26」とあることが分かる。このうちの2は、先程の「2:分離原理」のことだ。

2011-02-18 21:40:53
Ryosuke Nakamura @ryosnak

我々以前の従来法では、この「分離原理」に基づいて上記の矛盾を解決していた。すなわち、血清中の有害成分(補体)を、あらかじめ別の細胞に吸着させて取り除き、残ったIgEを回収して実験に用いる、という手法だ。

2011-02-18 21:41:41
Ryosuke Nakamura @ryosnak

これはこれで、確かに血清による傷害性を解決している。その意味ではUSITの好例といえるかもしれない。だが、実際のところ、補体を一旦吸着させて回収して、、というのは、作業の手間もかかるし、データの再現性にも悪影響があると思われた。

2011-02-18 21:42:37
Ryosuke Nakamura @ryosnak

そこで先程の矛盾マトリクスに戻ると、「2:分離原理」の他にもまだ候補があることに気付く。「35:パラメータ原理」によれば、「濃度」というパラメータを下げることにより、血清の傷害性を取り除くことを思いつく。ただし、この場合はIgE濃度も減少するので、信頼性が稼げない恐れがある。

2011-02-18 21:44:35
Ryosuke Nakamura @ryosnak

では、「26:代替原理」はどうか。マスト細胞がIgEを介して活性化するときに惹起される現象は、なにも脱顆粒だけではない。サイトカインなどの遺伝子発現も誘導される。では、脱顆粒の代わりに、遺伝子発現を利用できないだろうか。

2011-02-18 21:46:09
Ryosuke Nakamura @ryosnak

このようにして思いついたアイデアが、「IgE Crosslinking-induced Luciferase Expression(EXiLE)法」である。遺伝子発現をルシフェラーゼのレポーターアッセイで測定するようにしたことで、大幅な検出感度の向上が実現できた。

2011-02-18 21:46:51
Ryosuke Nakamura @ryosnak

また、検出感度が高まったことにより、より少ない量のIgEで測定ができるようになった。具体的には、細胞傷害性の起きない100倍希釈でも、十分にIgEの測定ができる。結果的に、先程の「35:パラメータ原理」も取り入れることができたことになる。

2011-02-18 21:47:23
Ryosuke Nakamura @ryosnak

以上、我々のEXiLE法を例に挙げて簡単にUSITの生物学的発明における利用法を記してみた。とりあえずここで取り上げることができたのは、「分離原理」としての「補体の吸着除去」、「パラメータ原理」としての「濃度希釈」、「代替原理」としての「アッセイ法の変更」のみだった。

2011-02-18 21:48:36
Ryosuke Nakamura @ryosnak

実際には、先述したように、「発明原理」は40あるとされる(最近はもう少し増えたようだ)。これら40の発明原理を、生物学の具体的な言葉に翻訳しておくと、様々な生物学的問題解決の局面で役に立つ。たとえば「1:分割原理」なら、open-sandwitch法などがその具体例だろう。

2011-02-18 21:49:11
Ryosuke Nakamura @ryosnak

40種の発明原理すべてを埋めることは難しいし、埋める必要もないかもしれない。だが、定期的にこの作業をしておくと、どういった局面でどういった技術が問題解決に役立つかが頭の中で整理される。これだけでも、生物系研究者がUSITを学ぶ意義はあるように思われる。

2011-02-18 21:49:51