- oioimoimoi
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★戦うのは嫌だ。痛いし、面倒くさいし、つまらない。でも戦わないと主人には叱られるしワムウにも馬鹿にされる。何より死ぬのはもっと嫌だ。死ぬとどうなるかなど知らないが、怪我をして痛いよりもずっと苦しくて辛いことなんだと思う。
2016-09-25 08:48:19★でも出来れば鍛錬なんかせずに眠りたい。星の光を見上げながら、虫の声と一緒に歌いたい。必要な分だけの獲物を狩り、毛皮にくるまり肉を焼いて食べたい。そしてもっと主たちともワムウとも普通の話がしたかった。
2016-09-25 08:53:28★「ふうん、そんなこと考えてたのね。サンタナさんってやつは」おどけた口調で言うジョセフに、サンタナはふんと顔を背けガラス張りの部屋の中でごろりとソファに寝転がる。SPW財団で保管から収容へと扱いがかわり、すっかり戦意を無くしていたことから保護・観察へと移されてしばらく経つ。
2016-09-25 09:01:31★「また小皺が増えたな、ジョジョ」つまらなさそうに言うサンタナにジョセフは「うるせえ」と強化ガラスの壁を軽く蹴る。最新技術で作られたわずかな隙間もないこの空間の外に出すことはできないが、サンタナはそれなりにこの暮らしを楽しんでいるらしい。「ピンクダークの新刊はまだか?」
2016-09-25 09:05:56★サンタナはどうやら漫画にハマったらしく、ジョセフもまだ持っていない国外のものにも手を出しているようだ。サンタナいわく、絵と文字で物語を表現している所が面白いのだという。驚くほど、人間に近い感性だとジョセフは感じた。
2016-09-25 09:10:51★そんなことをきっかけに、ジョセフは時々こうしてサンタナの様子を見に来るようになった。初めて出会った時の恐怖は忘れないが、ジョセフとて数々の戦いを切り抜けた男だ。敵意の有無は語らずともすぐにわかる。今のサンタナは以前よりもずっと小さく見えた。
2016-09-25 09:14:31★「どんなに嫌でも命がかかっているならば戦わねばならんだろう?それと単純にムカついた。貴様ら人間の好奇の目や俺を見下した態度に腹が立った。だから戦っただけだ」サンタナはジョセフにそう言い、ボリボリと頭を掻いた。
2016-09-25 09:18:31★ワムウは純粋な戦士だったが、サンタナはどちらかといえば自分に似た考えで戦っていたのだろうか。そう思うとジョセフはなんだかこの人間ではない生き物が恐ろしくは感じなくなっていた。「お前さん、音楽は好きか?」ジョセフの言葉に、サンタナはこくんと頷く
2016-09-25 09:23:42★試しにBEATLESを流してやるとサンタナはじっとそれに聴き入り、終わったあとすぐにドラムのリズムでトントンと机を叩き、今聴いたばかりのメロディを口ずさみ始める。ジョセフはそれがとても嬉しかった。あの時分かり合えなかった相手と、今は同じ音楽を楽しんでいる。
2016-09-25 09:28:38★「ハッピーうれピー?」ためしにジョセフが呼びかけてみると、サンタナはじっと視線をよこし、口の端を少し上げた。「歳をとってもくだらなさが変わらないな、ジョジョ」とあきれたように言うがその表情は柔らかかった。ヘヘヘ、と笑ったジョセフをサンタナは優しく見つめていた。
2016-09-25 09:34:01★こんなに明るく、暑くも寒くもない。太陽がダメなら作り物の光でも良かったのだ。ヒトは馬鹿ではなかったのだ。漫画も音楽も作り物ばかりだが、それも立派な技術だ。1人になったサンタナはふかふかのクッションを抱きしめながらそう自分に言い聞かせる。
2016-09-25 09:39:17★今はジョジョが来てくれる。だけどアイツは日に日に老いていく。とても小さな皺が笑う度に刻まれていく。今はまだ職員たちと変わらぬ歳だろうがあっという間に老人になるだろうし、その後はきっと。でも、それも受け入れなければならない。拒めばどうなるかよくわかる。
2016-09-25 09:42:37★「決めたぞジョジョ。その日が来たらおれも紫外線を浴びて眠る。財団にもそう頼んだ。」ある日サンタナはそんなことをジョセフに言った。ずいぶんと物が増えた部屋には、先日ジョセフが直接作者からもらってきてくれた漫画家のサインが飾られている。
2016-09-25 09:47:33★「そうか」とさみしそうに呟くジョセフの前にサンタナはしゃがむ。そうしないと合わなくなった視線が年月を物語る。ガラスにそっと手のひらを触れ、指先でトントンとリズムを刻む。いつか2人で歌ったロックをもう一度。少し遠くなった耳にもちゃんと届くだろうか。
2016-09-25 09:51:11★その日。知らせが届くよりもはやくサンタナはそれを察知していた。物が無くなった部屋の中にうずくまり、じっとしていた。最後に会いに来たあの日に気づいていた。アイツがもう長くはないことを。だから売れるものは売り、使えるものは別の部署に回してくれと頼んだ。漫画家のサインだけを手元に
2016-09-25 09:55:47★残して。 そしてサンタナは目を閉じた。「おやすみ、ジョジョ。おやすみ、ワムウ。…おやすみなさい、あるじたちよ。」昔のように眠りにつく前ね挨拶を呟き、眩い光の中で再びの長い眠りについた。願わくばもう誰もこの安らかな眠りを邪魔しないでくれ。 終わり
2016-09-25 09:59:37