「傷だらけの心だから」

お題アンケで一位になった「傷だらけの心だから」というお題を使って即興で書いた、時雨のお話。うちの鎮守府では何故かやさぐれ風味な時雨の過去について。どういう訳かこんな感じの話になりました…。
ゲーム SS 艦これ 時雨 山城
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まえふり
Arvined/CRUSADER @arvined
Arvinedさんは 1.凛々しく、雄々しく 2.月の光と嗤う僕 3.傷だらけの心だから 4.食いしん坊の君が好き の中で一番多かったお題を書いてください。 #お題アンケ shindanmaker.com/601337 ほうほう?
Arvined/CRUSADER @arvined
@arvined そういえば終わってました、「傷だらけの心だから」が一位かー、いっちょトライしてみるかー
Arvined/CRUSADER @arvined
うちの時雨さんがやさぐれ風味な理由でも書いてみるか。
本編
Arvined/CRUSADER @arvined
―その名はかつて、幸運艦としてもてはやされた。同じ幸運艦として並べられたのは、あの「雪風」。確かに、歴戦をくぐり抜けて生存してきたという事実だけ見れば、幸運だと言えるかも知れない。
Arvined/CRUSADER @arvined
でも、結局沈んだじゃないか。ろくに仲間を助けることも出来ず、ろくに戦いの行く末を変えることも出来ずに。
Arvined/CRUSADER @arvined
「傷だらけの心だから」
Arvined/CRUSADER @arvined
僕が「艦娘として」再びこの世に舞い戻った時、僕の心に残っていたのは、あの戦いのろくでもない記憶だった。 僚艦と共に各地を転戦し、明らかに不利な戦いに身を投じ、輸送艦まがいの事までやり、護衛対象を救えず、そして終いには自分も沈んでしまった、そんな記憶。
Arvined/CRUSADER @arvined
「お前さんは今ここに居る『駆逐艦娘 時雨』でありそれ以外の何物でも無いんだ、そんな記憶は気にするな」 提督はそう言ったけど、こことは違う世界で、僕らは実際に戦ったんじゃないか、僕はそう思っている。 そう、ここでは無いどこかで、惨めな戦いをして、どうやら負けたらしい、と。
Arvined/CRUSADER @arvined
他の子の持つ記憶から浮かび上がる事実は、僕のその思いを強くするに十分な物だった。結果的に誰かを助けた、なんて事も無く、後半はほとんど負け戦ばかり。一番悲惨だったレイテ沖の戦いは、僕以外全員沈んだのに、大勝利を収めたと虚飾で飾られたとあっては、惨めさを通り越して笑えてくる。
Arvined/CRUSADER @arvined
…そう、あの戦いで、僕は山城を守ることが出来なかった。 なのに。
Arvined/CRUSADER @arvined
「……時雨、またあなた吸ってるの?」 「いいだろ、煙草くらい」 その山城と、僕はここで再会して、あまつさえ体を重ねる関係になっている。
Arvined/CRUSADER @arvined
この鎮守府に着任して、五月雨や白露と再会した時には、記憶の事はあっても、純粋に嬉しかった。妹である五月雨が、秘書艦として日々活躍していることに、姉としての誇らしさすら覚えることもあった。
Arvined/CRUSADER @arvined
でも、山城と再会した時、僕の心には嬉しさや安堵感はわき上がってこなかった。代わりにこみ上げてきたのは、あの時救えなかったという後悔と罪悪感、そして、後ろめたさ。
Arvined/CRUSADER @arvined
それなのに、そんな僕を見つけた山城は、扶桑の手すら離して、僕の方へと駆け寄り、不器用に笑顔を押しとどめて、こう言ったのだった。 「あなたと再会出来て、良かったわ」 素直に笑わないその顔の下に、本心からの喜びが隠れていることが感じられて、僕の心には一層、暗い影がかかった。
Arvined/CRUSADER @arvined
他に誰も居なければ、山城の手を振り払い、僕はその場から立ち去っていただろう。 でも、「あら、また会えたのね」と微笑む扶桑と、「ま、あんたもいると思ったわ」と口を曲げる満潮を前にして、僕は、 「うん、また、会えたよ」 作り笑いを浮かべて、三人に挨拶する事しか出来なかった。
Arvined/CRUSADER @arvined
偶然か、提督の手回しのお陰か、その後しばらくの間、僕は山城と一緒になることは無かった。任務では夕立とペアを組み、寮では白露と同室、たまに護衛役を任される時も、榛名や加賀なんかが対象だったから、記憶の事を気にせずに済んでいた。 だけどある日、僕は山城と一緒に出撃する事になった。
Arvined/CRUSADER @arvined
「上の命令なんだ、危険は無いだろうが、済まないな」 何か感づいたらしい提督は、そう言って僕に詫びたけれど、 「大丈夫だよ、問題ないから、気にしないで」 と、僕は笑って見せた。 だって、これは僕の問題だったから。提督が悪いわけでも、まして、山城が悪いわけでも無かったから。
Arvined/CRUSADER @arvined
扶桑と最上、千歳、満潮、そして僕と山城の六人でオリョール海へと出撃するというその任務は、提督の言う通り、特に危険も無く終わった。 この顔ぶれで出撃すると、あの時を思い出すわ、鎮守府に戻った時、扶桑が帰りがけにぽつりとそう言わなければ、あの記憶の事すら忘れていたくらいだった。
Arvined/CRUSADER @arvined
「……っ!」 扶桑の言葉と、それを聞いて眉を寄せた山城の顔。それをきっかけに、あの戦いの記憶、それも一番悲惨な、山城が沈む瞬間の記憶が蘇り、僕は思わずデブリーフィングの場から走り去っていた。 「あ、時雨、ちょっと」 最上が呼び止めたけれど、僕は構わず、庁舎の外へと走った。
Arvined/CRUSADER @arvined
気づけば、そこは鎮守府庁舎の裏手。煙草がうち捨てられた、倉庫の物陰に、僕はしゃがみ込んでいた。 火を付けてすぐに捨てられたらしい、長い吸い殻に目がとまって、そういえばこういうのを拾って吸ってる乗組員がいたっけ、と思い出した僕は、何となくそれを拾い上げた。
Arvined/CRUSADER @arvined
おあつらえ向きに、使い捨てライターも捨ててあるのを見つけると、僕は自分でもビックリするくらい自然に、吸い殻に再び火を付け、深々と煙を吸い込んでいた。 「……苦いや」 生まれて初めて吸う煙草の煙。とても苦いそれが、その時の心には不思議と合う気がして、僕は再び煙を吸い、吐き出した。
Arvined/CRUSADER @arvined
「ちょっと、何してんのよ」 長かった吸い殻が半分くらい灰になった頃に、そう言って僕を咎めたのが、山城だった。走ってきたらしく、はぁはぁと、肩で息をしている。 「何、って言われても」 「デブリーフィングは終わってないわよ」 「いいじゃないか、別に振り返るような事は無かったんだし」
Arvined/CRUSADER @arvined
さっきはちらと視界に入っただけで取り乱した山城の顔を、その時の僕は、煙草のお陰か、驚くほど自然に見ることが出来た。 「そういう物じゃないでしょう、それより、何煙草なんて吸ってるのよ」 「悪いかい?」 「お似合いだろう、物陰で煙草を吸うなんてのは、惨めな僕にはさ」
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