じゃむ猫(jamnekodd)氏による「第2号掃海艇視点のバタビア沖海戦」についてのおはなし

評する人に曰く、「さながら一幅の絵巻のよう」なエピソード。
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じゃむ猫 @jamnekodd

(0) バタビア沖海戦。 視点は「第2号掃海艇」に置く。 海戦全体の流れは適当なサイトなり本なりを見て頂きたい。 全11回前後、連投予定。

2016-09-28 01:05:36
じゃむ猫 @jamnekodd

(1) 昭和17年3月1日、日付が変わったばかりの頃だ。 ジャワ島西部バンタム湾沿いに長く伸びて入泊していた船団から上陸部隊が進発する。 2掃は4掃と組んで付近の海域を掃海。 その夜の闇の向こうから不意に大型艦が現れた。今夜は月夜。シルエットを視認した。友軍ではない。敵だ。

2016-09-28 01:06:35
じゃむ猫 @jamnekodd

(2) 巡洋艦でも駆逐艦でも、奴らの振りかざす武器は輸送船など容易く粉砕するだろう。船団の将兵は震え上がる。 もちろん掃海艇も歯が立たない。 敵艦が射撃を開始した。砲弾は2掃の頭上を飛び越していく。照準は不正確だが、明らかにこちらを狙っている。執拗な砲撃が続く。

2016-09-28 01:07:35
じゃむ猫 @jamnekodd

(3) 集中砲火を浴びる2掃は、掃海時に点けた速力灯を消してないことに気付いた。慌てて消灯、島影に逃れる。一息つく。 しかし至近弾であちこちに穴が空き、浸水が甚だしかった。 それでも行動の自由があるだけマシだ。船団は揚陸中。座り込んで逃げ場がない。護衛の友軍艦隊が頼みの綱だ。

2016-09-28 01:08:27
じゃむ猫 @jamnekodd

(4) ふと、船団に弾が降ってこなくなった。 友軍艦隊が戦ってくれている。敵艦の気を引くことに成功しているようだ。 しかしいつまた敵艦が突っ込んでくるかも知れない。 その時、1隻の駆逐艦が反転。敵艦に艦首を向けた。 船団のすぐ傍らにあって護衛についていた、小さく、古い駆逐艦だ。

2016-09-28 01:10:01
じゃむ猫 @jamnekodd

(5) その駆逐艦が単艦増速、敵艦に向けて突進を始める。砲撃をも開始した。船団の目の前で。海上に砲声が響きわたる。 期せずして弧状に碇泊する船団のあちこちから怒濤のような歓声が上がった。 駆逐艦は歓声を背に受けて敵艦に突撃していった。

2016-09-28 01:11:30
じゃむ猫 @jamnekodd

(6) 冷静に考えれば、この1ハイの旧式駆逐艦で敵大型艦をどうにかできる可能性は極めて低いのだが、首をすくめて怯えるだけの船団にとっては、これ以上ない英雄の登場シーンだった。 その駆逐艦の名は「旗風」。

2016-09-28 01:12:28
じゃむ猫 @jamnekodd

(7) 敵艦は言わずと知れた米重巡ヒューストン、蘭軽巡パース。 「旗風」は第五駆逐隊の1隻で、同隊は「朝風」のほかに「春風」「朝風」より成る。司令駆逐艦は「春風」。 海戦開始時点では船団のすぐそばにあり、船団の直接護衛に任じていた。

2016-09-28 01:13:48
じゃむ猫 @jamnekodd

@jamnekodd (訂正)「旗風」は第五駆逐隊の1隻で、同隊は「旗風」のほかに「春風」「朝風」より成る。司令駆逐艦は「春風」。

2016-09-28 01:23:28
じゃむ猫 @jamnekodd

(8) 敵艦隊に近い位置にあった「春風」は船団の前に立ちはだかって煙幕展張、目隠しを試みた。 「旗風」は島影にあって若干出遅れたが、既述の通り、敵艦隊に向け砲撃突撃を敢行、敵を引きつけようとしている。 「朝風」はやや沖合にあり、会敵を急ぐ五水戦旗艦「名取」との合流を選んだ。

2016-09-28 01:14:53
じゃむ猫 @jamnekodd

(9) 第五駆逐隊の面々は、「名取」から突撃命令を受ける前に、それぞれが独自に行動していた。 事後、友軍艦隊が次々と戦闘に加入してきたため余裕ができた五駆は合流、改めて敵艦隊に魚雷戦を挑んだが、残念ながら大きな戦果はなかった。

2016-09-28 01:17:01
じゃむ猫 @jamnekodd

(10) 「旗風」は、敵艦撃破という切り口では大きな役割は果たせなかったけれども、船団に与えた心理的な影響では他のどの艦よりも大きな役割を果たしたかも知れない。 突撃する「旗風」を、ある将校は「さながら一幅の絵巻のよう」と評した。 震えるほど格好いいのである。

2016-09-28 01:18:01
じゃむ猫 @jamnekodd

(11) なお、海戦序盤で集中砲火に苦しんだ第2号掃海艇は、海戦終盤に至り魚雷を受けて沈む。 この魚雷は「最上」が「ヒューストン」らを狙って放った九三魚雷が外れたものと言われており、2掃はとにかく不運としか言いようがない。 (了)

2016-09-28 01:19:12