- yukinko_mo_so_
- 3175
- 2
- 0
- 0
0 隆ちゃん─── どこかで僕の名を呼ぶ 君の声が聞こえる。 どこ…? どこにおるん…? 周りを見回しても君の姿はなくて “会いたい” ただそう願うしかない。 ───たとえ もう2度と会えないさだめと わかっていても─── #君はいない
2016-08-06 19:12:401 『パパ?パーパ』 僕はその声で目を覚ました。 「ん…?」 目を開けると そこには1人の少女がいた。 『パパ…大丈夫?』 不安そうに僕を見つめるこの少女は 僕と君の愛の結晶。 #君はいない
2016-08-06 19:12:492 僕は体を起こしながら 「大丈夫やで?」 娘の頭を撫でる。 『でも…』 「でも?」 『パパ…泣いてるよ…?』 「え…?」 僕は自分の頬に触れる。 確かに頬が涙で濡れていた。 #君はいない
2016-08-06 19:13:003 なんでや…? 僕はなんで泣いてるんやろ…? ぼんやり考えていると ぺたっ 娘が僕の頬に触れた。 『怖い夢見たの?』 夢…? そうか…あれは夢か… 「ちょびーっとだけ、怖い夢見たかも」 僕は娘を抱きしめる。 #君はいない
2016-08-06 19:13:094 『大丈夫だよ』 娘は小さな手で僕の頭を撫でる。 「うん、ありがとうな」 ──君に似て、この子は 心の優しい子に育ってくれてるよ。 「よし、そろそろ起きて朝ご飯食べよっか」 『うんっ』 僕は娘をベットから降ろして 一緒に寝室から出た。 #君はいない
2016-08-06 19:13:205 トイレ、歯磨き、顔洗いを済ませて 僕はキッチンで朝ご飯を作る。 『パパ、今日は朝ご飯なぁに?』 娘が僕の足に ぎゅっとしがみつきながら聞く。 「今日は食パンに苺ジャム塗ろかな~」 『やったぁ!!』 嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる娘。 #君はいない
2016-08-06 19:13:316 「もう少し時間かかるから、向こうでTV見とき」 『はーい』 るんるん鼻歌を歌いながら ソファーに向かう娘の背中を見つめる。 食パンを焼いてお皿にのせて 食卓にそれを並べる。 そして冷蔵庫から苺ジャムを出し 「パンできたよ~」 と娘に呼びかける。 #君はいない
2016-08-06 19:13:417 『苺ジャム塗るー!!』 娘がタタタッと食卓に走り寄ってくる。 「はーしーらーなーい」 『ごめんなさい…』 「ん」 ヒョイッと抱き上げて椅子に座らせる。 #君はいない
2016-08-06 19:13:528 『パパ苺ジャム~』 「はいはいはい」 苺ジャムの蓋を開けて 小さいスプーンを娘に持たせる。 「塗りすぎたらアカンで?」 『うん』 娘は一生懸命苺ジャムをパンに塗る。 #君はいない
2016-08-06 19:14:059 「はーい、それぐらいにしとこうね」 『はーい』 スプーンを僕に渡して 『いただきますっ』 娘は美味しそうに食パンを頬張る。 「美味しい?」 『うんっ美味しい!!』 口の周りに苺ジャムを いっぱい付けながら微笑む娘。 #君はいない
2016-08-06 19:14:1710 「よーし、パパも食べよっかな」 娘の前に座って 「いただきます」 僕も食パンを食べ始める。 「ん~美味しい♡」 『パンがサクサクしてるね!!』 「ホンマやなぁ」 ニコニコしながら食べ進める。 #君はいない
2016-08-06 19:14:2711 「ごちそうさまでした」 僕は食べ終わったので お皿と苺ジャムとスプーンを持って キッチンに向かう。 お皿とスプーンを流し場に置いて 苺ジャムを冷蔵庫にしまう。 そして手を洗い コップにジュースを注いで 娘のもとに戻る。 #君はいない
2016-08-06 19:14:3813 『ねぇパパ』 娘が僕の方を見て 『信ちゃんはいつおうちに来るの?』 と聞いてきた。 “信ちゃん”というのは僕の同僚。 娘のことを可愛がってくれている。 「ん~…いつやろなぁ…」 『早く信ちゃんと遊びたい』 そう言って僕を見つめる娘。 #君はいない
2016-08-06 19:15:0114 「じゃあ今日聞いてみるわ」 『やったー!!』 嬉しそうに笑ってジュースを飲み 『ごちそうさまでした!!』 手を合わせて娘は言う。 「はーい、よく食べれたねぇ」 僕はティッシュで 娘の口の周りを拭いてやる。 #君はいない
2016-08-06 19:15:1315 娘を椅子から降ろして 「おてて洗っといで」 と促す。 『はーい』 娘は素直にいうことを聞いて 洗面所に向かう。 その間にお皿とコップを洗い場に持っていって手早く洗ってしまう。 #君はいない
2016-08-06 19:15:2216 さて… 保育園の用意始めるか… 朝、パンを焼くついでに作ったサンドウィッチをお弁当箱に詰めてナフキンで包む。 『パパ、はい』 気が利く娘は お弁当箱を入れる袋を持ってきた。 「ありがとう」 僕は袋を受け取り お弁当箱を入れて娘に渡した。 #君はいない
2016-08-06 19:15:3517 「これ、鞄に入れるのできる?」 『できる!!』 「よし、ほな入れてきてくださーい」 『はいっ』 娘は鞄にお弁当箱を入れて 『パパできたー!!』 と満足げに言う。 #君はいない
2016-08-06 19:15:4518 「偉い!!よく出来ました!!」 『へへ…♡』 褒めると照れくさそうに微笑む娘。 あーもう… 「こっちおいで」 娘に手招きして 近付いてきたらぎゅっと抱きしめ 「可愛い、ほーんま可愛い」 娘の頬に自分の頬をすりすりする。 #君はいない
2016-08-06 19:15:5519 『くすぐったいよパパー』 「ごめんごめんw」 娘を離して 次は水筒を用意する。 「これは机の上に置いてきて」 『はい』 水筒を机の上に置いたのを確認して 「お洋服持ってくるから、それまでTV見とき」 娘にそう言って服を取りに行った。 #君はいない
2016-08-06 19:16:0420 娘の保育園の制服と 靴下とハンカチとティッシュ、 そして自分のスーツ1式を持って リビングに戻ると 娘がある写真立てを見つめていた。 「どうしたん?」 声を掛けると 『ママ…』 少し寂しそうに呟いた。 #君はいない
2016-08-06 19:16:1721 写真立ての中の写真にはママ─── ───君が写っている。 だけど僕と娘の目には 君の姿は映らない。 それが娘にとって どれだけ寂しいことか 僕は痛いほどわかる。 #君はいない
2016-08-06 19:16:2922 「…おいで、着替えよう」 僕は両手を広げて娘を待つ。 『…うん』 何かを悟ったのか 娘は僕にぎゅっと抱きつく。 ──いつからやろ… この子がわがままを言わんくなったんは。 沢山わがままが言いたい年頃のはずやのに… #君はいない
2016-08-06 19:16:3623 「ごめんな…」 この子の自由を奪ったのは 他でもない、僕や。 この子から母親─── ───君を奪ったのは僕や。 #君はいない
2016-08-06 19:16:4824 『…パパ?』 娘が不安げな声を出す。 「ん…?」 『また泣いてる…』 アカン…また不安にさせてまう… 「んー、目にでっかいほこりが入ってなぁ…めっちゃ痛いねん」 僕は目をこすりながら言う。 #君はいない
2016-08-06 19:17:00