- dashimarutarou
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【1】20XX年。地球はリア充に包まれた。だが、彼等は死に絶えてはいなかった。結果として、リア充が全てを支配する世界となった第一次虹惨事戦争後の大地で、今独りのKIRIN(※1)が立ち上がる…。
2011-02-19 23:41:19【2】深夜。時計の音とクリック音のみが響き渡る室内。 ”彼”は泣いていた。 彼の前には暗い室内で唯一淡く光を放つディスプレイ。 彼はそこに映し出された架空の群像劇に涙していた。 「真人っ…恭介っ…。ぐすっ。」(※2)
2011-02-19 23:42:13【3】ディスプレイから漏れた光が希薄に室内を照らす。 8畳ほどの室内では、表紙が似通った小説が数百冊収められた本棚、多数のフィギュア、プラモデルが乱立するショウケース、いくつものゲーム機とそのソフトが混沌を成している。
2011-02-19 23:42:41【4】彼が寝る為に用意したと思われるスペースには、虚ろな目で部屋の隅を見つめる人形。仮にそれが”彼女”であり”タナカ ミサ”であるという主張があったとしても、そこに何ら必然的な関係は存在しない。(※3) ひとしきり泣いた後に彼は立ち上がり、薄汚いジャージを着てこの部屋を出た。
2011-02-19 23:43:15【5】外出、彼にとっては部屋の外に出ることと同義であるが、は彼のライフサイクルにおける週に一度の行事である。その時に彼は近所のコンビニエンスストアで一週間分の食料を買い溜め、再びあの部屋へと帰る。誰もが寝静まった深夜。彼の住む寂れた地域では、この時間に外で誰一人見かけることもない
2011-02-19 23:43:52【6】だからこそ彼はいつもこの時間に外出するのであり、この時間こそが、彼が”外の世界”で唯一愛することの出来るものであった。 しかし、この日は違っていた。
2011-02-19 23:44:23【7】コンビニエンスストアへと向かう道中、川に面した暗い歩道を彼が歩いていると、微かな”声”が聞こえてきた。 彼は恐れた。しかし引き返さなかった。また同じことを繰返すのだろうか。いや、違う。
2011-02-19 23:44:54【8】ただ平然としていればよいのだ。そうすれば何もなく事は終わる。消極的ながらも普段の彼とは違うこの決断は、つい先程彼が部屋で泣いていた原因と無関係ではないであろう。彼はこうして育ってきた。
2011-02-19 23:45:13【9】ディスプレイの中に広がる世界を寄る辺として、そこに映し出された非実在青少年の在り方から実在青少年としての在り方を模索してきた。
2011-02-19 23:45:34【10】彼は少し俯きながらそのまま進んだ。声は少しずつ大きく、ハッキリとした形を帯びてくる。すぐにそれは嬌声だと分かった。 彼がそれに気づいた時には”それ”はすぐ近くで行われていた。
2011-02-19 23:46:01【11】彼はその声が聞こえる方向を見てしまった。見ないことが最善であったが見てしまった。この心理の説明において、彼のような人種はしばしば自己矛盾を起こしてしまう。要するに彼は”見たかった”のだ。
2011-02-19 23:46:21【12】そこは小さな公園であった。そのベンチの上で男と女が交わっていた。 深夜に。公園で。嬌声をあげながら。彼の目の前で。
2011-02-19 23:47:09【13】彼は立ち尽くした。彼はこの世界を知っていたが知らなかった。渇望もあった。だからこそ見入ってしまった。 嬌声が止んだ。男と女は”彼”を見ていた。彼はいつの間にか二人のすぐ近くにいた。 男は大きな声で言った。何見てるんだ。
2011-02-19 23:47:39【14】彼はビクっとしたが何も言わなかった。 女は言った。なにあんた、キモヲタはこっちに近寄らないでよ。 彼の容貌を見て女はそう言った。彼はまだ黙っていた。 いい気分だったのに冷めちまったじゃねぇか。と男が体勢を崩しながら言う。その時、
2011-02-19 23:48:09【15】「ちょっと見てよ。こいつあたしらの見て超興奮しちゃってるわよ。キモっ。」女が彼の股間を指さして言った。
2011-02-19 23:48:51【16】彼の中に圧倒的な羞恥心がこみ上げる。それを見た男が 「キモヲタ童貞が人のセックス見て発情してやがる。カスだな。お前らはもう生きてる意味なんかないんだぜ?死んじまえよ。」と言い終わるか終わらないかの間に 「うっ…うるさい。リア充なんかっ…爆発しろぉっ!」
2011-02-19 23:49:29【17】彼は目を瞑って声を絞り出した。長くまともに喋っていなかったため痰が絡んで上手く発音出来ていなかった。彼が言い終えた瞬間、 パン! という大きい音と共に熱い液体に全身が包まれた。
2011-02-19 23:50:01【18】「ひぃっ!」 彼は叫んだ。二人に何かをされたものと思って後退りしたが、足がもつれて尻餅をついてしまった。目の前にはもう二人はいなかった。
2011-02-19 23:50:20【19】真っ暗な夜空の下の公園で、彼は独りだった。 体中を包んでいる熱い液体を手にとってみると、それは恐らく血だった。 さっきまで二人がいたベンチをよく見ると、最初は暗くてよく分からなかったが、人間のカケラと思われるものが辺り一面に飛び散っている。
2011-02-19 23:50:44【20】彼は何が起こったか瞬時に悟った。でも何故?しかし彼はさして悩むことはなかった。彼の脳内に蓄積された多数の非実在青少年達の中にも似たような境遇の人間がいた。つまり、自分は今それとまさに同じような状況に出くわしているのである。
2011-02-19 23:51:02【21】彼は、力を手に入れた。”彼等”を虐げ、この”外の世界”にいられないように貶めた奴らに復讐することの出来る力を。
2011-02-19 23:51:19【22】「ミサ…。僕はどうやら選ばれた人間みたいなんだ。僕はやってみせるよ。僕の仲間達と、そして君のために。」 彼は”彼女”に言った。今まで同じような境遇にあった”男たち”が言ったようなセリフを。 TO BE (NOT) CONTINUED
2011-02-19 23:51:34