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平野悠 @yu_hirano
真冬の公園の風景そのー1夕暮れ時の公園。大きな樫の木の下に、小さな女の子と老人がぽつんといた。なにやら真剣な表情で、大きなトランクを前にしゃがんでいる。少女は体育座りで足を組み、膝の上に顔を乗せ、じっとトランクを見ている。「よし、すみちゃん、開けるぞ」という老人の声が聞こえた
平野悠 @yu_hirano
真冬の公園の風景そのー2「うん、いよいよだね……」と、少女が目を輝かせながら言った。ちょっとした 「沈黙」が周囲を支配した。西の空から赤い夕日が木陰に差し込んできて、その少女をまぶしく照らし始めていた。一つの古ぼけた皮のトランクの中に、老人と少女のどんな謎が詰まっているのだろうか
平野悠 @yu_hirano
真冬の公園の風景そのー3 無意識に私は、彼らに近づいておそるおそる中をのぞき込もうとしていた。ふいに少女が顔を上げ私に気がついた。そしてばたんとトランクのフタを閉めた。不用意に近づきすぎた。私は何か、とてつもなく悪いことをした少年のように、ちょっと慌てて二人のそばから離れた。  
平野悠 @yu_hirano
真冬の公園の風景そのー4しばらくしてそっと後ろを振り返ると、二人はトランクを開けるのを止めてしまったようだった。老人と少女は私のいる方向とは逆の、遠くの森の奥へと去って行った。私は何かとっても大切なものを見逃してしまった気持ちになって二人の影を小さくなるまで見送った。
平野悠 @yu_hirano
真冬の公園の風景そのー6 赤い特注の自転車を懸命に漕ぎ家に向かいながら、環状八号線を流れる赤いテールランプの曲線を目で追いながら、私は、二人のことを考え続けていた。あのトランクの中身、どうしても知りたいと思ったが、やはり二人の後を追うことは出来なかった自分を、よしとした。

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