【シュアリー・ユー・アー・ジョーキング】 #2

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【シュアリー・ユー・アー・ジョーキング】 #2

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数日後。ハトノス大学は、祭りめいたアトモスフィアに包まれていた。学園祭……学生が部活単位や有志メンバーなどでDIY露店などのイベントを企画する、日本の大学独特の風習である。不幸な爆発事故の影響で一時は中止すら検討されたが、何とか開催にこぎつけた。”事故”……そう、事故である。

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学生の死者10数人。そして行方不明者、1人。モナガだ。あるいはこの事故の重要参考人である可能性が高いはずの彼を抜きにしたまま、現場検証、事情聴取など一通りの捜査が形だけ行われ、(いわゆる「N案件」として)捜査は収束しつつある。

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学部棟の立ち入りは基本的に制限され、未だに入り口や建物周辺には制服姿のマッポが検問めいて立っている。だが、無軌道大学生達にとっては、学園祭という非日常にさらなるスリルと彩りを加える存在でしか無い。「ワオ！見ろよ。マッポだ！この間の事故の捜査、まだ続いてたんだ」「ヤンバーイ！」

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ジョックスの一団がサイバーサングラスから白い歯を覗かせながら笑う。「コスプレでしょ？」「キミ達、カワイイ罪で逮捕されちゃうかもね！」「「エー！ヤンバーイ！」」「ダイッジョブダッテ！僕達がカラテで守ってあげるよ。アンタイセイ！」「「ヤンバーイ！」」「ユウジョウ！」ナムアミダブツ！

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その他の学生達も、皆めいめいのやり方でつかの間の非日常を楽しんでいる。仮装する者もいる。女子高生の格好をする者。映画俳優めいたオレンジ色のズボンに辮髪姿の男。ズンビーや吸血鬼姿の者。ニンジャに扮する者もいる。無論、カートゥーンの中の架空の存在としてのものである。

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彼らに追悼のアトモスフィアはほぼ無い。実社会と同じく、大学というコミュニティも結局は他人の集まりであり、大半の者にとっては犠牲者は”ワン・オブ・ゼム”である。ちょうど我々が、例えば同じ地域で発生した重大事故や通り魔事件などに恐怖しつつも、心のどこかでは他人事と感じてしまうように。

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また同じ授業を受けていたり同じサークルであったとしても、犠牲者と余程個人的な付き合いが無い限り、時が経つにつれて彼らの死は、自らの青春の一ページにバイオサンマのワタめいたビターさを添える思い出へと変わっていくのだ。忘却による2度目の死は、マッポーの世において余りにも早く訪れる。

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メインストリートの両脇に並ぶDIY露店前には「実際安い」「おマミ」「隣の店の100倍美味しさ」「永」「そでん」といった力強いオスモウ・フォントのノボリが所狭しと立ち並び、店頭から漂う料理の香りやハイテンポBGMと共に通行人の購買意欲をそそる。

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ストリート奥の広場では、特設ステージにて様々なイベントが開催されている。ハッカー部のタイピング対決や、チアマイコの応援パフォーマンスなどだ。「アンタイセイ！」「グワーッ！」今はハードコアパンクバンド「ケジメド」のコピーバンドが、演奏を中止させようとする者たちと殴り合っている。

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「このスシ・ソバを食べないと学祭来た意味ないよ！実際安いよ！」「テンプラもあるよ！お姉さんカワイイだからオマケするよ！」イタマエに扮した学生が叫ぶ。その宣伝売り子を横目に、一人歩く小柄な少女がいる。((自慢じゃねえけどさ、イタマエの腕ならあんたらより俺のほうが上だと思うぜ))

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その少女、エーリアス・ディクタスは赤のマフラーをなびかせて歩きながら時々辺りを観察し、さり気なく周囲の話に聞き耳を立てる。マフラーに書かれた「地獄お」の文字は、今だけは首元の方に隠す形で巻かれている。

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……エーリアスは先日のナンシーとの会話を思い出していた。『先日のハトノス大の爆発事故。貴方も知ってると思うけど』ニュース映像がUNIXモニタに表示される。『多数の学生の死者、授業を行っていた教員は行方不明。にも関わらず、不幸な爆発事故として捜査は急速な幕引き。』

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画面には続けざまに、現在も行方知れずとされている男の顔写真と、”モナガ・ヒデキ”の名が表示される。『ワイドショーお抱えのコメンテーターも、通り一遍のコメントの後は不自然にだんまりよ。私のジャーナリストとしての勘に頼らずとも、何かおかしいと気付くわよね』

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『まさかこの男、ニンジャ……』エーリアスは唾を飲み込んだ。『現段階での調査結果は、彼と、この大学との提携に手を上げている企業の筆頭株主企業、そのCEOとの間の何らかの関連性を示唆しているわ。もちろん、ニンジャとしてのね。ひょっとしたら大物が釣れるかも……』

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『私も電子面から彼の足取りを洗ってみるわ。ニンジャスレイヤー＝サンも既に裏で動いてくれている』エーリアスが持参したトロ・スシでニューロンをいたわりながら、ナンシーは悪戯めいた笑みを浮かべながら続けた。『そこで貴方にも相談なんだけど……』

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「……で、ナンデ俺なんだろうな」エーリアスは自分の格好に目を落とした。薄手のニットにシャツを合わせ、眼鏡(伊達である)と同色のスニーカーでまとめた姿は周囲の学生にいい意味で溶け込んでいる。マフラーの差し色が、全体を引き締めている。

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やや垢抜けないデイパックの中には、ナンシー・リーが偽造した学生証が入っている。万が一のためだ。右手には先ほど購入したクレープが握られている。「見た目が一番学生めいてるから、って言われてもさ。時々遊ばれてるんじゃないかって思うよ……うわッ！」

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一際恐ろしげな格好をした学生の集団とすれ違ったエーリアスは思わず声を上げた。そのうち一人の首から上は肉色の着ぐるみ頭部めいたものに覆われ、顔が本来ある部分の両側面には歯と巨大な目玉があしらわれていた。「なンだろね」彼女は呟き、クレープをかじった。広がる甘みに、彼女は笑顔になった。

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一方、ケジメド・チルドレンの卵が追放された後の特設ステージでは、学祭恒例行事であるミス・コンテストが始まっていた。ミス・コンテストとは、大学に所属する女子学生が、己の美貌、そしてそれを引き立たせるハイクやチャ、ボランティア精神などの総合的な人間性を競うコンペティションである。

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血色の良い肌の上に様々なドレスを纏った女子学生が、一人ひとり順番にスポットライトと歓声を浴び、己が色香を振りまいていく。「ヨロシクオネガイシマス！チアマイコ部のミチヨです！趣味は人助けで、昨日も10万円募金しました！」「アメフト部マネージャーのキユリです！イアイドー3段です！」

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出演者は皆一人でも多くの学生をを魅了しミス大学の座を勝ち取るべく、笑顔の裏で死力を尽くす。このミスコン企画に出資するカチグミの大学OBも少なくなく、結果次第ではそのパイプを用いて一足飛びにカチグミへの道が開かれるからだ。それ故、競争は時に熾烈を極める。

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ある者は奥ゆかしさを顕示するための虚偽のエピソードを語り(嘘が発覚すればもちろんムラハチでは済まない)、ある者は友人らの組織票をカネで買う。対立候補のネガティブキャンペーンを密かに展開する者もいる。これもまた、ネオサイタマ社会の縮図である。

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「さて、最後はお待ちかねの飛び入り枠、シンデレラ枠です！この私、司会のコイチが、観客の皆さんから独断と偏見で出演者を決めさせていただきます！」サイバーサングラスに白スーツ姿の司会が振りまく無責任な笑顔に観客は沸き立つ！