【習作】夜行食堂 第七話 オムライス
- crosstaichi
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お久しぶりでございます。 本日は久々の夜行食堂、その第7話とあいなります。 幾分時間が空きましたので拙い部分もありましょうが、まあいいやの気持ちでよろしくお願いします。
2016-02-20 22:05:0502 客の立場を詮索するのはご法度。 この商売について最初に学んだ鉄則だ。 客が何をしているかは関係ない。 そう考えてた青くさい時期が俺にもあったんだよなあ。
2016-02-20 22:16:4102 warageに足繁く通ってた客が、買い出しに行った先で歌を歌ってるのを見た時。 そんな鉄則は吹っ飛んで行ったけどね。
2016-02-20 22:19:0304 「あんた…アイドルだったのかい?」 俺の質問に客…まあこの際どうでもいいがニューターの彼がイタズラを見咎められたように笑う。 「ありゃ…見られちゃったな…」
2016-02-20 22:21:5805 「まあこのご時世だから何があってもおかしかねぇが… とりあえずさ、一曲聞かせてくれないか?」 俺はどっかと前に腰掛ける。 それを見て彼は嬉しそうに楽器を整える。 「もちろん。 ただ今歌えるのは自分で作った歌しか無いけどいいかな?」 「ああ、頼むよ」
2016-02-20 22:24:5406 彼の歌う曲は明るくて未来を讃える明日の為の歌だった。 特徴的なポニーテールを振り、楽しそうに歌う。 歌い終わる頃には汗だくになっていたけれど。
2016-02-20 22:26:5307 「ありがとう。 いい曲だったよ。」 少し多めにチップを渡そうとした手を笑顔で彼は押し返す。 「チップはいいからさ。 飯食わせてくれない? 腹に溜まるやつ!」 事情はわからないがそう言われて断る程俺は分からず屋でもない。 「ああ、今すぐがいいかい?」 「もちろん!」
2016-02-20 22:29:5808 少し早めに店を開けたので客はまだ来ない。 カウンターを挟んで彼と俺が対峙する。 「お客様、何に致しますか?」 「うむ!いつものを所望しよう!」 ニコニコと笑顔で冗談に答える彼にこちらも楽しくなる。 「ではいつものをご準備いたしましょう!」 「よろしく頼むよ!君ィ!」
2016-02-20 22:33:2109 彼がいつもうちで食べていたのはオムライス。 それも特大サイズだ。 まず玉ねぎと人参をみじん切りにしてたっぷりのバターで炒める。 飴色に玉ねぎが色を変えたら刻んだベーコンを入れる。 ジュワーッ! 肉肉しい香りが厨房に立ち込める。
2016-02-20 22:36:4910 火が通ったら固く炊いたご飯を投入する。 ざあっとほぐしたらトマトジュース屋から買い付けた旨味たっぷりのケチャップの出番だ。 塩、胡椒、ケチャップで味付けてパプリカパウダーで甘みと旨味を引き出す。 まあ色味が良くなるのが一番だがね。 ケチャップライスは赤くないとだ。
2016-02-20 22:40:1211 ここまで出来たら型枠にケチャップライスを詰める。 それを薄焼き卵で包んで…ELGの旗を刺して… 「いつもの」とケチャップで書けば特性オムライスの完成だ!
2016-02-20 22:42:4212 「お待たせいたしました。 いつものでございます。」 「うむ!」 彼はオムライスを受け取ると旗を残しながら食べ始める。 「食べ方も変わらないな」 微笑ましい光景に苦笑いのようななんとも微妙な笑顔が出る。
2016-02-20 22:44:5913 「僕がwarageにこだわらなくなったって思ってるんですよね?」 旗の際をスプーンが攻めるようになったとき、突然彼が口を開いた。 「ああ、店長だけじゃないんですよ。 他の仲間からもなんども聞かれましたし、酷いやつからは怒鳴られることもありましたから。」
2016-02-20 22:48:3114 「僕はいつも平和を取り戻したいって頑張ってました。 武器を持って山を駆け巡り… まあ当たり前ですけどね」 そういうと照れ臭そうに鼻を掻く。 「でもある時子供に聞かれたんですよ。 『昔を取り戻したいって言うけどどういう所が良かったの?』って。」
2016-02-20 22:53:3015 「まあその時考えてみたら、平和な時代を満喫して無かったなあって気がついたんですよね。 だから思いっきり楽しもうかなって! それだけなんですよ」 そう言うと一気に旗の攻略に取り掛かる。
2016-02-20 22:56:0216 自分の生き方を簡単に見つめなおして、簡単にそれに取り掛かることができる彼が眩しすぎる。 いやはや若くてもすごいやつはいるもんであるなあ。
2016-02-20 22:57:4617 「お客様、こちらはサービスでございます」 そっとソーダフロートを出す! 「えぇ! ありがとうございます!」 ニコニコと素直に喜ぶ。 かなわねぇなあ… クシャクシャと頭を掻いて微妙な笑顔を浮かべてみた。 きっと今日一日はこの顔だから来る客には諦めてもらうしかねえな。
2016-02-20 23:01:56