【ミリマスSS】音の雪 #2【真壁瑞希】

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

（今までのあらすじ：『アイドルの日常音』を録音し販売する企画の槍玉にあげられたのは、765プロでも一、二を争うほど物静かなイメージのあるアイドル、真壁瑞希！346プロアイドルなどとの邂逅を経て、瑞希は765プロ事務所に向かう！そこで待ち受ける人物とは……！？）

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【音の雪:Snow of sound】.wav #2

蝶丹☔ @iamtantanman

実に８ヶ月ぶりの『音の雪』である。 #shomupopo

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▶START (1)

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電子音じみた「かごめかごめ」が鳴っている。周囲には闊歩する人の波。瑞希が今歩いているのは、どこかの交差点だ。「かごめかごめ」が途切れ、ピポン、ピポン、と、青信号の点滅を告げている。瑞希は足早に信号を渡り切った。どこかの建物に入ったのか、車の音がくぐもる。 2

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階段を上っているようだ。手すりに擦れる化繊手袋の音色（おんしょく）が心地いい。二階だろうか、瑞希が止まり、ガチャリ、ノブを回し、ギィ、ドアを押し開けた。「おはようございます、うぉっ」「あれ、はろはろ→みずきん！今日はお休みなの？」今は昼だが礼式的に瑞希は朝の挨拶をした。 3

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返事をしたのは……亜美か、真美だ。どっちだろうか。ただでさえ外見が似ているのにあの二人は声も似ている。判別はつかない。それと瑞希「うぉっ」ってなんだ。「お休みではないですがお休みのようなものです。それより、今日はあまり人がいないですね」電気ストーブや冷蔵庫の駆動音が響いている 4

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「そーなんだよ、みーんな劇場の方行っちゃって」双子のどちらかの声は、なぜか少し上の方から聞こえてくる。少し高い所に登って遊んでいるのか。瑞希はガコッと冷蔵庫を開けた。ぶううん、という冷却音が一瞬大きくなる。何かを手に取り、閉める。「劇場」語尾が上がる。「なぜまた」 5

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「なんかイベントやるみたいだよー」「双海さんは行かないんですか」ああ瑞希、頼むから名前で呼んでやってくれ。どっちの双海だか分からない。そして、双方からの言及がないから会話が滞りなく進行してるが、さっきの「うぉっ」はホントになんだったんだ。「この後仕事があるんだよー」 6

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瑞希が右手でキャップを開けている。先ほど手に取ったのは何らかの飲料ボトルだったのだ。こくこく、と玉を転がすように喉が鳴る。亜美もしくは真美（この状況なら、双子と声が同じで同じ名字の第三者という可能性すらありえる）が、うぇー、と、吐くような声を出した。「そりゃ行きたいけどねー」 7

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「子供用のウルトラマンショーで営業なんだよ。もう私はコドモじゃないぞ、ゼットン星人め！」“何者か”はわざとらしく仰々しく声を作った。ウルトラマンの真似だろう。「なるほど。双海さんには申し訳ないですが、それなら私は劇場に行くとしましょう」瑞希はボトルを冷蔵庫に戻した。 8

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ウルトラマンってそもそも喋ったっけか。というか瑞希、飲みかけのペットボトルを名前も書かずに冷蔵庫に戻したりしたら、悪いおじさんが頂いちゃうぞ。「え？もうちょっとゆっくりしてったら？せめて兄Cが来るまであそぼーよ。……うーん、あとちょっとしかないけど」 9

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瑞希は少し間を置いたが、「ええ、いいですよ」と言った。その声色は、包容力のある、幼少期に近所に住んでいたお姉さんじみて柔らかかった。コンコン。ドアがノックで打ち鳴らされた。方角、距離的に、事務所の入口のドアだ。瑞希たちの応答を待たずドアは開かれる。「これは、真壁瑞希くん」 10

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「スチムPさん。どうも、おじゃましてます」スチムP。元“特等星《オールスターズ》”担当Pである。「それと、誰ですか、そこの巨人は」とスチムが言う。巨人？いったい誰のことだ。俺は聴覚記憶を掘り起こす。巨人……巨人？そんなヤツはこの場所には……「見覚えのある顔ですが」 11

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「私は双海亜美・真美を吸収して生まれた究極超合体超科学生命体、フタミーミーじゃ！」フタミーミーと名乗る声は、さっきまで瑞希と会話していた声と同じだ。その声は少し上の方から聞こえてくる。どうでもいいが『超』を二回も言うな。「そうですか。ではフタミーミー、営業に行きましょうか」 12

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「そうそうウルトラマンショーの営業に行って怪獣役として思いっきりボコられてくるぞーがおー、ってチョオオオオオオイ！！！！」フタミーミーのノリツッコミが虚しく響く。「ちょっと！誰かなんかツッコんでよ二倍の身長になったこの双海星人に！二人とも全然驚かないしもう……ガッデム！！」 13

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「いやぁ……少し見ない間に随分と大きくなりましたね、双海さん」と瑞希。「今頃遅いわ！」「もうそろそろ時間ですし、行きましょうか、フタミーミーくん」とスチム。「「だからツッコんでよ兄C！うあうあ→！！」」フタミーミーの声が分裂する。「このスカポンタン！」「このこんちきちん！」 14

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「このポンコツアンドロイド！」「この逆イケメンの対偶！」「このチキチキマシン！」「この石頭！」「このねぼすけ！」「この尻切れトンボ！」「このおっちょこちょい！」「このおっとり刀！」「この煙突！」「このバカ！」「この……なんかよくわかんない」「アホ！」 15

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整理しよう。フタミーミーはどうやら、スチムPを驚かせるべく亜美真美が擬態したモンスター。少し上から声が聞こえたり、「二倍の身長になった双海亜美」と発言したり、ついさっき声が分裂したことから考えて、「真美が亜美を肩車か何かで持ち上げた姿」だと推測できる。 16

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恐らく、真美を隠すためにマントなどを羽織って、少しは特殊メイクもしていたのかもしれない。が、瑞希とスチムは微塵も驚かず、フタミーミー作戦は失敗に終わったのだ。……いや、瑞希は「うぉっ」と驚いていた。少しは成功したと言えるが、肝心のフタミーミーには聞こえてなかったんだろう。 17

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「『押っ取り刀』は、緊急時に何も持たず急いで駆けつけることをあらわす言葉ですよ」と、スチムは静かに諭す。いや、諭すとこそこじゃないだろ。「そんなこと知ってるやいこのボケキラーめ！」「このうんこ！」「そーだそーだ！兄Cのバカ！うんこ！」「それはさすがに言いすぎでは」 18

創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ) @chou_tan_

瑞希は心配そうに声をかける。いやしかし瑞希、そいつらはそれでいいんだ。昔からその調子だからな。しかし、瑞希に言われて我に返ったのか、双子は「「確かに」」とけろりと言った。ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ。小さなバイブ音が、三回鳴った。三回を一周期として、四周期、続けて鳴る。 19

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五周期目の途中で音が明瞭になり途切れた。「はい、もしもし765プロのスチムです」スチムの携帯だったようだ。「はい、事務所にいます。ええ、今から出させます。何も支障なければそちらへ向かいますので」仕事の電話だろう、スチムはそうやって二、三言やりとりして、携帯をパタンと閉じた。 20

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そういえばアイツ、まだガラケーだったな。いい加減に買い換えてほしいものだ。「真壁くん、僕たちはそろそろ出ますので」「あ、はい。どうぞ頑張ってきてください。……応援、してるぞ」「いえ、防犯のためにも事務所の鍵を閉めたいので、真壁くんにも出て頂けると幸いです」 21

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「今日はこの後、誰も戻ってこない予定ですので」「あ、そうなんですか。そいつは失敬……」瑞希はガサガサと荷物をまとめ始める。「みずきんこれからどこ行くの？」「みずきんこれからなにするの？」双子が同時に別の質問を繰り出す。まだ聞き分けられる範囲だ「そうですね、劇場へ行こうかと」 22