「あのう、紅茶の配達に来ました」 「おつかれさまニャー。代金だニャー」 (変わった魔法使いもいるんだね。キャラづくりなのかな) ニシキは思わず笑顔になる。すると、魔法使いも笑顔になった。彼女は勇気を出して聞いてみる。 11
2016-10-30 19:37:39「あのう、あの猫たちは……」 「あれは猫たちを各地から召喚しているのだニャー。この旧市街地はいずれ猫に支配されるのだニャー」 なるほど、猫をよく見かけるのはこのせいか、とニシキは思う。猫の支配が何なのか分からなかったが、空地を好きにしてもかまわないだろうとも思う。 12
2016-10-30 19:41:00「紅茶をご馳走するニャー、上がって休んでいくといいニャー」 「あ……じゃあ少しだけ……」 魔法使いの申し出を断ったら何されるか分からない。そのまま家の中を案内される。ニシキは家に入って驚いた。紅茶の缶……それも未開封のものが山のように積んであるのだ。 13
2016-10-30 19:44:29_魔法使いは果物のようなさわやかな香りのする紅茶を淹れてくれた。ニシキは忙しい仕事の最中だったが、これも仕事のうちだろう、と自分を納得させる。彼女はいい香りを十分に堪能した。すると、魔法使いがこちらを見てつぶやいた。 14
2016-10-30 19:48:34「見届けてほしいんだニャー。僕が猫になってすべてが完了するニャー」 ニシキはその意味を訊ねようとした。しかし、魔法使いはマントを翻し家の奥へと歩いていく。ニシキは紅茶を急いで飲み干して後を追いかけた。魔法使いは家の奥、炉のような機械の前にいた。 15
2016-10-30 19:55:12「さらばだにゃー」 そう言うと魔法使いは機械の中へ消えていった。機械の扉が閉まり、ガコンガコンと音がする。そしてシューッと蒸気が噴き出し、小さく猫の鳴き声が聞こえたのだった。 16
2016-10-30 20:02:09_それからその魔法使いがどうなったかはわからずじまいだった。ニシキは今日も紅茶配達で町中を駆け抜けている。たまに旧市街地を横切るが、以前より多く猫の集会を見かけるようになった。もしかしたらあの魔法使いも混ざっているかもしれない。 17
2016-10-30 20:12:00_そうニシキに思わせるのは……彼らが、紅茶のセットを囲んで紅茶の茶会を開いているからなのだ。紅茶は猫には毒だと聞いたが、彼らは何ともないように飲んではニャーニャー言っている……。いつかこの街が猫に支配される日が来るのであろうか。 18
2016-10-30 20:14:35【用語解説】 【召喚】 輸送魔法という物は無いと言っていい。なので灰土地域南部から東部を迂回し、北西の果て帝都まで続く長大な交易路が生まれた。ただ、全くないわけではない。術者と被術者の協力で長距離移動する召喚術がある。人や持ち物が増えるほどただでさえ厳しい召喚の難易度が跳ね上がる
2016-10-30 20:22:57【次回予告】 観光客の二人が巨大な大河、聖河を渡ります。ただ、旅には様々なトラブルがつきもの。ご用心、ご用心……。 次回「聖河横断」 全30ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-10-30 20:28:47