それは、世界が“変わる”五年前のこと。 〈エルダー・テイル〉北米サーバーのプレイヤーズタウン・ビッグアップルに、新たな〈アサシン〉が誕生した。
2016-10-30 19:42:13青年の名はレオナルド・ジョンソン。筋金入りのギークにして、在宅ITワーカーとして手腕を振るうニューヨーカーである。 アバターである〈アサシン〉には、偶然にも自身と同じ、お気に入りのヒーローの名を付けた。
2016-10-30 19:55:58彼が愛してやまないコミック、〈NINJA‐FROG ADVENTURE〉。 カエルのミュータント・レオナルドが、猛禽魔王・スライサーに立ち向かう冒険活劇。日本のアメリカン・コミック・ファンの中では初心者向けと言われている作品だ。
2016-10-30 20:16:25そのコミック二巻。 レオナルドのもとに、スライサーからの刺客・シカラバが現れる。 サムライの意匠に身を包む、イモリのミュータントだ。
2016-10-30 20:26:39「でもまあ、さすがにシカラバって名前のやつは、いないよなあ」 しばらくビッグアップルを回ったレオナルドはひとりごちる。 そもそも、件のコミックのファンがこのゲームのプレイヤーにいるのかも分からないのが現状。
2016-10-30 21:03:31名前はともかく、相棒は欲しい。 ソロでもやっていけないことはないとはいえ、これはMMORPGだ。ひとりよりふたり、ふたりより大勢の方が楽しいに決まっている。 自分と同じ新規プレイヤーとチームを組もうと思い直し、レオナルドは一旦ギルド会館へと引き返す。
2016-10-30 21:11:15「おぬし、NFAのファンと見えるが」 とあるアバターが、レオナルドに話しかけてきた。 レオナルドがアバターを確認すると、 「ワオ、マジかよ!」 キモノ風の布鎧に身を包む〈サムライ〉、その名も“シカラバ”。 まさに、レオナルドが求めた人材だった。
2016-10-30 21:25:21(……うん? ちょっと待てよ?) はたと疑問がよぎる。 レオナルドは、改めてシカラバのアバター情報を確認する。 「……あー。もしかして、」 レオナルドの質問に、シカラバは半ば食い気味に答える。 「察しのとおり、俺はヤマトサーバーのプレイヤーだ」
2016-11-02 23:15:27「うん、だよなあ。〈サムライ〉はヤマト特有のアーキ・ジョブだしな」 〈エルダー・テイル〉は、世界中にプレイヤーがいる巨大コンテンツだ。 各地域ごとに運営会社があり、基本的なシステムやある程度の共通データ以外は運営会社ごとに設定が変更されることもある。
2016-11-02 23:26:16その中で、特にその影響を受けたのが、アーキ・ジョブ──メイン職とも呼ばれる十二の基本職である。 ウェンサーバーの運営会社・アタルヴァ社はこのゲームの製作者でもあるため、ここのアーキ・ジョブが他の全サーバーの骨格になっている。
2016-11-02 23:38:13とはいえ、地域性がなければサーバーを世界中に置く意味がない。そう考えたアタルヴァ社は、ふたつまでのアーキ・ジョブに、各サーバー特有の肉付けをすることを許可した。 ヤマトサーバーでは、〈パイレーツ〉が〈サムライ〉に、〈メディウム〉が〈カンナギ〉に変更された。
2016-11-02 23:46:30つまりは、シカラバはなんらかの手段でウェンサーバーにやって来たヤマトサーバーのプレイヤー、ということになる。 「しかし、どうやってこっちに来たんだ?」 「うっかり〈妖精の輪〉を起動してしまってな。気付いた時にはビッグアップルの外にいたのだ」
2016-11-02 23:52:07「すぐに戻ろうとここの〈妖精の輪〉のタイムテーブルを調べたのだが……ヤマトサーバーのプレイヤータウン付近に跳べるのは明後日の夜であった」 「oh……そいつは災難だな」 「否、そうでもない。お陰で同好の志であるおぬしに、こうして出逢えたのだからな」
2016-11-03 00:00:23