「早贄」

輪廻転生論に基いて。
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【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

【本日21時OPEN】 出演者:@_dusk4_ 年齢制限:R-18G チケットをお持ちのお客様は、20:50迄にお席までお願い致します。

2016-09-28 18:58:23
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

( 客席の照明が落ち、先ずスクリーンがノイズ混じりの映像を映し出す。其処には数行の警告文 )

2016-09-28 21:02:58
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『 当公演は、題材の都合上過度の流血表現及びグロテスクな表現を多分に含みます。耐性のない方は、観覧をお控えいただきます様、重ねてお願い申し上げます。 』

2016-09-28 21:04:27
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

——贄による贄の為の挽歌、「早贄」。 此れより開演と相成ります。

2016-09-28 21:06:08
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

ねェ、そこのあんた。アンダーグラウンドって聞いて何を思い浮かべる?2ちゃん?スナッフビデオ?それとも……? 世の中には、その世界でしか生きていけない人、そこでしか本当の自分になれない人、そんな人種がいるんですよ。かくいう僕も、高校の半ばぐらいですかね?それに目覚めたクチでして。

2016-09-28 21:07:00
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

とは言っても元が真面目と言われた僕ですからねェ、過度のグロテスクにはどうも惹かれなかったものですが。 ……まァ、そんな僕が惹かれたのはフェティッシュの世界だったんです。 中でも強く惹かれたのは身体改造だったり、異性装、緊縛。 ドラァグクイーンに出会ったときの衝動は如何許りか。

2016-09-28 21:08:21
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

そんな僕が、このフェティシズムに沈む切っ掛けをくれた御仁。その人がまァ奇人も奇人なもので。お堅い職場に勤めた過去を持ちながら、SMにも精通する様な御仁でして。……SMやBM……身体改造に興味がある方なら「嗚呼、あの御仁か」とお思いでしょう。然し便宜上、Eさんと呼ばせて貰いますが。

2016-09-28 21:09:52
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

然して今日、僕に別世界を見せてくれる人……Aさんと申しましょうか。 彼はさる大家に師事し、今や一人前となって弟子を数人抱える身でございます。そんな彼は、僕にとって家族以外で信頼する数少ない方でしてね。そのお師匠様のGさんと言えば、もうそれは神様の様な存在。 ……神様といえば。

2016-09-28 21:11:04
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

神様と、いえば。ウチの次男にオザキと言う絶対的な神様がいる様に、僕にも絶対的な神様がいたんです。……その神様とは「神様が天に召された後」に出会ったんですがね。彼の存在が、もう一人の神様に出会い、果ては今日という日を迎える切っ掛けになったと言うんだから合縁奇縁とはよく言ったもので。

2016-09-28 21:11:41
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

( 暗転、耳に飛び込むは喧騒と狂乱に似た、熱気 )

2016-09-28 21:13:00
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

「イチ君、出来たよ……コレでどう?」 僕のインナートリップの終わりを告げたのは、黒いマスクの男性の声で。僕は瞳を開いて目の前の鏡を見てほくそ笑む。鏡に映る僕は、針とリボンと暗褐色の模様とで彩られていた。そのうちの暗褐色の模様はここに来てすぐ、男性の知り合いに施されたものだった。

2016-09-28 21:13:58
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

今の僕の装いは、蔦を絡ませた百合十字を左胸に、荊をモチーフにしたパターンを右の二の腕をめぐる様に描かれていて、鳩尾辺りからヘソの辺りまでをリボンで飾られている。そのリボンはといえば、注射針が幾つも僕の身体につけられていて、それにリボンを引っ掛けてコルセットの様に見せている状態だ。

2016-09-28 21:15:23
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

勿論、左胸も、右腕も。タトゥーではない。 タトゥーではないけれど、確かに肌を染めるそれは、ヘナで描かれた「メヘンディ」だ。普通ならば、インド辺りを思わせるパターンでもって描かれるものだけれど、今回は僕のたっての希望で、西洋タトゥーのモチーフを持ち込んでお願いしたものだ。

2016-09-28 21:18:11
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

そして、僕の額から目の下辺りを、注射針は幾つも存在して眠たげな顔を飾り立てている。……一見痛そうだが、実際痛みは然程ない。 声の主はAさんで、このプレイピアッシングの部分の完成を告げてくれたのだった。 これから起こる事を想定して、あえて前面にコレを施したのは彼の計らいだろう。

2016-09-28 21:19:10
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

——正確には、これから僕とAさんがやろうとしている事、だ。

2016-09-28 21:19:39
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

「いっちゃん、大丈夫だよ、痛いよりも楽しいが先に来るんだからさ」 Aさんと向かった先には、黒地に白で「吊られ屋」と書かれた愉快なTシャツを纏い、頭には金属製のトサカを生やしたM君が僕の緊張を解こうと笑っていた。軽口を叩く彼だが、笑っている彼の足元はそれとは違う様相を呈している。

2016-09-28 21:24:30
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

——ブランディング、わかりやすく言えば焼印。家畜に焼き鏝で焼き入れたりするアレを、アーティスティックにしたのがコレ。焼き鏝で肌に描かれていくそれは、ケロイドや火傷跡の色素沈着を以って完成するアート。 匂いだけ感じるなら焼肉のそれ、然して、実際焼かれているのはM君の皮膚なのだ。

2016-09-28 21:27:30
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

例えば少数の人間が閉じ込められた密室に於いて、これを目の前で見ればまさにグロテスク。然し、この場においてはエッセンスの一つになりうる。 ちょっと離れたところでは、血の匂いが立ち込め、そのあたりには人だかりができている。 あの場所で起こっているのは、メスを使った身体改造三種だ。

2016-09-28 21:29:15
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

例えばほら、あの、顔を蒼白にして振り向いた女の子がいるあたりはスプリットタン。——蛇の様に舌を裂く改造。その少し向こう、タトゥーマシンの音が響いてくるあたりはスカリフィケーション。——メスやタトゥーマシンで人工的に傷を作ったり、皮膚を軽く剥いだりしてケロイドを作り模様を作る改造。

2016-09-28 21:30:04
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

そして僕達のいるブランディングゾーンの向かいにあるのがインプラント。 ……ペニスに真珠をいれるなんて話があったと思うけれど。それを腕や頭に対して施す、つまりは皮膚にインプラントを入れて擬似的に瘤や角などを作る改造。 ついでに言えば、僕の周りの人達もこの改造を全員施されている。

2016-09-28 21:30:49
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

全員の手の甲に、それぞれ違いはあれど何かしらは埋め込まれているのだけど。M君や、彼の隣で笑っているS君は頭頂部の皮膚にアンカーを埋め込んで、擬似的な鉄の角を生やしているほどだったりする。S君に至ってはその他に側頭部や前頭部に半球ドームを埋め込んでいるのだからもはや絶句でしかない。

2016-09-28 21:32:04
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

——埋め込まれるだけだったインプラントに別の可能性が出てきたのは。マイクロダーマル・インプラントの出現が非常に大きいと僕は今でも思っている。 アンカーを肉体に埋め、完治と引き換えに今迄施術困難な部位の半永久的な安定を可能にした新しいピアッシングで、僕も一度は施術を考えていた程だ。

2016-09-28 21:34:53
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

僕はかつて、ハンドウェブかフィンガーの施術を考えた時期があった。フィンガーは文字通り指に、ハンドウェブはいわゆる水掻き部分に開けるモノだけど。開ける事を考えた時にいつもの日課を思い浮かべてやめた。喧嘩もさる事ながら、猫に触れるたびに手を洗う手間を考えては二の足を踏んだのが本音だ。

2016-09-28 21:36:13
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

それに、何をするにつけても手を洗う、だなんて。あの潔癖症のあいつみたいじゃないか。自分を埖だと自覚している僕にとって、そんなのはアイデンティティの消失でしかない。……とあの時は本気で思ったものだ。あれから数年経った今も、猫と戯れてそのまま眠る生活を送る僕には無理だと諦めてもいる。

2016-09-28 21:37:32
【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

「——っちゃん、いっちゃん」 過去へと意識を飛ばした僕を、M君が現実へと呼び覚ます。 「Aさんが、最後の仕上げをするっていうから」 その声に僕はまた、プレイピアッシングブースへと逆戻りをする。 Aさんはあの後何人かの予約を入れていたから終わった頃に、と言っていた事を思い出す。

2016-09-28 21:39:20