_ある寂れた僻地の村へ、一人の少年が旅に訪れた。その村の娘の一人であるクルミィはその少年を気づけば目で追っていた。大人は怪しい魔法使いだから近寄らないようにと言っていたが、クルミィは逆にそのミステリアスな姿に自然と惹かれていた。少年はいつもは村の外にいる。 1
2016-11-05 19:21:27_クルミィは雑貨屋の娘だった。店には日用品にまぎれ乾燥した薬草類や数々の鉱石、まじない品などが売られている。こういったがらくたは旅の冒険者や魔法使いが買っていくので意外と需要がある。クルミィは今日も薄暗い店内で商品を陳列しながら店番をしていた。まだ昼を回った時刻だ。 2
2016-11-05 19:27:16_ドアの鈴が鳴り、客が入ってくる。ちょうど狭い店内に誰もいないときのことだった。店は窓がひとつしか無く、埃っぽい店内に光が差していた。クルミィは陳列をやめて入口を見る。ドアはゆっくり開き、逆光の向こうに人影が見える。すっと店内に長い影が差しこんだ。 3
2016-11-05 19:32:27「いらっしゃ……あ」 _クルミィは息を飲んだ。例の少年だ。鉱石がちりばめられ、きらきら光るボロボロのマントを着ている。円筒形のとんがり帽子は目深に被られ彼の目線を隠していた。紋章の刺繍がされたスカーフ、蔦が編まれた靴。 4
2016-11-05 19:37:27_少年はクルミィを気にもせず店の商品を見て回ると、いつものように妖精の小瓶を手に取りクルミィに声をかけた。 「これください」 「は……はいっ! ありがとうございましゅ!」 噛んだクルミィに小瓶の中のシルフが笑う。 5
2016-11-05 19:42:43_顔を赤くしたクルミィは少年から代金をもらう。彼はいつもこの店で妖精の小瓶を買っていくのだ。クルミィはそのときをいつも心待ちにしていた。彼女は気付いていた。少年の足元に広がる影……その影がまるで夜空のように星が瞬いている。神秘的な少年への興味は次第に膨らんでいく。 6
2016-11-05 19:49:53_その夜空には黄色や赤や青の星がいくつも散らばり、見知らぬ星座を象っていた。それを興味深そうに見ているクルミィに少年は声をかける。 「影に……もしかして星が見えるのかい?」 クルミィは慌てて背筋を伸ばし、はいと答える。 7
2016-11-05 19:53:59「なぜ夜空が見えるのですか?いろんな星が見えるのです」 少年はくすりと笑って言った。 「それは君が恋されてるからだよ。誰かが君を狙っている。赤い星が見えるかい? きっといたずらなシルフが君に恋してるんだよ。シルフのことなら何でも分かるよ」 はっとしてクルミィは影を見る。 8
2016-11-05 19:58:38_すると、確かに赤い星がひとつちらついていた。 「シルフに狙われると大変だよ。みかんの皮をいれたお風呂に入って寝なさい」 そう言って少年は店を出ていってどこかへ行ってしまった。クルミィはじっとそれを見ていることしかできなかった。 9
2016-11-05 20:01:52【用語解説】 【妖精の小瓶】 シルフを閉じ込めた瓶。封を切るとシルフが解き放たれ、解いたものの命令を一つだけ聞く。封じられているシルフは人型を保てない低級シルフや、小人の姿をしているコモンシルフである。貴重なガラスを使用しているため空き瓶は回収している。大抵は生贄として消費される
2016-11-05 20:06:05