夜空の星【2016加筆修正版】◆2(終)

寂れた僻地の村に現れた魔法使いの少年。彼の影に、少女は星が瞬いているのを見つけた。過去作の加筆修正版です 全18ツイート予定。 最初↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_夜空の星【2016加筆修正版】◆2

2016-11-08 18:21:58
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_その晩、クルミィは言われた通りにみかんの皮を入れた風呂に入った。みかんのさわやかな香りに包まれる。シルフはみかんを嫌がると聞いたことがある。 (これもシルフ避けの呪いなのかなぁ)  そしていつものように眠りについた。湯上りでもみかんの香りは消えない。そして夢を見た。 10

2016-11-08 18:24:47
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_部屋の空気が渦を巻いて紫の靄になり、それが煙突からもくもくと外に流れていくのだ。シルフなのだろうか、泣きながらフワフワと夜空に消えていった。温かいミカンの香りが部屋に満たされ、身体が軽くなった感じがした。そしてガタガタと窓が鳴り、シルフの気配は消え失せてしまったのだ。 11

2016-11-08 18:29:07
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_翌日、クルミィは店に来た魔法使いの少年にそのことを報告した。少年は笑ってかわいそうなことだけどしょうがないねと言っていた。少年はいつものように店の品物を眺めたり手に取ったりしている。クルミィは少年の影を見る。そこには、まだたくさんの星が光っていた。 12

2016-11-08 18:35:21
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_赤い星はもうない。だが、青い星は変わらず瞬いているのだ。クルミィは首を傾げた。この青い星にはどういう意味があるのだろう? 思い切って少年に聞いてみる。少年は少し笑って言うのだった。 13

2016-11-08 18:41:55
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「青い星は君が僕に恋している印だよ」  それを聞いたクルミィは耳まで真っ赤にして思わず「ばかっ」と言って口をふさぐ。魔法使いに暴言を吐いてしまった! 14

2016-11-08 18:47:49
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_魔法使いの少年は悪戯っぽく笑う。 「ごめんごめん、冗談だよ……青い星は僕には違いないが……それは好奇心の炎さ」  そう言って少年は影を手繰り寄せる。青白い炎が導かれるように影から出てくる! 思わず息を止めて見つめるクルミィ。 15

2016-11-08 18:53:54
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「君は神秘を求めている。悪戯なシルフが君の心を狙うように、君は日常を壊した僕の神秘を狙っている。追いかけてみなよ、青い星をさ。ただ、僕は捕まらないよ。君の目が蜜柑のようにオレンジに輝くから、僕は……逃げるしかないんだ」 16

2016-11-08 19:00:33
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_青い炎が爆発したように燃え盛り、思わずクルミィは目を閉じる……目を開いた後には、少年はいなくなっていた。代金のコインに挟まれた小さなメモだけを残して。それ以来少年には会っていない。 17

2016-11-08 19:05:01
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_クルミィは寂しかったが、これでよかったとも思う。メモには星が瞬くような文字で……「退散、退散♪」とだけ書かれていたのだった。 18

2016-11-08 19:09:30
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_夜空の星【2016加筆修正版】(了)

2016-11-08 19:09:50
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【用語解説】 【柑橘類】 主に灰土地域南部の温かい場所で栽培される果物。シルフが嫌う匂いを出す。一方、灰土地域南部といえば気候が荒々しい場所であり、シルフの勢力も強い。そのため、南部ではシルフよけのために柑橘類で防護のまじないをすることが多い。

2016-11-08 19:15:15
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【次回予告】 帝都の地下には様々な廃棄された生き物が住む。今回はそんな生き物の一つ、石油スライムの話……。清掃局員の男が、不思議な出会いをします。 次回「石油の証人」 全30ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です

2016-11-08 19:30:32