ストレイトロード:ルート140(23周目)
- Rista_Bakeya
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今回の本編
子供の一人が空を指した。大きな翼を広げて私達の頭上を横切るのはこの山の近辺に多く生息する種類の怪物だ。「いつかあれの背中に乗りたいんだ」多くの大人は忌避する存在でも子供の目には憧れの一つとなるらしい。「わたしの友達にもそう言う人結構いた」藍自身もそうだったかと尋ねたが無視された。
2016-09-25 21:45:20私達が山を越えて来たと聞くと、集落の子供達は何故か周囲を気にしてから小さく手招きした。「今度あの山を探検するんだって」話を聞いてきた藍が後で教えてくれた。「悪い子は山の怪物に食べられるって言うから、どんな奴か見に行くって」親は戒めとして言ったとしても、彼らには逆効果だったようだ。
2016-09-26 19:35:28目的地からの復路ではよく思い出を拾う。以前悪天候と戦った山道の対向車線を走りながら、私は現在の空模様を慎重に窺い、藍は冷たい風を浴びていた。「わたしも成長したし。今ならこの雨を止められる気がする」自惚れを諭すように雨風が強まった。藍は車の窓を閉め、しばらく口をきこうとしなかった。
2016-09-27 19:12:31動物園は閑散としていた。鳥の餌やり体験があると聞いた藍は一人分だけ餌代を払い、大きな金網の中へ入っていった。すると餌付けされた無数の鳥達が一斉に藍の頭や肩に群がった。「待って、くすぐったい、痛い!そこ、何で見てるだけなの!」私を締め出したのは藍自身だ。金網越しでは助けようがない。
2016-09-28 19:44:21根元から折れたらしい大木を世話する人がいた。昔は毎年美しい花を咲かせ、村人に春の訪れを告げたという。「枯れたの?」藍の問いにその人は首を振った。「傷は負いましたが生き残りました。私達と同じです」切株の隙間から芽吹いた枝が、怪物襲来の爪痕に今なお苦しむ村に希望の訪れを予告していた。
2016-09-29 19:38:52歓迎の食事会の後、藍は村の子供達に連れられ外へ行った。残された私が食卓の片付けを手伝っていると、料理の担当らしい女性から声をかけられた。「お嬢様のお口に合いましたでしょうか」「気に入っていましたよ」「よかった!」その人が突然泣き出した。家族が偏食揃いで少しも褒めてくれないという。
2016-09-30 19:13:03「最低!」朝から宿の一角が騒がしい。寝間着のまま頭を抱える藍に聞けば、ベッドの脇に用意していたはずの着替えが見つからないと言う。私は捜索の手助けを申し出たが即答で断られた。「出て行って。一歩でも入ったら許さないから」扉の前で待ってみたが再び怒られた。私の気配さえ捜索の妨げらしい。
2016-10-01 21:42:50藍の両親は常に仲睦まじい。ある日の朝、出張に発つ夫は玄関先で妻に土産を約束し、妻は長い口づけの後に夫を見送った。それを見ていた藍が何か考え込んだかと思うと、急に私を見上げて尋ねた。「あなたの親もああいうことしてたの」「…忘れてしまいました」「つまんない大人」基準がよく分からない。
2016-10-02 19:53:09「来るな。穢れるから」施錠された扉の裏で少年は面会拒否を強調した。家族に対しても同じ態度らしい。「穢れって何よ、わけわかんない」私は憤る藍を宥め、中の様子を確認できないか尋ねた。藍は少し考え、隙間風に耳を傾けた。「…自分の体の傷に怯えてる」少年は怪物の牙の痕を消そうと必死らしい。
2016-10-03 19:38:45「今日の夕食はお客様も一緒だから、良い服装で来なさい」父親の言葉に藍は気持ちを込めない返事をした。着替えを名目に自室へ戻った彼女は、扉を閉める前に私を見上げ、首を竦めた。「どうせお仕事の人が媚を売りに来るのよ」会社の部下か取引先か。とにかく気に入らない光景を見たことがあるらしい。
2016-10-04 19:34:29廃墟がまた一つ吹き飛んだ。私達は走って逃げた。この街に車が入れる道は残っていない。「そこの看板の陰に隠れて」藍に従い逃げ込んだ後、怪物の尾が近くの地面を砕いた。破壊活動で増えた瓦礫が結果的に攻撃の妨げになることまで藍は予想していたのか。「まだ運は残ってるみたい」どうも違うようだ。
2016-10-05 18:58:32山の斜面に置かれた檻は大人の背丈の高さで、怪物対策の罠には見えなかった。製作者の男が仕掛けを藍に説明している。「ここを触ってみな」「ここね。動いた、えっ何これ」枯葉の下に隠された仕掛けが瞬く間に藍を閉じ込めた。「話が違う!」「子供は黙って見てろ」男は猟銃を担ぎ、一人山奥へ消えた。
2016-10-06 19:12:43