もしドラの著者「岩崎夏海さん」。編集者としての覚悟をまとめてみた。

初めて絵本の編集をして「もんだい」という本が出来た。その発売イベントのトークショーがあるのだけど、それに先立って絵本を作る考え方を岩崎さんが語った。
4
岩崎書店 @IWASAKISHOTEN

『鉄道員』や『負け犬の遠吠え』などの装画で知られるイラストレーター・井筒啓之さんの、初の絵本作品となる『もんだい』の刊行を記念し て、作者・井筒啓之さんと、編集を担当した『もしドラ』の作家にして岩崎書店社長である岩崎夏海によるトークショー(続く)

2016-11-25 09:51:50
井筒啓之 HiroyukiIzutsu @izu2

12月13日は岩崎夏海さんとトークショーもやります。 「井筒啓之さんの『もんだい』のもんだい?」 この一番上は最初のメモですね。なつかしい〜。 詳細はこちらまで aoyamabc.jp/culture/qsq/ pic.twitter.com/0vndMYix3T

2016-11-26 17:31:35
拡大
岩崎夏海 @huckleberry2008

12月13日に青山ブックセンターで本の出版イベントを行います。井筒啓之さん作『もんだい』という絵本です。ぼくが初めて編集した本でもあります。みなさまよろしければ見に来てください。aoyamabc.jp/culture/qsq/

2016-11-26 20:50:09
岩崎夏海 @huckleberry2008

今から連文を投稿します。しばし、失礼いたします。

2016-11-26 22:19:36
岩崎夏海 @huckleberry2008

1)私は2015年の夏くらいに絵本の編集者をすることになりました。 みなさん、絵本というとどういうイメージをお持ちでしょうか? おそらく、とても「良い」イメージをお持ちなのではないでしょうか。 あるいは、「絵本作家になりたい」という方も、けっして少なくないと思います。

2016-11-26 22:20:12
岩崎夏海 @huckleberry2008

2)あるとき、こんな話を聞きました。 「絵本の編集者をしていると、本当に多くの方が『私の作品を見てほしい』と言ってくる」 これは、編集者本人にはもちろん、その家族のところにまで来るそうです。 それほど、絵本作家(注:編集者ではありません)は憧れの職業なのです。

2016-11-26 22:20:34
岩崎夏海 @huckleberry2008

3)ただ、絵本というのはそういう華やかなイメージとは裏腹に、それほど売れるものではありません。初版はだいたい5000部くらいですが、多くの本がなかなか増刷されません。

2016-11-26 22:21:29
岩崎夏海 @huckleberry2008

4)そうなると、絵本で食べていくのはとても難しくなります。たとえば、定価1000円の本を1冊描けば、印税が10%だとして初版で50万円の収入となります。 ただ、絵本というのは読むのはあっという間でも作るのはとても時間がかかるので、1年だとどんなに頑張ったとしても2冊しか出せません

2016-11-26 22:22:08
岩崎夏海 @huckleberry2008

5)ということは、その2冊がともに増刷しないと、年間でたった100万円の収入にしかならないのです。これでは、とてもではないですが暮らしていけません。 そのため、今の絵本作家さんは専門でやれている人はとても少ないと聞きます。少子化も相まって、とても厳しい時代が続いているのです。

2016-11-26 22:22:31
岩崎夏海 @huckleberry2008

6)それでもなお絵本作家が人気なのは、もちろん子供に夢を与える素晴らしい仕事だからというのもあるでしょうが、もう一つ「ロングセラーが多い」ということがあります。20年前30年前に描かれた絵本が今でも人気ランキングの上位を占めています。

2016-11-26 22:22:49
岩崎夏海 @huckleberry2008

8)そんなふうに、絵本は一度人気になると長く読み継がれるのです。これも、絵本作家が憧れの職業である大きな理由の一つではないでしょうか。 ただ、そんなふうにロングセラーが売れるということは、逆に新しい作品がなかなか売れないということでもあります。

2016-11-26 22:23:26
岩崎夏海 @huckleberry2008

9)それもあって、今は絵本作家が生きにくい時代になっているのです。そんな時代に、私は絵本の編集をすることになりました。これは、絵本作家同様非常に厳しいことです。

2016-11-26 22:24:09
岩崎夏海 @huckleberry2008

10)編集者になった以上は、作家さんに安定して描いていただけるような環境を作る必要があります。また、もちろん私自身も食べていかなければならないので、まずは出した絵本を売れるようにしなければなりません。では、今の時代にどうすれば絵本が売れるようになるのか?

2016-11-26 22:24:40
岩崎夏海 @huckleberry2008

11)少子化、ロングセラーしか売れない、出版不況、子供の本離れなど、取り巻く状況にはとても厳しいものがあります。 そこで、私はこう考えました。 「これまでと同じやり方をしていてはダメだ」

2016-11-26 22:25:23
岩崎夏海 @huckleberry2008

12)絵本というのは、今、とても厳しい状況にある。 ということは、とりもなおさず「今の絵本の作り方」に、何らかの問題があるのではないだろうか?

2016-11-26 22:25:50
岩崎夏海 @huckleberry2008

13)少子化、ロングセラーしか売れない、出版不況、子供の本離れなど外的要因もなくはないが、それ以上に大きいのは、「面白い絵本が提供できない」という内的要因ではないだろうか? むしろ、そっちの方が本質的な問題ではないだろうか?

2016-11-26 22:26:09
岩崎夏海 @huckleberry2008

14)そう考えた私は、まずは今の絵本を取り巻く状況というのを調べてみました。そして、そのやり方と反対のやり方で絵本を作ろうと考えたのです。 そうしたところ、一つのユニークな事象に気づきました。それは、絵本の世界では必ずしも絵の「技術的な上手さ」が重視されていないということです。

2016-11-26 22:26:37
岩崎夏海 @huckleberry2008

15)それよりも、個性的であったり、勢いの良さであったり、気持ちの優しさが伝わることだったりが好まれています。 そこに、私は目をつけました。そして、こう考えたのです。 「技術的に上手い絵の絵本があってもいいのではないだろうか」

2016-11-26 22:27:09
岩崎夏海 @huckleberry2008

16)個性的であったり、勢いの良さであったり、気持ちの優しさが伝わったりする絵本は、えてして技術的にそれほど上手くなかったりします。ですので、技術的に上手い絵の絵本というのは、意外に少ないのです。

2016-11-26 22:27:30
岩崎夏海 @huckleberry2008

17)そこで私は、日本を代表するような絵の上手い人に絵本を描いてもらおう、と考えました。そうすれば、これまでとは違ったやり方で絵本を作れるのではないか——そう思ったのです。そこで、私と私の相棒のスドウは、日本を代表するような絵の上手い人を探し始めました。

2016-11-26 22:27:54
岩崎夏海 @huckleberry2008

18)そうしたところ、すぐに見つかりました。 それは、イラストレーターの井筒啓之さんです。 井筒さんは、現在TIS(東京イラストレーターズ・ソサエティ)という団体の理事長を務めてらっしゃる、イラストレーターの第一人者です。

2016-11-26 22:28:17
岩崎夏海 @huckleberry2008

19)書籍の表紙や新聞小説の挿絵など、数多くのお仕事を手がけられている売れっ子でもあります。文字通り、日本で一番絵が上手い方のお一人です。 しかしながら、そういう方に絵本の執筆を依頼するというのは、ある意味暴挙ともいえます。

2016-11-26 22:28:43
岩崎夏海 @huckleberry2008

20)なぜなら、万が一にでも本が売れなかったら、本当に少ない額の報酬しかお支払いできないからです。井筒さんは、一冊の絵本を描くだけの時間と労力とがあれば、もっと金額の高い仕事を他にいくらでも引き受けることができます。

2016-11-26 22:29:04
岩崎夏海 @huckleberry2008

21)ですから、私と私の相棒のスドウは、初めは「引き受けてもらえるはずがない」という、半ばやけっぱちな気持ちで依頼をしてみました。そうしたところ、思いもかけずお引き受けいただいたのです。

2016-11-26 22:29:29
岩崎夏海 @huckleberry2008

22)さて、しかしそれからが逆に私とスドウにとっては大変でした。 井筒さんに膨大な時間と労力とを割いていただくのですから、生半可なことはできません。少なくとも、井筒さんがイラストをお描きになった場合と同等の報酬が得られるまで、何としても本を売らなければならない責任が生じたのです。

2016-11-26 22:30:37