津原泰水さんの「『この世界の片隅に』で省略されていることについて語らない人々」

広島市生まれで「ブラバン」「バレエ・メカニック」「五色の舟」などの作品で知られる作家の津原泰水さんによる、「この世界の片隅に」で省略されている部分について語らずに評価する人々への批判。
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津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

『この世界の片隅に』が情報量情報量と騒がれているのを、曼荼羅めいた構造に気付かなかった俺は馬鹿、との心地好い劣等感交じりに眺めてきた。「細部にいちいち資料の裏付けがある」という意味らしいと分かってきて、落胆した。そういう観方をしてしまったら想像力で埋められた部分は悉く瑕疵となる。

2016-12-08 07:19:56
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

この人は何を云っているのだ? 焦土に身内と似た背恰好を見掛け、あの黒焦げは別人だった、こっちに生きていた、と希望をいだくのが「失認」? 諦めなかった人たちだけが再会を果たし、それでも残り時間は僅かな事が多かった地獄で。何にでも手持ちのレッテルを貼り付ければいいってもんじゃない。 twitter.com/pentaxxx/statu…

2016-12-08 14:01:58
斎藤環「自傷的自己愛」の精神分析 (角川新書) @pentaxxx

あまり指摘がないけれど「この世界の片隅に」は「失認」の映画だ。すずさんは周作さんの顔を忘れてしまうかもしれない。周作さんはほくろがないとすずさんが見つけられない。刈谷さんは息子の姿がわからない。被爆後の広島ではそこらじゅうで人間違いが起こる。

2016-12-05 18:06:09
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

映画『この世界の片隅に』の当事者も周囲も調査だ検証だと騒ぐものだから、愈々「原爆はあんなもん」と勘違いする人達が現れた。するとこちらは「あんな綺麗な投下直後があるか」という立場をとらざるを得ない。これが厭だった。如何に場面が資料通りでも、恣意的に繋ぎ合わせればフィクションなのだ。

2016-12-08 14:26:27
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

はっきり書くが斉藤氏の論は、アニメ映画のデフォルメを鵜呑みにしていないと出て来ないものだ。まともな遺体も残らぬ状態や、皮膚の潰瘍、糜爛、火膨れ、裂傷、更には煤による汚れ等で正体不明と化した人体の物理的な判別困難が、その結果へのロングショットで代替されていた事に気付いておられない。

2016-12-08 15:43:36
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

『この世界の片隅に』に対し僕が懸念した事態が既に起きていたのを実感する。知識層の絶賛を後押ししていたのは「もう厭なものを見なくて済む」「今後は我田引水に原爆を語れる」という安堵感じゃないのか? 被爆者たちの下手糞な絵を見るがいい。 a-bombdb.pcf.city.hiroshima.jp/pdbj/search/co…

2016-12-08 18:12:44
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

体験者の絵を少しでも見てくださった方々には通じるだろう。故郷がああなってしまったのに対岸の火事の気分でいる主人公も、掘ればざくざく死体が出てくる土地に早速移ろうとするその夫も、おかしいのだ。被爆者やその身内は「忘れられるよりはまし」と片目を瞑って黙っているだけだ。

2016-12-08 18:31:18
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

木下蓮三と妻が制作した短篇アニメ『ピカドン』(1978年/僕は14歳)がYouTubeにあったのでリンクしておくが、広島長崎出身者以外は超閲覧注意。『この世界の片隅に』ではお茶の間向け幻想場面だった部分。とにかく自己責任で観ること。 youtube.com/watch?v=eEOZ1s…

2016-12-08 21:22:48
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津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

ある齢以上の被爆地出身者にとって『ピカドン』の表現は過激ではなく、完成の報と共に繰り返しテレビで流された際の世評も「詩的」「穏やか」といったものだった。それがYouTubeの片隅に追いやられ、人気映画が何を省略しているのか高名な評論家にすら分からない時代なら、もはや併映を望む。

2016-12-08 22:39:03
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

木下蓮三は懐かしい「ゲバゲバおじさん」の制作者だ。原爆投下をアニメ化する初の試み『ピカドン』は広島市民に受け容れられ、彼の奔走により七年後、広島国際アニメーションフェスティバルが実現する。広島を「気持ち悪い土地」ではなく世界に冠たる「アニメの聖地」にすると決したのは木下である。

2016-12-09 09:55:46
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

こちらに広島国際アニメーションフェスティバル実現までの歩みが、木下蓮三の日記と共に紹介されている。長いので初回のみをリンクする。アニメ『この世界の片隅に』を語るにあたり視界から外しようがない筈の『ピカドン』に触れた評は、未だ見ない。 hac-komori.seesaa.net/article/154637…

2016-12-09 10:10:01
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

『この世界の片隅に』が物足りない映画だと云う気など毛の先程もない。遡っていただければ分かるがヒロシマ作家の名において高評し動員を促している。云いたいのは、評論で銭稼ぎしている大人が「マンガの嘘」を鵜呑みにするなボケ、だ。しかも今後の『ピカドン』への知ったかぶりには目を瞑ってやる。

2016-12-09 10:32:50
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

アニメ『ピカドン』に建物が爆風とは逆方向に倒れる描写、また女性が初め正面から、続いて後方から強風を浴びる描写があります。爆発が気圧の急低下を招いた事による吹き戻しです。原爆によって引き起こされる暴風は、地形や建物による乱れも加わり複雑で、複数の竜巻が生じたとも云われます。

2016-12-10 20:39:38
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

『ピカドン』の主人公とも呼べる幼児の髑髏は、中性子による即死にガンマ線による皮膚消失が重なった状態と考えられます。爆心地数百メートル内の人の多くが「消え」ました。人による熱線の「日陰」は瞬間温度に周囲と差が生じるため、まさしく影だけが残った人も多く、登場する橋上の人々はそれです。

2016-12-10 20:52:15
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

中性子やガンマ線による即死、熱線や火災による焼死の他、衝撃波による圧死が大量に生じます。爆心から1キロ以上離れた硝子以外は無事だった鉄筋建造物内部でも、大量死が起きました。数トン圧の衝撃波が屋内に躍り込んできたのです。高濃度放射性物資が広範囲に降り注いだ黒い雨被害は、また別です。

2016-12-10 21:03:44
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

『君の名は。』如きで感動してる奴、『この世界の片隅に』観たらそんな事は云えなくなる、といった後者への声援を複数読んできたが、すると次は『ピカドン』を観たなら⋯⋯になる訳で、そんなカードゲームみたいな鑑賞姿勢は好みではないな。そこに真実が在るなんて思わず、気分で娯しみ分ければいい。

2016-12-10 21:41:55
usi4444 @usi4444

.@tsuharayasumi @tmfm21 広島に行きたくても行けないのは、晴美を死なせてしまい右手を失って家事労働が十分に出来ない負い目があるからでは?子供も出来ないすずはあの家で肩身が狭いはずなんだけど、この作品はそれをストレートには描きませんよね。

2016-12-10 18:51:32
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

@usi4444 @tmfm21 そこが既に作品の雰囲気の与える誤解かと思うのです。嫁入りまで市街中心で過ごしていたなら、すずの知人の少なくとも半分は死に、作品序盤の舞台も概ね焼失しています。行ってお手伝いをするといった常識的状況ではありません。被害範囲をお調べくださいますよう。

2016-12-10 19:11:00
usi4444 @usi4444

.@tsuharayasumi @tmfm21 ウィキペディアでは江波の大半は焼失から逃れたとあったのですがそうなのですか。 兄が戦死、両親が原爆で死亡、妹も原爆症の症状とすずの実家は悲惨の状況なのに、ネットの感想の多くが「三丁目の夕日」戦中版かのような評価なのに疑問を感じます。

2016-12-10 21:24:27
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

@tsurugi701 @usi4444 どういう距離感でお話しなのか不明なのですが、江波限定でのお話だとすれば、徒歩で行き来できる生活圏が焼け野原、自宅の周りは避難民とその死体の山です。すずの親類が住んでいる草津の側もそうです。

2016-12-10 22:09:20
usi4444 @usi4444

.@tsuharayasumi @tsurugi701 すいません。爆心から少し距離のある場所がどういう状況だったのかは今まで知る機会がありませんでした。当時における広島と呉の心理的距離感も関西からでは判りません。この映画ではかなりの距離感があると感じました。

2016-12-10 22:30:11
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

@usi4444 @tsurugi701 呉の様子は逆に僕は分からないのです。江波というのは広くはないエリアで、大雑把に「家が残ったほう」の被災地という事になります。自力避難とトラック搬送で人口が膨れ上がっている筈です。物語からカットされているという話で、批判ではありません。

2016-12-10 22:43:23
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

@usi4444 @tsurugi701 灼熱に耐えかねて、あるいは飲み水を求めて川に入り、そのまま亡くなって川面を埋め尽くしていた爆心地の人々が、大量に江波へと流れている筈なんですが、もはや海に流出していくのを見送るしかなかったんでしょう。まあ、そういう距離感です。

2016-12-10 22:48:28
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

@usi4444 @tsurugi701 取り急ぎ探したもので、むろん巧くはないのですが、自力で江波へと逃げ、その後原爆症に苦しむも一命を取り留めた人による、土手から振り返ると火の海だった、という絵と証言です。 a-bombdb.pcf.city.hiroshima.jp/pdbj/detail/27…

2016-12-10 23:06:42
usi4444 @usi4444

@tsuharayasumi @tsurugi701 ありがとうございます。原爆の絵はいつ見てもつらいです。

2016-12-10 23:11:36
津原泰水(やすみ) @tsuharayasumi

@usi4444 @tsurugi701 つらいですね。江波の陸軍射撃場が火葬場になっていたという資料も見つけたのですが、つらくてリンクできませんでした。僕のほうも勉強になりました。感謝します。

2016-12-10 23:13:34