#ダークエルフ王国見聞録 番外編

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ある年の初夏、以前の王都への旅路で知り合った竜騎士から、飛竜の卵を採りに行くのでついてこないかという誘いを受け、私と女戦士のセラは天領の境にあるダークエルフの城郭へと向かった。飛竜の背にのって二日ほどかかる遠い山々の一つに飛竜の巣山があるというのである #ダークエルフ王国見聞録

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我々を含めた計６人の一行は二頭の飛竜に乗って飛竜の巣山へと向かう。飛竜を駆る竜騎士が言うには、時々新しい血を飼育している飛竜に入れる必要があり、野生の飛竜の卵を採って雛から育てるのだと言う。大人の竜を馴らすより飛竜の子を一から育てた方がよいのだそうだ #ダークエルフ王国見聞録

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さて、目的地に到着し、飛竜が岩山の麓に降りると山の頂に何組かの飛竜のつがいが巣を作っている。巣には通常２~３個の卵があり、そのうち一つだけを取るのが飛竜の卵採りの作法であるらしい。二人の竜騎士を先頭に我々は岩山を昇っていく。巣を守る母竜の鳴き声が聞こえる #ダークエルフ王国見聞録

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飛竜の巣に近づいていくと、意外な先客が山に登っていた。オークの子らである。以前に、月見鬼茸を里の薬師と採りに行った際に見かけた、魔導師のロープを着た触手使いと炎の魔法使い、しなやかで美しい白い肌のオーク以外に、やはり魔導師の格好をした見知らぬ二人も居る #ダークエルフ王国見聞録

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隣のセラは長刀の束に手をかけ、随行の兵士も弓に矢をつがえたり魔導の杖を握ったりしているが、竜騎士は彼らを制止する。飛竜の巣山で騒ぎを起こして気付かれれば、親竜達の襲撃は避けられない。我々はとりあえず、岩山に転がる巨石に隠れ、彼らの挙動を見守ることとした #ダークエルフ王国見聞録

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「飛竜、ブン殴ッテ倒ス！ソシテ捕マエル！コレデ俺モ竜使イ、カッコイイ！！」 拳に何らかの呪法を描いた布を巻いたオークの子が興奮して息巻いている。その一方で、周囲の個体はあまり芳しくない反応で生返事をしている。嫌々付いてきたという感じすらする #ダークエルフ王国見聞録

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「・・・ココ、岩ダラケ。俺ノごーれむ使エナイ。最初カラ調ベロ」 「ぜまハバカ」 「せまハ頭悪イ」 「お前ら、自分たちの師匠に何も言ってきてないだろ。いいのか、勝手なことをして。俺は知らんぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

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他のオークの子達の言葉は独特の発音でやや聞き取りにくいが、白い体のオークの言葉は何処かエルフやダークエルフ達の言葉と似通った洗練さを感じさせる。彼は大きな斧を気だるげに弄んでいた。その一方で、拳闘士めいたオークの少年は更に興奮してきたようである #ダークエルフ王国見聞録

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ゼマという名前のオークの子が飛竜の、しかも親個体を倒しに向かい、一緒の子らはそれを後方から援護するということに決まったようだ。その決定に至るまで、内輪の殴り合いと口論があり、手持無沙汰なダークエルフの兵達が湯を沸かして茶を淹れるまでの時間を要した #ダークエルフ王国見聞録

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目を怒らせ、歯を食いしばったオークの少年が何やら奇声を発しながら巣を守る母竜へと向かって突進していく。如何なる呪法によるものか、その拳には赤黒い炎が宿り、灼熱の拳を形成していた。彼の猛る気概の一方、後方のオーク達は退屈そうな表情で彼の突進を眺めている #ダークエルフ王国見聞録

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「あー、炎熱を拳に宿す呪法は凄いですけど、飛竜に正面から殴りかかるなんて馬鹿ですねぇー」 隣で茶碗に居れた熱いハーブの茶を啜りながら竜騎士はこぼす。 「竜の鱗は炎の熱なんて通しませんからねー。それにほら、タイミングが最悪ですよ」 #ダークエルフ王国見聞録

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彼女が指差す上空を仰ぐと、巣に向かって飛竜が一匹舞い降りてくる。おそらく巣を守る母竜のつがいである父親の竜であろう。鋭い威嚇の鳴き声を上げると共に、母竜に突進をかけていたゼマなるオークに口の毒牙から、毒の霧を上空より空に浴びせかける #ダークエルフ王国見聞録

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勢いを毒で削がれ、岩肌でもんどり打って七転八倒するオークの子を見て、それを見待っていた残りのオーク達も、友情からか、はたまた次は自分という緊張感からか、杖や斧を構える。一人の周囲には魔術の炎が幾重にも宙に浮かび、一人の周囲には奇妙な触手生物が湧き出る #ダークエルフ王国見聞録

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一番落ち着いていたようにみえる白肌のオークの少年は、目をぎらぎらとさせて二振りの斧を構えて飛び交う父竜に飛び向かう。もう一人のオークは、岩肌の合間にある泥と岩のかけらを寄せ集め、魔術で動く泥人形を形作って悶絶している相方の下へと向かわせる #ダークエルフ王国見聞録

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いずれも驚くべき、特にオークとしては考えられない魔導ではあるが、連携という面ではお粗末なものであり、触手生物が泥人形に巻き込まれたり、或いは竜に向かって飛ばされる魔術の炎が白いオークや泥人形にも向かったりで、混沌とした様相を呈している #ダークエルフ王国見聞録

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「あー、もう、滅茶苦茶ですねー。我々竜騎士にとって神聖な卵採りなのに・・・。」 そうぼやきながら竜騎士はもう一人の竜騎士に合図を送り、二人で首から下げている笛を奏でる。そうすると、麓で待機していた彼女らの騎乗する飛竜が飛翔して彼女らの上空に参じる #ダークエルフ王国見聞録

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新たな外敵の登場に、つがいの竜は怯み、オークの子らの相手で手いっぱいの父竜を省みて母の飛竜は二匹の飛竜に立ち向かい、空中で威嚇の鳴き声と後肢での蹴り合いを演じ始める。ダークエルフの兵達も、セラも獲物を手にしてオークの子らを追い散らしにかかる #ダークエルフ王国見聞録

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「アッ、イツカノだーくえるふ！殺ス！違ウ、犯シテ殺ス！」 「薬使ウチッコイ奴ハイナイ！弱ソウナ人間ハイル！」 「おい、待て。このダークエルは強いぞ。俺が相手をする」 「ほーう、お前らごときが私の相手を？舐められたものだ」 セラの瞳もまた妖しく輝き出す #ダークエルフ王国見聞録

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一騎打ちをするセラと白いオークの少年、ダークエルフの兵達の繰り出す魔導と弓矢、オークの魔導師たちの触手や魔術、羽ばたく飛竜の風や毒息が交じり合う中、岩肌に一人隠れていた私は、いつの間にか居なくなっていた竜騎士が巣から駆け戻ってくることに気が付く #ダークエルフ王国見聞録

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「いやー、段取りとは全然違って、見物の学士殿には悪いんですけど、ほらこの通り飛竜の卵も手に入りましたし、退散しましょうか」 薄く青い色の殻に包まれた大人でも一抱えある卵を大切そうに抱きながらダークエルフの竜騎士は告げる #ダークエルフ王国見聞録

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彼女が再び笛を吹いて合図を送ると、母竜と上空で争いながら複雑な軌道を描いて飛んでいた飛竜は地表へと降下し、オークの少年達にあるいは毒の霧を浴びせかけ、或いは長い尾を叩きつける。随行の魔導師と弓兵もこの機会を利用して致命的な攻撃を敵に向かって浴びせ始める #ダークエルフ王国見聞録

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上方の飛竜に後方のダークエルフと、さすがに状況の不利を悟ったのか、白肌のオークがセラに向かって毒付きながら、興奮状態にあるオークの子らの首根っこを掴んで引き下げ始める。地に溶け落ちた泥人形が抱えていた拳闘オークは泥人形使いのオークが乱暴に引き摺って行く #ダークエルフ王国見聞録

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我々もまた、怒りに燃える父竜と母竜の襲撃を避けながらほうほうの呈で飛竜の巣山を駆け下った。再び会うことはないだろうと思っていたオークの魔導師たる少年達であったが、その頭数が増えていたのは驚愕であった。彼らとの奇妙な再会をここに記す #ダークエルフ王国見聞録

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番外短編、おしまい～