アセイルド・ドージョー #7
◆サツバツナイトは睨み返した。二人のリアルニンジャの凝視がぶつかり合い、破壊のビジョンがニューロンに閃いた。それはむごたらしい景色だった。どちらかが死ぬまでこのイクサを続ければ、このボロブドゥールの城のみならず、塀の向こう、川向こうのヨグヤカルタすらも戦場となろう。◆
2016-12-17 22:05:46◆「……マダ、ヤルカ」巨大なムカデが問うた。サツバツナイトは深く息を吸った。橙の火が鎮まり、赤い瞳が古代の怪物を見据えた。彼は首を振った。「オヌシはどうだ、ムカデ・ニンジャ=サン」怪物は顎を軋らせ、不快げに呟いた。「モハヤ……ドウデモヨイ……ツマラヌ……ドコナリト……ユケ」◆
2016-12-17 22:07:24「ドラゴン・ニンジャ=サンを呪ったのはオヌシだ」サツバツナイトは言った。「呪いを解け」「SHHHH。クダラヌ」ムカデ・ニンジャは息を吐いた。「理由ガ……ナイ……」「ならばイクサを続けねばならんぞ」「コワッパ。チョウシ……ニ……ノルナ」「SHHHH……」剣呑な沈黙だった。 1
2016-12-17 22:16:38サツバツナイトは譲らず、目を逸らしもしなかった。やがてムカデ・ニンジャは言った。「メンポ……ヲ……ツカウガイイ」サツバツナイトは手の中のメンポ・オブ・ドミネイションを見た。「クダラヌ……タノミノ……タメニ……ドラゴン・ドージョーマデ……イクノハ……メンドウデ……カナワヌ」 2
2016-12-17 22:19:49「この期に及んで謀るようであれば、再び戻って来る」サツバツナイトは言った。ムカデ・ニンジャは睨み返した。「チョウシニ……ノルナ。ナンノ……オドシ……ニモ……ナラヌ」この怪物がサツバツナイトよりも強大な存在である事に疑いはない。だがその怪物は今、心底辟易しているようだった。 3
2016-12-17 22:23:50「……」サツバツナイトはムカデ・ニンジャと睨み合ったまま、己のメンポを外し、メンポ・オブ・ドミネイションを装束で拭うと、おもむろに装着した。「スウーッ……ハアーッ……」彼自身、畏怖を覚えるほどの強烈な血中カラテの流れを覚えた。世界と繋がる奇怪な感覚が訪れ、目から出血が始まる。4
2016-12-17 22:27:45メンポで増幅したチャドーの力が呪いを洗う。キンチャクに収められたムカデニンジャ・クランの三部位が己の身体の一部めいて感じられた。ムカデ・ニンジャは彼らのソウルをアンテナめいて経由し、サツバツナイトを呪った。故にこの三部位にムカデ・ニンジャのアイデンティティが残っているのだろう。5
2016-12-17 22:31:37「スウーッ……ハアーッ」サツバツナイトはチャドーを深めた。身体に刻まれたムカデの痣が蠢き、溶け、瘴気と化して、その背から立ち昇った。瘴気はムカデ・ニンジャの体内へ吸い込まれていった。「嘘はないようだな」サツバツナイトは言った。ムカデ・ニンジャはもはや無言。闇の中へ後退を始めた。6
2016-12-17 22:36:13サツバツナイトももはや追わず、一歩後退した。ムカデ・ニンジャは城の闇に消えた。恐るべき古代のニンジャは広間に横たわり、しばし、イクサで傷ついた身体を癒す事につとめるだろう。そののち再びボロブドゥールの王として君臨するだろう。市民は恐怖によって統治されるだろう。これからも。 7
2016-12-17 22:39:08ムカデ・ニンジャの支配がいつまで続くか。それは強固か。あるいは、脆いのか。ゲリラ活動を行う市民の運命は彼ら自身に委ねられている。サツバツナイトは踵を返した。まずはドラゴン・ニンジャの……ユカノの呪いを解く。そして。 8
2016-12-17 22:42:37「成る程。呪いによる石化」僧服姿の中年ボンズは、神妙な顔つきのタイセンと、精緻な彫像めいたユカノを交互に見た。その後ろでは山頂まで案内してきた現地民の男が所在なさげに見守っている。ボンズは眉間に皺寄せ、厳かに頷く。「フーッ。これは非常に強力な呪いだ。ですが、やってみましょう」10
2016-12-17 22:49:51「頼みます」「フーッ……」中年ボンズは琥珀色の数珠を取り出し、ジャラジャラと鳴らした。108のボンノを象徴する108の石を繋いだ聖なるブッダ・タリスマンである。ボンズはチャントを唱える。「イーヤアイ!イーヤアイ!イーヤアイ!」額に脂汗が浮き上がり、数珠を振る手は狂おしく……。11
2016-12-17 22:54:26「センセイ……!」タイセンは目を閉じ、ひたむきに祈った。もはや彼自身の手では打つ手なし……!「イーヤアイ!イーヤアイ!」ボンズの頭に血管が浮き上がり、声はなお大きく。「アアッ!こ、これは強大な……アバーッ!?」ボンズが痙攣し、白目を剥いた。そして口からムカデを吐いた。コワイ!12
2016-12-17 22:56:52「アババババーッ!」「ああッ……!」タイセンは駆け寄り、ボンズを支えた。ボンズはひとしきり苦悶したのち、動かなくなった。「ダメか……!」タイセンは目に涙を浮かべ、悔しげにかぶりを振った。「アイエエエーッ!」現地民が失禁し、脱兎のごとく駆け去った。 13
2016-12-17 22:58:58走り去る現地民とすれ違うように、一人の影がドラゴン・ドージョーにエントリーした。タイセンはその姿を見、息を呑んだ。「ア……フ…フジキド=サン!?」「ドーモ。タイセン=サン」旅姿のフジキドはアイサツした。「これは……そうか」フジキドはその場で起こった出来事を把握し、目を伏せた。14
2016-12-17 23:05:39ニュービーニンジャ達が駆け寄り、中年ボンズを抱えて行った。タイセンは呻いた。「スミマセン。俺が無能なせいで」「否」フジキドは首を振り、這い逃げようとするムカデを注意深く踏み殺すと、石化したユカノに向き直った。彼は懐から干からびた三部位を取り出し、ユカノの足元三方に配置した。 15
2016-12-17 23:09:23固唾をのんでタイセンが見守るなか、フジキドは粛々と準備を進めた。彼はメンポ・オブ・ドミネイションを手にした。「それは……?まさか!」タイセンが驚愕した。「神器!で、では、奪われたものを……あの者らから!?」「まだこれだけだ」フジキドは言った。「だが、まずユカノを解呪する」 16
2016-12-17 23:13:57それはムカデ・ニンジャの言葉と己の経験、ウィッチドクターの助言に基づくプロトコルだった。フジキドはメンポ・オブ・ドミネイションをユカノの顔に注意深く当てた。「ユカノは生きている」フジキドは言った。「呼吸を……チャドーをしているのだ」 17
2016-12-17 23:17:04空がにわかにかき曇り、ドロドロという雷鳴が遠く聞こえてきた。「スウーッ……ハアーッ……」フジキドはユカノにメンポ・オブ・ドミネイションを当てたままチャドーを深めた。タイセンは耳を澄ました。やがて、確かに聞いた。フジキドのチャドー呼吸に重なる息吹を。(スウーッ……ハアーッ……)18
2016-12-17 23:20:00「スウーッ……」(スウーッ……)「ハアーッ……」(ハアーッ……)共振めいて、サツバツナイトと石のユカノはチャドー呼吸を響かせた。「スウーッ……ハアーッ……」タイセンも思わず続いた。「スウーッ……ハアーッ……」「スウーッ……ハアーッ!」石のユカノが震動し、遠雷が轟いた! 19
2016-12-17 23:23:11「嗚呼!」タイセンが感嘆の呻きをもらした。ユカノの身体に力の波が走った。「スウーッ!ハアーッ!」今や、ユカノのチャドーは力強かった。超自然の苦しげな呻き声とともに、ユカノの背からムカデ状の瘴気が身をもたげ、気化して散っていった。そこには……ゴウランガ……生身のユカノがいた。20
2016-12-17 23:27:55