秘密結社ゼディススピンオフ的なもの「オタマVSウェザレフ」その1
ファルクリースの針葉樹林の中を二人の女が歩いていた。前を歩く女はどこにでもいる普通の町人に見える。そして後ろのもう一人は小柄な身体に一目で魔術師と分かる特徴的な服と帽子。魔術師女は不気味にニコニコと笑っておりその一方で前の女の表情は硬い
2016-12-20 02:11:41「さて、モニカさん。もうそろそろ着くのかな?」魔術師女、オタマは前を先導する女性、モニカに言った。「…もう少しです」モニカは重い口調で答えた。このオタマという女は化け物だ。少しでも彼女に嘘を言えばたちまち見破られ、そして惨たらしく拷問され、殺されるだろう
2016-12-20 02:13:53オタマはあの時、ウェザレフに成す術も無く逃げられてしまった。こんな経験は初めてであった。彼女のマジカは異常だった。あの1キロの距離を全力以上、つまりオタマは走った後の周囲の木を大きく揺らすほどのスピードで走り彼女に向かったにも関わらず、間に合わなかったのだ。
2016-12-20 02:18:32そしてオタマが見た凄まじいマジカを纏った黒い少女、ウェザレフに会った。この時点で手遅れであった。オタマが渾身のマジカを放つには時間が足らず、ウェザレフはオタマに勝ち誇った表情を浮かべ、巨大な爆発と共に吹き飛んでいった。
2016-12-20 02:21:32オタマは確かに見ていた。ウェズが張るシールドとそれを動かす無数のマジカの手を。しかしオタマのマジカ色の瞳にもっとも強く焼きついたのはウェザレフのあの表情だ。あきらかに彼女はオタマを挑発していた。挑発、そう挑発だ!
2016-12-20 02:25:16オタマは過去、自分を侮る相手に様々な罰を与えてきた。魔法を放つ前にそいつの手を抉り、耳鼻を削ぎ、そいつの目に自分の魔法を死ぬほど焼きつかせて殺したりもした。だが今回はそこまでの事をするつもりは無い。エイリアスがウェザレフを欲しがってるからだ
2016-12-20 02:29:26そしてオタマはウェザレフ、セリンの手がかりを探すべく、色々な人に片っ端からあの男と女について質問した。質問といっても一言「セリンかウェザレフっての知ってる?」と言うだけだ。これで十分だ。この名前を聞いた瞬間の人の表情の些細な変化とマジカの動きで十分分かる
2016-12-20 02:33:26そしてオタマはモニカを捕まえた。モニカはオタマの身体から放たれるゾッとするほどのマジカ線を浴びせられながらオタマにセリンの居る場所について尋ねられた。モニカは正直にセリンの本拠地。ゼディスについて答える事を決めた。その判断は実際正しかったと言えよう
2016-12-20 02:36:23もしもモニカが質問をはぐらかしたり、嘘の場所を言ったら、オタマはその瞬間彼女の表情、マジカからそれを見抜く。その先は拷問だ。そして最後は殺害し晒し者とし、また別の間諜を探す。被害は拡大していただろう。
2016-12-20 02:38:13「ここです」モニカが案内した先には古代アイレイド製の転移門があった。 「ほほう、案内ありがとね。もう帰っていいよ」オタマは手をしっしっと動かしながら転移門を調べ始めた。「ふむ、作りは古代アイレイドの物ね。そしてこの転移結界、なるほど、不可逆的空間転移技術を復活させたか」
2016-12-20 02:41:08「ふむむむ、中々複雑なコードを使ってるわね。これを破るのは厳しいなぁ。一回入ったら簡単には帰れないかな。まあいいわ。細かい事は後に考えるか」そう言いオタマは転移門へと足を踏み入れた
2016-12-20 02:44:29オタマが見たのは広大で、そして美しいアイレイド建築の建物。周囲に生える美麗な木々。まるで楽園のような空間だ。だがオタマは全く動じない「ほほう、随分と凝った作りじゃないの。ウチのサークルもあんなボロ砦じゃなくてこれぐらいしっかりした物ならねぇ」
2016-12-20 02:47:28そう独り言を漏らすオタマの前に守衛の女性がタタタと駆け寄ってきた。「そこのあんた!そこで止まりぃ!あんたここがどこかわかっとるんか?その後ろにあるけったいな杖下ろして、大人しく投降しいや!」 「ん?ああ、そりゃ守衛もいるよねぇ」オタマは守衛の事など全く気にせず呟いた
2016-12-20 02:52:19その後ろから声がした「ミラぁあああああ!」モニカだ!彼女は妹が心配になり転移門を通過したのである。「うわ!モニカお姉!どないしたん!そんな泣き顔になって!」守衛のミラは泣きじゃぐるモニカに顔を近づけた。「ミラぁ!怖かったよぉ!あの子ごっつぅキツく脅してくるんやもん!」
2016-12-20 02:56:57「あら、あんたら姉妹だったの」オタマは二人を見ながら言った。「まあ、感動の再会の所悪いけど、ちょっと案内してくれない? あたしのマジカは道までは教えてくれないのよ」オタマは再び微細なマジカ線を放ちつつ二人に近づく
2016-12-20 03:00:27「う”ぅ、またあれだよぉ」「うわ、これはヤバイわぁ」守衛二人組は怖気つく。身体の周囲を高濃度マジカで歪ませながらオタマが笑いながら接近する。とその時、オタマは突如後ろを振り向き、超高速マジカ神経伝達をフルバーストさせて走り、オタマの後ろに突然現れた存在の手を掴んだ!
2016-12-20 03:02:45「あっ?」「えっ?」モニカとミラは何が起きたのか全く眼で見れなかった。オタマはその手を掴みつつ笑っていた。「さて、あんたがエイリアスが言ってた『存在しない存在』の正体ね。なるほど確かにこれは厄介な能力ねぇ」オタマが掴んだその手は、一人の美しいハイエルフの女性のものだ
2016-12-20 03:05:03「さあ、名を名乗りなさい。抵抗しようとは思わないでよ。あんたは既に負けてるのよ」オタマは笑顔のまま眼を細めて言った。「……テティスです」テティスは既に抵抗を諦めていた。オタマはテティスが存在同化を解除し麻痺魔法を発射しようとした時点で既に走り手を掴んでいたのだ。
2016-12-20 03:09:08まさに人外の神経速度だ。テティスは自身の脳内を検索し、オタマが所属するウェイレスト魔術師サークル(WMC)の長、イアスヤットが使う独自の魔闘術の事を思い出す。イアスヤットが使う魔闘術は肉体を極限まで魔法で強化し、人の領域を超越するものだ。この神経伝達もその応用だろう
2016-12-20 03:11:26そしてこの事はテティスが既に敗北している事をも意味している。もしテティスが何かオタマにとって不都合な行動を起こそうと決断したら、テティスがそれを行動に移そうとする前にオタマはマジカ感知でそれを捕らえるだろう
2016-12-20 03:15:34そしてマジカ神経で今テティスの手を掴む手から彼女にマジカを流し込み、テティスを殺せるのだ。これがマジカの怪物である。「さて、ではテティスさん。案内してもらえる?」オタマは笑っていた
2016-12-20 03:19:14テティスは絶体絶命の状況にも関わらず、冷静な表情を崩さず淡々と答えた。「わかりました。主の元へ案内します」「ありがとう。でももし何か罠があったら、少々苦しい目に遭ってもらうよ、けけけ」こうしてオタマはテティスと手を繋いだまま、ゼディス本部の先へ進んでいったのであった。つづく
2016-12-20 03:22:30