#ダークエルフ王国見聞録 クリスマス番外編

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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ある年の冬、調査のためダークエルフ王国の各地と学士院のある人間の国とを行き来していた私は、“山を覆う翼の熊鷹”氏族領の、西の里でしばらく過ごしていた。この里で行われる冬至の夜祭を見学するためである。そのまま里で新年を迎え、再び王都へ向かう予定であった #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:55:16
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久しぶりの我が家で旅の疲れをゆったりと癒している女戦士のセラをよそに、彼女の妹である少女は祭りの準備に大はしゃぎをしていた。環濠に囲われた里の中には、見張り台を兼ねる大木を含め、多数の樹が生えているが、それらが星や月を模った飾りで賑やかに飾られていく #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:55:30
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広間には丸太が組まれて大きな焚火を燃やす準備が為され、里の家々の前にはやはり飾り付けられた木と篝火の台が置かれている。家の女家長達は宴に出す料理の準備に追われ、司祭の長でもある里長は、係りの者に指示を出しながら広間で祭壇の準備に精を出している #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:55:46
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一年で最も夜が長い冬至の夜は、天の闇が大地へと最も近づき、地の中にある闇と交わることで、天と地にある闇の力が増幅される夜であるとダークエルフ達は信じている。黒の女神の末裔であり、闇の眷属であるダークエルフ達は、この冬至の夜を神聖なものとしている。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:56:09
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木々に飾り付けられた星や月の飾り付け、集落で焚かれる炎は、彼らの集落を天の星空に模したものだ。天の闇に遊ぶ精霊たちが彼らの集落に来訪し、天上と地下の闇が交じり合う魔力の脈の中に集落を位置付けようとする祈りがこれらの飾りには託されているのであろう。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:56:28
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短い昼が終わり、太陽が山々に隠れ夜の帳が下ろされていく。冷たい月の光と夜の空気がゆっくりと山々や集落へと天空から降りてくる。集落に用意された篝火が次々と灯され、温かい光と熱が集落を包み込んでいく。セラと共に、里の者達が集い始めた集落の広間へと向かう #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:56:42
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広間に用意された大きな木組みの焚火に火が入れられ、ボウッと炎が上り立つ。その灯りに照らされた中、祭壇の前に進み出た里長が、黒の女神を言祝ぐ言葉を唱え、主だった家長達が里長の言葉を繰り返していく。不思議な節回しの祝詞と錫杖の音、振り香炉の鎖の音が響く #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:57:04
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地に深く天に高くありて、あまねくものを包む闇の如く、御力で広く我らの氏族、我らの里を守り給えと祈りの言葉が里長から紡がれると、広間に集まった全員がそれを二度繰り替えして唱える。鈴が強く振られて音が空に響き、錫杖が力強く振られてその端が地を叩く #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 22:57:52
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祈りの儀式が終わると、控えていた笛や太鼓が賑やかに奏でられ、家々から持ち寄られた料理や酒が広間に並べられて宴が始まる。厳しい冬を目前に控え、しばらくハレの場のない里の者達にとって、この夜祭で大いに楽しむことが心の支えになっているのであろう #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:05:25
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旅の楽士や吟遊詩人にとっては、やはり来年の春まで最後の大きな稼ぎ時らしく、この里にも何人かがやってきている。また、保存が長くきかない食材はここで消費され、冬の狩りでの獲物を除けば、秋までに溜めた食料を基本として里は冬を越すことになるのである #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:05:38
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踊りや歌で楽しむ人々の中、ダークエルフの子供たちは大きな焚火の回りで暖を取りながら、毛布にくるまって空を眺めている。傍らのセラに尋ねると、彼らは流れ星を探しているそうだ 「流れ星は天と地をつなぐ魔導の脈の煌めき。冬至の夜に見ると幸せになれるのだぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:05:54
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昨日までの雪空と打って変わって今日の夜空は冬の透き通った空気が広がり、美しい星々が輝いている。小さな流星がすっと星々の間を流れるたびに、焚火に褐色の頬を橙に照らされた少年少女達はワッと歓声を上げる。今宵ばかりは彼らの夜更かしはとがめられないそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:06:10
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私も焚火の側で蜂蜜酒を飲みながら空を眺めていると、セラが何やら温めた飲み物を持ってくる。それを杯に注ぎながら、 「お前は忙しくなると酒ばかり飲んでいるじゃないか。体に毒だぞ。ほら、体を温めるならこれを飲め」と言って、杯を押し付けてくる #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:06:31
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うっすら黄色がかった白色の液体を飲み込むと、ほんのりとした辛味と甘さが飲み物の熱と共に口の中に広がる。生姜を砂糖漬けにしたものを砕いて温めた山羊の乳に溶かしたものであるようだ。二人でそれを一口ずつ飲み合いながら、星空を眺めていた。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:07:03
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流星探しの子供らがウトウトとし始めた頃合い、里長の指示により木の札が参加者達に配られる。これに願い事を書いて、広間の大焚火にくべるそうである。これは、天と地を巡る魔導の脈の中に、焚火の煙が混じり、彼らの願いが黒の女神へと届くという意味合いであるらしい #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:12:34
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狩人は狩りの獲物の豊かであることを、蜂飼い達は蜜蜂達が無事に冬を越すことを、子供らは素朴な贅沢や将来の夢を、母達は子らが健やかに育つことを願って木札に記すのであろう。祈りの形は異なっても、祈られることは、人も彼らダークエルフもそうは異ならない #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:13:21
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私も彼らに倣い、ダークエルフの習俗を調査し記録するという自身の仕事の成就と、セラの武運長久を願い事として札に記す。傍らで木札に何やら書き込んでいるセラに、自分の木札を見せて彼女は何を書いているのか尋ねる。私の書いた木札を読んでから彼女は答える #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:15:45
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「こ、これはこれで良い願いであると思うが、我が夫であれば、もう少し書くべきことがあるのではないか。た、例えば、例えばだぞ!二人がずっと幸せに一緒でいられますように、とかだな!」 自分の書いた木札を隠し、褐色の頬を真っ赤に染めながら、セラは言う #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:16:06
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二人で一緒に大焚火の前に歩み出でて木札をその中に投げ入れる。からんという音を立てて木組みの中に落ち、他の木札と共に炎に包まれる。炎から上り立つ煙が、私とダークエルフ達の願いを送り届けてくれることを祈りながら、私とセラは冬至の星空の下、家へと戻っていった #ダークエルフ王国見聞録

2016-12-23 23:19:48