クリスマスエドエュマ

途中で小説になるのだわ 中途半端なのだわ やっぱり地上で書くとダメなのだわ
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mkbt @mkbt

「クリスマスか、美女と過ごしたいものだがな」って言いながらも作家鯖の部屋(withナーサリーとジャック)で自分が用意した料理をふるまうデュマ なんだかんだ楽しんで「じゃあ寝るか、おう嬢ちゃんも早く寝な、サンタからプレゼントが欲しかったらな」って寝かしつけて、こっそり用意した

2016-12-25 01:07:59
mkbt @mkbt

クリスマス前に「私、おじさま達の話がみたいわ!」とせがまれてたので用意していたアンデルセンとシェイクスピアと一緒に書いた、2人のためのアンソロジーを枕元に置いて、自分の部屋に帰って寝ようとしたところでエドモンにつかまるデュマ

2016-12-25 01:09:12
mkbt @mkbt

エドモンの様子は普段と違っていて、その目は親に嫌われたくないと縋る子供のようだった 「あの2人のために物語をかいたのだな」「…ああ、せがまれたからな」父と同じ、そして自分と同じ赤い目が自分を射抜く。見覚えのある必死な目に思わず顔をそむけてしまう

2016-12-25 01:11:41
mkbt @mkbt

「なあ、」 その声色は普段の高笑いと格好をつけた口調と違うものだった。次の言葉はもうわかった。 (言われなくてもわかる。そこまで察しが悪いほどじゃないぞ、俺は)

2016-12-25 01:12:39
mkbt @mkbt

「俺のために、物語を書いてくれ」

2016-12-25 01:12:49
mkbt @mkbt

沈黙が支配する。デュマは目をそむけたまま、答えられなかった。軽率に答えては、傷つけるだけだ。 視界の端にうつったエドモンは、虐待を受けた子供のような泣きそうな顔だ。必死に言葉を手繰り寄せながら、デュマも口を開く。 「無理だ、お前のための物語なんて、俺は書けない」

2016-12-25 01:15:03
mkbt @mkbt

エドモンは目を見開いた。いつもの復讐者然とした雰囲気はもはやなかった。英雄などとは程遠い、か弱いものだった。 デュマは目だけで彼を見ながら、理由を告げる。 「生前、俺が作品をかいた時、それは俺の為だった。金のため、名誉のためだった。」 「……」エドモンは何も答えない。

2016-12-25 01:16:54
mkbt @mkbt

「そして俺は、親父のために作品を書いたこともあった。親父の名誉のために、ある種の復讐の為に。それは俺の為でもある。俺の憂さ晴らしだ。……もう言わなくてもわかるだろ、それがお前だ。」 「……」 エドモンが一歩、後ずさる。顔をふせ、何も言わずに。

2016-12-25 01:19:41
mkbt @mkbt

「あの2人に書いてやったのは、まあ、アンデルセンの誘いもあったからだし、どうせ手慰みだと思って書いてやったまでのことだよ。……でもな、お前は、お前という作品の続編を書くのはそんな軽い事じゃねえんだ。俺にとってな。」 エドモンは何も言わない。顔を伏せたまま、動かない。

2016-12-25 01:21:26
mkbt @mkbt

「金の為もあったが、お前は俺と俺の親父の為に、世間に出した作品だ。 死んだ今、お前の続きを書いても世間に出す事は出来ねえ。 ただの手慰みだ。そんな目的に使いたくねえんだ。わかるかエドモン、俺にとってお前は特別なんだよ。嫌いなんかじゃない。お前という作品が特別なんだよ」

2016-12-25 01:23:40
mkbt @mkbt

エドモンはそこで頭を上げる。その目は今にも泣きそうで、見開いた目は涙に濡れて潤んでいた。(ああ、なんて子供のような顔なんだ。今まで気づかなかった。こいつは子供なんだ、まだ伯爵を名乗れない、恨みつらみを貯めるだけの子供だ) エドモンが口を開く。震えた声だった。 「お前は、」

2016-12-25 01:25:20
mkbt @mkbt

「お前は、俺を作品としてばかり見て、俺という人格を見てくれないのか」

2016-12-25 01:25:39
mkbt @mkbt

デュマはなにもいえなかった。 その通りだ、と返すしかなかった。 「……なんだよ、それじゃ悪いか」 エドモンは何も言わない。 「だってよ、サーヴァントだろ、俺もお前も。生きてねえんだ。それに、お前には生前がない。何を配慮する必要がある。作品を作品だと言って何が悪いんだよ」

2016-12-25 01:26:48
mkbt @mkbt

「……そうか」 エドモンは顔を背けた。涙を腕でぬぐった。そして、 「じゃあ、生きてなかったら人権なんてないんだな。俺にもないなら、お前にもないんだな」 その声は今まで聞いた中で、一番冷え切ってて、一番熱を求めた声だった。縋る子供の声だった。

2016-12-25 01:28:30
mkbt @mkbt

視線が震えている。天からの糸に縋るという話を思い出す。ああ、いまこいつはそうなんだ。 「だったら俺も好きにさせてもらう。お前が俺の続編を書かないという選択をしたように。俺はお前に『復讐』する。」 暗い闇がデュマを覆う。 彼の意識はそこで途切れる。

2016-12-25 01:30:05
mkbt @mkbt

クリスマスの朝。 ナーサリーとジャックは三人が紡いだ本に喜び、楽しみ、そしてお礼を言うために、朝食のあとに作家達の部屋を訪れた。 「あら、あらあら?あのおじさまがいないわ。ねえ、知らない?」 シェイクスピアは「いいえ、吾輩も朝から見てませんぞ。」首を振る。

2016-12-25 01:31:50
mkbt @mkbt

三人のやりとりを思考の外に、アンデルセンは考え事をしていた。朝からエドモンとデュマが行方不明だとマスターが言っていた。このカルデアで隠れる場所なぞない。ロマニらが観測しているはずだ。レイシフトも無理だ。ではどこへ、どこへ消えた?生前の友人とその息子はどこへ?

2016-12-25 01:32:40
mkbt @mkbt

クリスマスの騒ぎに隠れながら、2人は消えた。 行き先はひとつの世界。悪夢のはて。かつて1人の男が刻んだ情景。かつて一つの作品が抱いた憧憬。かつて1人の男が描いた舞台。 ありもしない復讐のはじまりの地、監獄シャトーディフに。

2016-12-25 01:34:11
mkbt @mkbt

「クリスマスだ。世間はな。だがこの監獄にはそのようなものは訪れない。訪れなかった。わかるか、」 ここにいれば聖夜など来ない。ここにいれば誰も出られない。ここにいれば希望もない。プレゼントをもらえなかった子供などそもそも存在しない。だから、何の問題もないのだ。希望など抱けないのだ。

2016-12-25 01:37:27
mkbt @mkbt

「……お前は、」 縛られ、身動きをとれなくなったデュマは喋りだす。「お前は、こう言いたいのか? 『俺は孤独な復讐鬼だ、俺に救いなどなかった、ここに戻ってしまった俺は最初から救いなどなかった、だから諦められる』って」 エドモンは答えない。赤い目を伏せる。

2016-12-25 01:39:30
mkbt @mkbt

「ふざけんなよ、お前に救いを与えたのは俺だぞ、ファリア神父、エデ、メルセデス、他にもいただろ、それを捨てて復讐鬼に戻っただけでも頭がおかしくなりそうだ、そのくせ今度は一度断られただけで、「自分は救いを与えられるわけがない」の証明のために俺を巻き込んで引きこもりか。」

2016-12-25 01:40:45
mkbt @mkbt

エドモンは声を出す。か細い声だ。しぼりだすような声だ。 「……俺にはなにもない。この情景以外なにもない。『俺』には救いが与えられなかった。『俺』は永遠の復讐鬼のままだ。 『お前の作品』は救われた。だが、『俺』はここで途切れたままなんだ。」

2016-12-25 01:44:45
mkbt @mkbt

声は大きくなる。嗚咽まじりになる。「俺は『エドモン・ダンテス』になれない。俺は『アヴェンジャー』のままだ」赤い目が、赤い目がデュマにすがるように絡みつく。 「生前の作品じゃなくて、誰かのためじゃなくて、『俺』のために作品を書いてくれたなら、俺は『エドモン・ダンテス』になれたんだ」

2016-12-25 01:46:00
mkbt @mkbt

「……だったら、なおさらかけるわけがねえだろ」 理由はわかっても、書けるわけがなかった。同情こそすれ、こいつのために「モンテ・クリスト伯」の続編をかくことは、すなわち「エドモン・ダンテス」ですらない正体のわからない復讐鬼を、自分の作品として受け入れることに等しいのだ。

2016-12-25 01:47:34