KMD奥出直人教授による高等教育についての発言まとめ

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 奥出直人 教授による高等教育についての発言をまとめました。
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Naohito Okude @NaohitoOkude

最近TLやRTでアメリカやイギリスの高等教育の最先端を褒めるものが多いのでちょっと気になる。ハーバードやケンブリッジの教育制度が圧倒的に優れていることを認めた上での、高等教育に関する社会学的歴史学的なコメントを少しして起きたい。まず高等教育は誰のものかということである。

2011-02-28 00:00:01
Naohito Okude @NaohitoOkude

いうまでもなく資本主義社会を支配しているブルジョワジーのものである。社会主義では高等教育は人民のなかから能力を試験によって選抜する仕組みである。したがって卒業時の成績の順位が一生を決める。なので皆頑張る。卒業したらもう頑張らない。この手の高等教育は今回は議論しない。

2011-02-28 00:01:51
Naohito Okude @NaohitoOkude

ケンブリッジでもオックスフォーでもアイビーリーグでも、入学を許されるのは支配階級の子弟だけだった。幼年時から古典語を鍛えられ文章を鍛えられた生徒のみが入学を許可されたわけだ。社会が近代化してくると、支配階級以外も高等教育を求めるようになる。そこで大学の意味が代わり始める。

2011-02-28 00:04:49
Naohito Okude @NaohitoOkude

このあたりは『トランスナショナルアメリカ』に詳しく書いているが、支配階級の子弟ではない若者が「学力で僕たちを選抜してもらいたい」というアピールを始めるのである。だれもが認める学力とは結局は暗記で評価する筆記試験の点数だ。だが、それを認めると支配階級の子弟は入学できない。

2011-02-28 00:07:17
Naohito Okude @NaohitoOkude

そこで、民族グループ毎に入学の割合が決められたりした。これをクオーターと呼ぶ。さらに卒業しても就職先がない。オックスフォードやケンブリッジをでても就職はないのだ。アイビーリーグでも同じだった。アメリカでは1930年代、ルーズベルト政権の時に実力に応じて要職に登用した。

2011-02-28 00:08:55
Naohito Okude @NaohitoOkude

イギリスではサッチャー政権からではないか。フランスはブルジョア支配は1960年代に消えて、それ以降は実績主義で、いろいろな民族の人間が成績で要職に登用された。所詮暗記の試験で高い得点をとった人たちだ。アメリカでも同じだ。現在SATが高得点でないと上位大学に入れない。

2011-02-28 00:10:58
Naohito Okude @NaohitoOkude

その勉強を見ているとあまりにも表層的だ。イギリスもAレベルと呼ばれる試験には創造性のかけらもない。暗記だけだ。なのでケンブリッジなどでは独自のテストも課している。要するに支配階級の再生産の大学から、小手先で頭のいい子が入学できる大学へと変化している。

2011-02-28 00:13:04
Naohito Okude @NaohitoOkude

またこうして学力でのし上がってきた学生は人のことなど全く考えない嫌な野郎が多い。自分の立身出世しか考えていない。暗記市場主義で自己中心主義。不思議なのはこうしたむかつくような優等生がどこできちんとした教養と判断力と創造性を身に付けるのか、である。ここが不思議。

2011-02-28 00:15:27
Naohito Okude @NaohitoOkude

イギリスの大学は3年間なので、高校までに教養をみにつけていないとアウト。なのでケンブリッジでてます、といってもあんまり信用できない。アメリカは4年生で、大学にはいるまでは教養がないということを前提としている強烈な教養強化カリキュラムが入学後1年ないし2年続く。ここで変わる。

2011-02-28 00:17:41
Naohito Okude @NaohitoOkude

表層的な勉強しかしていないアメリカの高校生のうちSATで高い点をとった連中が一流大学に入り、1年か2年のうちに変貌する。それは凄いと見ていて思う。ヨーロッパは教養は家庭での教育を前提としている。IBではTOKという科目がそれに相当するが両親が知識人でないと家で教えるのは無理。

2011-02-28 00:19:48
Naohito Okude @NaohitoOkude

なので、ヨーロッパは高等教育での「教養」の低下が著しいと見ている。労働者階級からたたき上げてオックスフォード大学を卒業してケンブリッジ大学で教えていたテリー・イーグルトンですら大学の死をうれいている。イギリス人にはただのようだった授業料も値上げとなりストが勃発した。

2011-02-28 00:24:40
Naohito Okude @NaohitoOkude

実はイギリスの高等教育を巡る環境の変化に関してはちょっと期待することがある。現在の世界の大勢の不都合の多くはアラブもアジアもみな大英帝国のせいである。この大英帝国がついに消えようとしている。ここ1年くらいの話だが。アラブは爆発しアジアは経済的離陸が始まった。

2011-02-28 00:27:38
Naohito Okude @NaohitoOkude

イギリス人による世界支配の道具としての高等教育の根本的な見直しが始まると見ている。ではアメリカはどうか?憎らしいまでに「正しい」正統派教育をアイビーリーグなどでは行っている。だが、何のために?世界の人を幸せにするために?アメリカはやっかいなことにこれに対する答えを持っている。

2011-02-28 00:29:48
Naohito Okude @NaohitoOkude

アメリカ史ではマニフェスト・デスティニーというのだが、要するに世界に民主主義を普及させるミッションを担っているという考えだ。まあライシャワー氏の時代なら相だったかもしれない。余談だが、ライシャワー氏の日本観って彼の本を読んでみるとびっくりだ。遅れている国なので啓蒙すると言う。

2011-02-28 00:31:38
Naohito Okude @NaohitoOkude

その指摘している事実がいちいち気に障る。彼を讃える人は一度彼の本を読んでみるといい。さて話はもどって、民主主義を世界に普及させるためにアイビーリーグで必死に勉強をしている学生がどれほどいるか知らないが、まあ危害を我々に加えるほど多くはないだろう。ほとんどは自分の立身出世だ。

2011-02-28 00:33:14
Naohito Okude @NaohitoOkude

フェイスブックの創業者を描いた映画はさもあらん、という感じだ。ではなぜ、教養もあり勇気も寛容もそなえた人物になるのか。(フェイスブックのまわりの連中は寛容はないが、これがエリートの最も大切な要素で、これが無いとばれるのが恥じ、とはトム・ウルフが『虚栄の市』で描いて見せている。)

2011-02-28 00:36:38
Naohito Okude @NaohitoOkude

イギリスもフランスもドイツも教養を教えるのは家庭の仕事だ。アメリカでは大学の仕事になっている。そして点取り虫がいっぱしの人間になる。素晴らしいと思う。では何故日本では多くの点取り虫は点取り虫のままなのか。この状況を批判している人もまあ点取り虫のなれの果てが多い。

2011-02-28 00:38:18
Naohito Okude @NaohitoOkude

僕自身は慶應なので点取り虫としてのレベルは低いのでこういった発言をするのは気が引けるが、今のテストで良い点を取る教育がどうして悪いのかと思う。いまNUSの工学部の若手の教員を教える仕事をしているが、NUS工学部はランキングで世界10位くらいだ。一学年1200名。

2011-02-28 00:44:04
Naohito Okude @NaohitoOkude

そこから50名ほど選抜して特別クラスをつくった。それを教える教員にデザイン思考を教えた。学生の作業のメモやスケッチを見たが素晴らしい。頭のいい子は頭が良いのである。これは学力試験(暗記中心)で評価できる。問題はその次だ。

2011-02-28 00:45:57
Naohito Okude @NaohitoOkude

こんなに頭のいい子を集めておいて、なぜアメリカの様な教育が出来ないのか。日本の高等教育もひどいが、韓国も駄目だ。創造性もオリジナリティもない。台湾もだめだ。自分の力で考えられない。あ、学生の話ではなくて教員の話ね。中国も駄目。シンガポールも教えていて駄目な感じがする。

2011-02-28 00:47:24
Naohito Okude @NaohitoOkude

これは近代化を宿命とする、つまり追いつけ追いこせの教育システムの副作用かなあと思っていた。そしてインドも駄目だと最近解った。情けないくらい暗記による能力判定から先の展開がない。なにかもっと深いところに原因がありそうだと思い始めている。

2011-02-28 00:49:27
Naohito Okude @NaohitoOkude

それは植民地官僚育成教育という名の高等教育である。インドもアジアの諸国も近代国家というシステムを運用していくにはある程度の人数の合理的な判断が出来て読み書きが出来る人間が必要である。だがそれ以上は入らない。我々は高等教育とはこの水準までの人材をつくるだけだと思っていないだろうか。

2011-02-28 00:54:24
Naohito Okude @NaohitoOkude

いや、日本は植民地ではなかったという意見もある。植民地でもないのに植民地方式を喜んで採用して西洋にひれ伏したのが日本だというのが我が師鈴木孝夫の意見だが、それにはある程度の真実があるとしても明治からの日本の態度はそんなに悪くはなかったと思う。

2011-02-28 00:55:41
Naohito Okude @NaohitoOkude

僕は産経新聞社まわりの日本の教科書を考えるという人たちとは真逆の立場をとっているのだが、戦前の知識人は偉かったと思う。いろいろ考えていた。陸軍や海軍のインチキぶりはたしかにそうだが、でも結構考えていたと思う。

2011-02-28 00:57:11
Naohito Okude @NaohitoOkude

やはり大きく変わったのが戦後であり、アメリカ軍による日本支配時の教育体制の大変化だと思う。この変化に比べたら日教組の意見などささやかなものだ。この変化によって僕たちは戦前の知的伝統にアクセスできなくなっている。つまり漢字の改革だ。

2011-02-28 00:58:36