数の実在性についての対話

私の友人に実数は実在だが複素数は架空の存在だみたいな事を言ってる人がいた事を突然思い出して架空対話してみました。今年は科学哲学の本(啓蒙書レベル)を幾つか読んだのでその辺から影響されてもいます。
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dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「ほう,いまあなた『虚数は想像上の数だから存在しない』と,こうおっしゃいましたか?面白い,実に面白い.確認のために聞きたいのですが,あなたは『実数は存在する』とお考えですか?」

2016-12-16 23:38:41
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「そりゃ実数は存在するでしょ.何言ってるんですか」 「なるほど,あなたは『実数は存在する』と考えてるのですね.ではあなたは実数は『どこ』に存在すると考えていますか?」 「そりゃ身の回りのものは実数で測定できるんだから『あらゆるところ』じゃないですか?」

2016-12-16 23:44:43
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「実数で測定,ですか.あなたの言う実数というのは実は有理数なのでは?」 「なんか私のことバカだと思ってるでしょ.一辺の長さが有理数の正方形の対角線の長さを測ると無理数がちゃんと出てきますよ.それから,円周を測れば超越数だって出てきますよ」

2016-12-16 23:47:03
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「なるほど,では正方形の事を考えてみましょう.あなたは,一辺がぴったり一メートルの正方形が存在すると思いますか?」 「加工精度の話ですか?ゼロを何個つけられるか知らないけど,収縮性の低い材料でぴったりに作ることはできると思いますよ.日本の技術力は世界一ですからね」

2016-12-16 23:53:37
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「なるほど,そうしてできた正方形があったとして,それをずっとずっと拡大して見るとついには原子が並んでるところまで行きますね」 「私も詳しくないんですが日本の技術ならそんくらい行けると思います」

2016-12-16 23:56:37
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「さて,√2は無理数ですが,対角線上には整数個の原子しか並んでいませんよね」 「なるほど,なんとなく言いたいことがわかってきました.つまり√2は少なくともこの場合現実の正方形の中に見出すことはできないみたいですね」 「だとすると,先程の『実数はどこにあるか』はどうなりますか?」

2016-12-17 00:01:19
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「頭のなか……ですかね?」 「つまりいまあなたの頭を開けるとそこに『√2』という実数が入っている?」 「そんなわけないでしょう.そうじゃなくて,えーと,私の頭の中の『心の世界』の中です」

2016-12-17 00:03:00
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「つまり実数はあなたの心の世界の中の実在だということですか?」 「なんかムカつく言い方ですよねそれ.だって,その言い方だと『私の心の世界』と『あなたの心の世界』で異なる実数があることが許容されてるみたいじゃないですか.実数は実数ですよ」

2016-12-17 00:07:00
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「繰り返しになりますが,あなたは『実数が存在する場』は心の中だということは認めるんですか?」 「ええ仕方ないから認めますよ.でも実数みたいなものはみんな共通ですけどね.つまり考える人が違っても実数は実数です」

2016-12-17 00:09:44
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「わたしたち一人ひとりが異なる心を持つことは認めるんですか?」 「それを否定したら,わたしたちには個性も自由意志もないことになりそうですしね.ええ,わたしたちの心は一人ひとり独立しています」 「……たがいに独立した心を持つが『実数』は共通なのですか?」

2016-12-17 00:11:29
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「そりゃそうです.実数は現実ですからね」 「それじゃ蒸し返しですよ」 「……ああ,現実にないから『心の世界』に後退したんでしたっけ.もうすでに『心の世界』にまで後退しているので,実数が絶対的であることを言うために超越的なものは持ち出したくないなぁ」

2016-12-17 00:14:53
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「なるほど,実数が多くの人の心にまたがる共通の実在であることを認めさせるために超越的なものを持ち出すと負けになりますか」 「だってそういう議論を際限なく認めてたら古代人がなんにでも神様を持ち出して説明してたのとおんなじレベルじゃないですか」

2016-12-17 00:18:16
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「古代人がそんなに素朴な人たちだったかというのは疑問ですけどね」 「ちょっと待って下さい,古代人なんてどうでもいい.いま思いついたんですけど,『証明』です」 「何がですか?」 「わたしたちが共通の実数概念を持つことを言うためにさらに根源的なものを仮定しなくていいんです」 「ほう」

2016-12-17 00:20:20
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「わたしが実数について考えたことを形式的な証明にして書き下す.そして,他の誰かがそれを読んで理解する.これだけでいいんです.つまり実数についての発話と解釈が整合的に行われていればいいんです」 「なるほど,整合していることだけ論じれば『実在性』を論じなくていいというわけですか」

2016-12-17 00:23:03
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「なんか変なこと言いましたか?」 「いいえ,『実数が身の回りにある』という議論よりはかなり良いと思いますよ」 「まあ今のは思いつきなので,もっと精密に考えなきゃいけないんでしょうけど,実数の実在性みたいなことは私の中では解決した雰囲気になってます」

2016-12-17 00:25:30
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「なるほど,では虚数に話を戻しますが,もし複素数についての発話と解釈が二人の間で整合的に行われていたら,いまのあなたの議論の形式を転用すれば,それはつまり複素数の実在性が成立しているということになりませんか?」

2016-12-17 00:27:59
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「議論が整合していれば実在性の根源とかは気にしなくていいと言い出したのは私ですが,まさか複素数の実在性まで認める羽目になるとは思っていませんでした」 「納得はしていない……?」 「そりゃ,実数が身の回りのものを計測するために便利な道具なのに対して複素数はそうじゃないですから」

2016-12-17 00:38:02
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「『実在すること』と『実在感』は別の問題だというわけですね」 「あーなるほど,うまくまとめましたね」 「わたしたちは月や火星や金星を肉眼で見ることがありますが,もっと遠くの星,さらに遠くて暗い恒星などの存在を日々まざまざと実感しながら暮らしてはいないですよね」

2016-12-17 00:41:19
dif_engine@ワサラー団 @dif_engine

「私の専門が天文学で,日々私が電波望遠鏡で天空彼方の世界に親しんでいたらそういった遠い恒星たちのことが私の心の中で実在感を持っていたんでしょうね」 「複素数についても同じような事が言えます.日々複素数を使うような生活をしていれば複素数にも実在感が伴うはずです」

2016-12-17 00:44:07