脚本家・池端俊策 講演会「ドラマ『夏目漱石の妻』を語る」レポート
2016年9、10月放送
【脚本】池端俊策、岩本真耶
【出演】尾野真千子、長谷川博己
【受賞】ギャラクシー賞2016年10月度月間賞
脚本家 1946年広島県生まれ
主な作品:大河ドラマ『太平記』映画『復讐するは我にあり』『楢山節考』
2009年、紫綬褒章を受章
尾野真千子とは『足尾から来た女』『松本清張~坂道の家』につづく3度目のタッグとなる。
池端俊策氏による新春講演会「ドラマ『夏目漱石の妻』を語る」に行ってきた。東京で古い友だちと会い、駅で食事をすませたので噂の「ねぎしちゃん」には行けなかったけれど、代わりに仙台の牛タン網焼き「杜」というお店に入り、タン塩を堪能した(おいしかった!)。以下、真千子さんへの言及を抜粋。 pic.twitter.com/eC6sXgtNYJ
2017-01-14 22:17:371)『足尾から来た女』を尾野真千子さん主演でやった。尾野さんと仕事をしたのはそのときが初めてで、朝ドラを見ていい女優さんだなと思っていた。『足尾』では農家出身の、字の読めない女性を演じてもらったのだが、当時は字が読めない人がほとんど。
2017-01-14 22:22:072011年度下半期放送
【脚本】渡辺あや
【出演】尾野真千子
【受賞】ギャラクシー賞大賞、放送文化基金賞優秀賞、東京ドラマアウォード優秀賞・主演女優賞・演出賞ほか
2014年1月放送
【脚本】池端俊策
【出演】尾野真千子
【受賞】文化庁芸術祭優秀賞、東京ドラマアウォード優秀賞、ギャラクシー賞奨励賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞ほか
2)この女性は、東京でお手伝いさんをしながら、子どもたちが字を習っているのを見て羨ましく思う。そこで夜中に子どもの本をたどたどしく読んでいく。尾野さんのその時の表情が素晴らしかった。
2017-01-14 22:22:553)役者の仕事はその時その時の表情を作ることだと思う。字が読めることは素晴らしいが、同時に世の中での自分というものを知っていくことにもなる。尾野さんはその希望と不安がないまぜになった、素晴らしい表情をしてくれた。尾野さんという女優さんは、繊細さと強さをどちらも持っている。
2017-01-14 22:23:574)尾野さんと『足尾』のあと、二人で話をした。どんな役がしたいかと聞いたら、今度は、土にまみれて字が読めない役ではなく、男と女のきれいな役がしたいです、と言う。あなたは明治が似合うんだよなあ、と言ったら、明治でいいから男と女の話がやりたい、と答えた。
2017-01-14 22:24:515)柄本さんが尾野さんのことを「今No.1」と言ったけれど、『夏目漱石の妻』にあたり、尾野さんを推したらNHKは即座に「いいですね」と言った。尾野さんに、男女の恋愛ものと言ったのに、悪妻の役になって、どう言おうかな、弱ったな、と思いながら、一日一冊のペースで漱石を読み返した。
2017-01-14 22:25:096)漱石で嘘はつけない。大学の研究者たちが、嘘つけ!と声をあげたら、という恐怖があった。そんな中、孫の半藤末利子さんの文章に、鏡子さんが晩年に「いろんな男性を見てきたけれど、うちの人が一番よかった」と言った、とあるのを見て、「つまり好きだったんだ、これ恋愛じゃん」と思った。
2017-01-14 22:28:157)脚本を尾野真千子に渡したら、恋愛ものなので池端さんからラブレターが来た!くらいの気持ちで読んだみたいだったけれど、読んだらああいう話だったので「こういう感じかと思いました」と言っていた。本読みというのがあって、スタッフ、キャスト全員が顔を合わせ、演出家と脚本家が並んで聞く。
2017-01-14 22:30:208)「こういう役だけどごめんね」と言おうと思っていたら、尾野真千子は前の日映画の打ち上げだったとかで、髪も乱れてヘべレケというか、これでも女優か、という感じでやってきた。本読みもとてもテキトーだったけど、まあいいか、と思った。
2017-01-14 22:32:229)長谷川さんに関しては、プロデューサーから「蜷川さんの舞台で鍛えられているので、芝居はできる人です」と推薦されたが、尾野真千子さえちゃんとやってくれれば後はまあいい、と思っていた。最初の挨拶で長谷川さんが立ち上がった時に背が高かったので「違う」と思った。
2017-01-14 22:32:4910)「あなた背が高いから漱石の感じと違うんだよなあ」と言ったら、長谷川さんの顔から血の気が引いた。でも今さら変えられるわけもないので、実際に長谷川さんに演じてもらったら、結果的に素晴らしくてびっくりした。他にいなかったんじゃないか、と思わされた。
2017-01-14 22:33:4311)撮影中に見に行くと、尾野真千子は電子タバコを吸っていて、それを見せて仕組みを色々説明してくれる。「それがいいの?」と聞くと、「いいわけないでしょう!やっぱり本物が一番ですよ、だけどスタッフに迷惑がかかるから」と答えた。
2017-01-14 22:35:0312)(続き)「昨日飲んだんだけど、私はお酒が弱いからこれくらいしか飲めなくて」とか、今からお父さんの借金の証人になることを断るシーン、というその直前に、そんな話をしている。一方の長谷川博己は、黙って座っていて、具合でも悪いのかと思うくらいだった。
2017-01-14 22:35:5313)長谷川さんに聞いてみたら「漱石ですから。」ともう漱石になりきっている。現場に来た時からもう漱石。「僕はそうやって役を作るしかない」と言っていた。で、二人とも台本を持ってきていなかった。
2017-01-14 22:37:4914)二人とも、セリフを全部覚えたんだなと思っていたら、尾野真千子は「今日やるところは覚えてますよ、あとは全然」、長谷川博己は「4話の最後までないと役作りができないから、早く台本を下さい。ラストから逆算して芝居を作っていくから」と言う。
2017-01-14 22:38:2515)尾野真千子はその言葉を聞いて唖然とし、長谷川博己は「普通そうじゃない?」と言う、それを聞いて尾野真千子は怪訝な顔をする、という感じだった。その傍らで、舘ひろしが早く終わればいいな、という感じでウロウロしていた。
2017-01-14 22:39:1016)本番が始まると、父親の借金の証人になってほしいという頼みに対し、尾野真千子が手をついて涙を落とす。もうパーフェクト。電子タバコの話から5分も経ってない。ところが、演出家が、庭の風が足りないからもう一回、なんて言ってる。尾野真千子本人は、「やったやった」という顔をしている。
2017-01-14 22:39:40