ドゥーエの戦略爆撃理論

戦間期のイタリアの戦略理論家ドゥーエの思想について、簡単に解説。 当時から様々な議論を呼んだ戦略理論ですが、彼本人はそうした議論を歓迎し、決して感情的になることなく加わっていたそうです。
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名無し整備兵 @seibihei

さて、ドゥーエの理論について、昨日言いっぱなしになってしまったので補足。誰もメンションつけてこなかったので需要はないと思うが。

2017-01-15 11:45:20
名無し整備兵 @seibihei

結論から言うと、ドゥーエが戦略爆撃で破砕しようとしていたのは、敵国政府・国民の士気、戦意であり、それにより早期に終戦に持ち込むことを考えていた。

2017-01-15 11:46:40
名無し整備兵 @seibihei

彼はWW1以前から航空機に注目していたのだが、それを確信に変えたのはWW1の塹壕戦だった。戦争は長引くと悲惨なことになる。それを避けるにはどうするか。敵の首都や重要地域を占領してしまえばいいのだろうが、陸軍では通れない地形もあるし、前進を阻む敵軍もいる。

2017-01-15 11:49:49
名無し整備兵 @seibihei

しかし、航空機ならこうした障害を飛び越え、敵の中枢に直接打撃を与えることができる。中枢部を叩かれ、民間人の損害が多く出れば、敵は戦争継続を諦め、早期に講和に応じるだろう。ドゥーエはこう考え、戦略爆撃が迅速な勝利に貢献すると主張した。

2017-01-15 11:52:50
名無し整備兵 @seibihei

つまり、ドゥーエにとって破壊は手段であり、その目的は敵国民の心を折ることだった。彼による将来戦の描写では、開戦後すぐに戦略爆撃にさらされたフランスで、36時間以内に国民の騒動を起こし講和をするよう政府に要求する、という姿を描いている。

2017-01-15 11:56:36
名無し整備兵 @seibihei

ドゥーエが特異なのは、「敵国民の心を折る」ため、民間人をターゲットにすることを積極的に推奨していることだ。当然、この是非は当時からすでに議論になっていた。

2017-01-15 12:02:25
名無し整備兵 @seibihei

さて、ドゥーエがもっとも有名な「制空」を出版したのは1921年、第2版は1926年に出版されている。20年代の彼の予測は、その後のことを知っている現代人から見ると当然おかしなところはある。

2017-01-15 12:08:00
名無し整備兵 @seibihei

テクノロジーの発展の方向を見誤っていたことが一つである。ドゥーエは爆撃を主任務とした「万能航空機」を理想としていたが、その後の小型戦闘機の発展や、またレーダーのような早期警戒システムにより、彼が予測したような攻撃側空軍の一方的な有利はなくなった。

2017-01-15 12:11:07
名無し整備兵 @seibihei

それともう一つは、戦略爆撃による国民の士気への影響は意外と大きくないことが、実際の戦例から明らかになったことだ。もっとも、これには保留が必要かもしれない。

2017-01-15 12:12:09
名無し整備兵 @seibihei

というのは、ドゥーエは人口密集地への攻撃手段として「通常爆弾、焼夷弾、ガス爆弾」の3種類を「適切な割合」で使用するよう提言しているからだ。このため「ドゥーエの言ったとおりにすれば、もっと士気は下がったはずだ」という議論も論理的には可能である。倫理的にはともかく。

2017-01-15 12:15:22
名無し整備兵 @seibihei

ドゥーエの時代には核兵器はなかったので、それについては触れていない。しかしもしあったとすれば、それを最も惨たらしい方法で使うように提言しただろう。そうすれば早期講和に持ち込めて、戦争を長引かせるよりは犠牲が少なくなる「はず」だから。ガトリング博士以来繰り返されてきた議論である。

2017-01-15 12:17:46
名無し整備兵 @seibihei

WW2当時の英空軍や米陸軍航空隊は、当然ドゥーエの影響を強く受けていた。ミッチェルもガス爆弾の使用を提言したことがある。しかしその戦略爆撃の使い方は、その後の戦例やテクノロジーを反映したためか、ドゥーエの理論よりはもう少し物理的な破壊の方向に向いていた。

2017-01-15 12:22:27
名無し整備兵 @seibihei

特異な使用法としては、中国奥地から日本本土を爆撃する「マッターホルン計画」がある。これでは日本の政治・経済の中枢といえる東京や大阪を爆撃することはできない。しかし「中国の士気を維持し、連合国から脱落させないため」に実施された。結局ろくな成果は出なかったのだが。

2017-01-15 12:25:07
名無し整備兵 @seibihei

と、ここまで書いて「昔こんな理論があったね」でおしまいにすることもできるのだが、ドゥーエの理論に似たものが冷戦期に別の形で復活した。核抑止理論である。戦略核ミサイルは、かつてドゥーエが夢見た万能航空機のように、敵の中枢を破壊して大きな被害をもたらすことができ、迎撃は至難である。

2017-01-15 12:28:53
名無し整備兵 @seibihei

第一撃の核の炎で焼き払われた国が、WW2の日本やドイツのように国民の士気を維持し、年単位で戦争を継続することができるだろうか。このドゥーエの宿題に答えが出るような事態は今まで起こらなかったし、今後も起こってほしくはないものである。

2017-01-15 12:34:32
名無し整備兵 @seibihei

もう一つ、「戦争の早期終結には敵国政府・国民の意思をくじかねばならない」という点は、ワーデンの5リング・モデルにつながり、今でも重要視されている。しかし、その手段については、いまだに結論は出ていない。ケースごとに敵の重心を考えなければならないのだろう。

2017-01-15 12:37:20
錆猫 @Nyar_Horten

多分、空に限らず、攻撃手段が最も相手に影響力を及ぼすのは、損得勘定をそれなりの冷静さで行い得る攻撃前だと思ってみたり。攻撃後(から序盤)は彼我共に(民衆の)感情が優先されるじゃろから、敗色が明らかになるまでは泥仕合必至になるのかも(核の場合は話は別)。

2017-01-15 12:19:07
名無し整備兵 @seibihei

また「敵や地形に関係なく、直接敵国の中枢を叩ける」という手段が、再び出てきている。すなわちサイバー戦である。サイバー領域において敵の中枢をどのように叩けば「意志」を変えることになるのか。再びドゥーエのような理論がコンピューター上に現れてくるのかもしれない。

2017-01-15 12:41:30
ハーマン☆カァァァン! @herman__kahn

@seibihei サイバー戦の場合、攻撃者が存在の明示と、何らかの要求、意思表示をするのでしょうか?攻撃実施については沈黙、ただ相手国を致命的に混乱した状態に追い込み、それとは別の行動と合わせて目的を達成するという形になるとか?

2017-01-15 18:24:43
名無し整備兵 @seibihei

@herman__kahn 具体的にどうすれば有効かについては、正直まったく分かりません。ただ「我々はサイバー戦を仕掛けた」と明示するのは、自国民や国際世論の支持を得るには不利かもしれないですね。

2017-01-15 18:52:50
名無し整備兵 @seibihei

@herman__kahn 「この条件をのまなければサイバー攻撃を仕掛ける」という要求をする攻撃者はいるかもしれませんが、むしろテロ組織の手法になりそうです

2017-01-15 18:53:50
ハーマン☆カァァァン! @herman__kahn

@seibihei むしろ攻撃者の姿が見え難いという得難い特性を、自ら捨ててしまうことにもなるかと思います。とはいえNORADでも乗っ取れれば明示する価値はありそうですから…短期間の苛烈な戦争以上の戦闘を準備し終えた状況で、サイバー戦で軍事システムを機能停止させ、降伏を迫るとか?

2017-01-15 19:04:56
名無し整備兵 @seibihei

@herman__kahn またサイバー戦の利点は「敵国政府・国民の心理に直接圧力をかけられる」こともあるので、軍事システムだけではなく、ほかの行政サービスや情報通信等も同時にターゲットになるでしょうね

2017-01-15 19:11:06
名無し整備兵 @seibihei

連ツイしたら…腹が…減った…

2017-01-15 12:46:21