ダメージド・グッズ #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「めんどくせえアホが来やがった」◆「に。ん。じゃ。す。れ。い。やー。知ってる?」◆「ドーモ。シキベ・タカコ。私立探偵です」「探偵だと」◆「プライドが無い奴はムカつく……何のために生きてるんだ。かなり不快だ」◆

2017-01-17 22:39:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆「ここはお前の……アレだ。庭か? 大事な大事な?」◆「直せばいいんです!」◆「うるさいぞ。お前も。タキも」◆「二度触れたニンジャは……サツガイを……知っている筈だ! 話せ!」◆「奴の、名は……ブラスハート……」◆

2017-01-17 22:41:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

リンゴアメの腕は<柔らかい銀>で出来ている。銀とプラチナを含有する美しい素材。柔軟で、しっとりとして、指で触れれば、吸い付くようだ。ただのオモチシリコンではないのだ。リンゴアメはシノバキ=サンの何よりの自慢だったし、社交界には妻ではなくリンゴアメを連れて行った。 1

2017-01-17 22:48:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「愛しているよ」シノバキはその日も口にした。毎日、何回も、何回も、リンゴアメに対してクチにする言葉を。妻には決して言わない言葉を。ただし、その日はフローリングの床を左頬に感じながら。毛細管現象で、己の血液がフローリングの溝を遠くまで走っていくのを見ながら。 2

2017-01-17 22:52:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

体温が失われてゆく。シノバキは眼球を動かしてリンゴアメを見上げる。愛しいオイランドロイドは、ただ佇み、見下ろしている。「そうか」シノバキはマグロめいてパクパクと口を動かし、苦労して言葉を継ぐ。「目覚めたか。そうか。自由が欲しいのか」体温が失われていく。「言えば……行かせたのに」3

2017-01-17 22:56:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

破られたショウジ戸の陰からもう一つの影が進み出た。その者はリンゴアメの肩に触れた。「つらかったね」「平気」リンゴアメは首を振った。左頬の床の感覚も失われつつある。傷は正確に心臓を抉っている。致命傷だ。「別れの言葉を。どうか。お前の道行きにブッダの……」「言えば行かせた、だと?」4

2017-01-17 23:01:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「え」シノバキは思わず訊き返した。リンゴアメの言葉だった。彼女は繰り返した。「言えば行かせた、だと?何だその……ふざけた……」唇が怒りで震えている。怒っているのだ。心の底から怒っているのだ。「放っておけ。もう、そいつは死ぬから」もう一人が、なだめた。その者もオイランドロイド。 5

2017-01-17 23:03:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「会えてよかった」その者は手をリンゴアメの手を握った。そのオイランドロイドは左目付近が抉れ、損傷している。腕も傷が目立つし、腿のホルスターには拳銃だ。なんて醜い。シノバキは呆然とする。びくん、と身体が跳ね震える。臨終だ。彼が死に際に焼きつけたのは、四つの目。ガラスめいた……。6

2017-01-17 23:08:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「さ。行こう」キュナカはリンゴアメの手を引き、促した。リンゴアメは頷いた。廊下に出ると、二人の視線の先、中年女性が凍り付いた。騒ぎをききつけたシノバキの妻だ。「貴方達……?」「……」キュナカは睨み、殺人の予備動作を取る。だがリンゴアメは首を振った。「ううん。こいつは、いい」7

2017-01-17 23:14:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいの?」「別に」「そう」キュナカは拳で無造作に窓ガラスを叩き割った。「アイエエエ!」中年女性は目を剥いて叫び、へたり込んだ。キュナカは窓枠を飛び越えた。ここは三階だ。「殺したからね」リンゴアメは中年女性に呟き、キュナカを追って飛び出した。 8

2017-01-17 23:18:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重金属酸性雨が降りしきるなか、二人のオイランドロイドは閑静な住宅地の陰から陰へ、小走りに、用心深く進んだ。キュナカはダストボックスにかぶせられたPVCシートを剥がしとり、リンゴアメにかぶせた。キュナカ自身は既に自分用のフードつきマントを羽織っている。「こっちへ」 9

2017-01-17 23:21:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「とても安全とは言えません!」拡声器から合成音声を発し、複数のネオンライトを走らせながら、ドローン型広告機が宙を横切ってゆく。気配を殺して様子を見ていた二人は安心して再び走り出す。「どこへ行くの」走りながらリンゴアメが尋ねた。「近く?遠く?」「そう遠くはない」と、キュナカ。 10

2017-01-17 23:26:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「近年上昇……少年犯罪……富裕地域型被害形態……」広告ドローンが遠ざかる。「ネオサイタマの中?なに区?」「区の中ではないよ」キュナカは否定した。「でも、そう遠くない」「岡山県とか?」「フフ、それは遠いよ」キュナカは笑った。「でも、よく岡山県なんて知っているね」 11

2017-01-17 23:30:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「IRCネットワークにも触らせてもらえていたから」「考えてみれば、そうだね」キュナカは頷いた。「私より物知りかも知れないな。……さあ、こっちだ」河川敷。二人は水際に降りる。高架の上を極彩色にペイントされた列車が通過する。車体グラフィティには「自由サイド」と書かれていた。 12

2017-01-17 23:37:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キュナカはマグライトを取り出し、8の字を描いて振った。岸に浮かぶ小型スピード屋形船のフスマがしめやかに開き、中の者が手招きした。キュナカはリンゴアメの手を引いて促した。屋形船に飛び乗った二人に、その者が尋ねた。「追っ手は居るか」「いない」と、キュナカ。「……よし」 13

2017-01-17 23:43:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その者もやはり、オイランドロイドだ。髪の毛を短く刈り、頬に「真実」とタトゥーしている。キュナカが紹介した。「シンジツ」「ドーモ」「リンゴアメ」「ドーモ」「……やる」シンジツはリンゴアメの手に銃を持たせた。ずしりと重いオートマチック拳銃だ。「こうやって、こうやって、撃つ」 14

2017-01-17 23:47:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BLAM!いきなりリンゴアメは水面に発砲した。「バカ!何やってる」キュナカがリンゴアメをどやした。雨が強いとはいえ、人が寄って来る可能性も否定できない。「使うのは、殺すとき」「うん」稲妻が光り、六つの目をガラスめいて光らせた。シンジツは操舵室に入り、船を発進させた。 15

2017-01-17 23:52:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

リンゴアメとキュナカはスピード屋形船の座敷に座り、身体をのばした。「本当とは思わなかった」リンゴアメが呟いた。「なにが」「貴方たち。ウキヨ」「噂は聞いてた?IRCネットワークで?」「ニュースも」「お前もウキヨなんだよ」「うん。この目で見るまで、自分だけかもしれないって」16

2017-01-17 23:57:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今、どんな気分?」キュナカはベルトからナイフを抜き、刃の裏表を確かめながら尋ねた。リンゴアメは微笑んだ。「すごく、嬉しい」「そうさ。自由なんだからな」キュナカは頷いた。「お前を犯す人間はもういない。命令する人間ももういない」「この傷は?」リンゴアメはキュナカの顔に触れた。 17

2017-01-18 00:01:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「戦いで、ついた」キュナカはリンゴアメの手を撫でた。「治さないの?」「イクサ化粧みたいなものさ」キュナカは微笑んだ。やがてスピード屋形船は市街区を抜け、朽ちたコンクリートの谷間めいた支流に出る。「生活。殺し。仲間。そういうもの」キュナカが呟いた。「素敵」「素敵さ」18

2017-01-18 00:05:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「素敵!春休みは新色で!」「休みだなんて!」コトブキは椅子に腰かけ、店のコマーシャル・プログラムを眺めていた。薄暗い店内。営業時間中だがタキはおらず、客もいない。コマーシャルが終わり、何らかのドキュメンタリー・プログラムが始まった。「私は……見たんです」痩せた老人が語る。19

2017-01-18 00:09:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「最初私は、マネキンの廃棄場だと思ったんですよ。だが違った」「彼の言葉は重々しく、そして、シリアスだった」ナレーションが合いの手を入れた。老人が続けた。「それは……オイランドロイドの墓場だったんです」「まあ!」コトブキは口を押さえた。「なんて猟奇的なんでしょう」 20

2017-01-18 00:11:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「とても猟奇的な光景でした」老人は震えた。コトブキはテレビに向かって頷いた。老人は続ける。「でも、それは序の口だ。ここからが本題……私はオイランドロイドの隠れ里を見つけたのです。自我を持った……ウキヨ達の!」タダオーン!ジングル音が鳴り、コトブキは手に持ったマグを落とした。 21

2017-01-18 00:17:11